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第三者意見

MUFGは、前年の2015年にCSR重点領域を見直し、「お客さま本位の品質追求」「コミュニティへの貢献」「持続可能な環境・社会の実現」の3分野を選んだ。今年もこの3分野への重点的な取り組みを継続しており、本年はそれらの活動の手応えが中心として語られている。前年の見直しの特徴は、「お客さまの満足度の向上」をCSR活動の基本に据えた点で、企業として顧客に正面から向き合うことを宣言した形でもあった。

藤井良広

上智大学地球環境学研究科客員教授
一般社団法人環境金融研究機構代表理事 藤井良広

我が国でCSRが経営課題として本格的に扱われるようになったのは2003年。以来、MUFGをはじめ、日本の主要企業はCSRに積極的に取り組み、その体制整備から、実践活動、評価手順、そして改善へと、PDCAサイクルを回してきた。サイクルはすでに業務の中で定着している企業も多い。その意味で、P(計画:plan)の枠組みはほぼ完了したといえるだろう。MUFGも今回の報告を見る限り、トップメッセージから、各重点領域などでのD(実行:Do)の活動、報告による情報開示を含めたC(評価:Check)のプロセス等が仔細に記述され、「目新しさ」よりも「見慣れた安定性」が伝わる。将来に向けたA(改善:Action)を含め、PDCAサイクルは着実に回っているように思える。

CSR活動は、企業内でのPDCAの回転だけではとどまらない。筆者はCSR活動を企業価値の向上につなげるには、最大のステークホルダーである顧客(お客さま)にCSR活動の取り組みが十分に伝わるかどうかがカギだと思っている。その意味で、コミュニケーションの役割が大きい。MUFGの場合、「お客さまの声」が、店舗、コールセンター、はがき、ホームページ、アンケートなど、多様なチャネルを通じて吸収するモニタリング態勢を築いている。CSR活動が企業の自己満足に陥らず、お客さまをはじめとするステークホルダーの「信頼」向上につながっているかどうかを、日々確認できるコミュニケーションのサイクルが連動してはじめて、PDCAは機能する。

コミュニケーション力が強靭であると、企業に対する信頼度がぶれないお客さま(いわゆる「ロイヤル・カスタマー」)が増え、さらにそうしたお客さまの声が、業務の改善や新たなビジネス展開につながる可能性も高まる。今回の報告で示されているお客さまアンケート情報では、「満足」「どちらかといえば満足」の合計が、MUFG全体の金融機関で6~7割を占めている。CSR活動の基本である「お客さまの満足度の向上」の手応えは出ているといえよう。

お客さまが企業を信頼する最大のポイントは、当然のことだが、企業が提供する商品・サービスである。その次のポイントは何か。いくつかの答えが浮かぶ。筆者はその組織の「人間の顔」が見えるかどうかではないか、と思う。言い換えると、商品・サービスを提供する人たちへの信頼度である。企業の中にいる人々が、自分たちと同じ目線で日々、どう対応し、どう働いているのか。

MUFGの従業員への取り組み施策では、傘下の各金融機関を通じて、育児休業制度や育児短時間勤務制度、介護休暇などの実績を開示している。これらの制度を実施する企業は多いが、実績を経年的に開示している企業はまだ少ない。かつ、開示実績をみると、大半が「安定的に増加」している。本年に入ってからも、三菱東京UFJ銀行で在宅勤務制度を導入し、時差出勤や残業縮小対策などにも本腰を入れて「働きやすい職場」づくりを目指す方針を発表している。

従業員ひとり一人がワークライフバランスとして、家庭生活とビジネスを両立できる仕組みがあると、優秀な人材はその組織に残り、育つ。PDCAが好循環で回るカギの一つは、こうした仕事に誇りを持つ社員が何人いるかという点にある。怖いのは、少数による不祥事が、当該組織が長い間にわたって築き上げた信頼度を一気に壊してしまうことだ。一人ひとりの自覚は当然だが、組織的な担保の仕組みも必要だろう。

本業を通じた環境負荷低減策として、以前から注目しているのが、三菱東京UFJ銀行が2005年度から実施している「融資を通じたCO2削減対策」事業である。再生可能エネルギー事業や省エネ事業等への融資による年間CO2削減効果は過去最大の25万トンとなり、累積の削減量もほぼ100万トンに達した。銀行が融資先のCO2排出量の削減効果を融資判断に入れる取り組みは、ESG分野を通常の事業評価と統合する金融機関の取り組みとして先駆的で、かつ着実な実績をあげている。

温暖化関連事業の市場は、国内だけでなく、今後、途上国にも大きな広がりが期待される。また、地球の気温上昇を2℃以下に抑制するパリ協定の採択を踏まえると、金融機関には今まで以上に、温暖化対策の分野に資金を誘導する役割を求められる。CSR重点領域と位置付ける「持続可能な環境・社会の実現」は、CSRのESG評価と本業拡大の統合活動領域であり成長領域でもある。MUFGには、これまでの知見と実績を生かして、この分野で日本の金融界を率先するリーダー役を果たしてもらいたい。

(2016年7月現在)

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