CEOメッセージ

シンプル・スピーディー・トランスペアレントなグループ一体型の経営をめざして 「MUFG再創造イニシアティブ」を通じて日本と世界の健全な発展を支え、ステークホルダーの皆さまとともに持続的な成長を実現していきます。取締役代表執行役社長 グループCEO平野 信行 シンプル・スピーディー・トランスペアレントなグループ一体型の経営をめざして 「MUFG再創造イニシアティブ」を通じて日本と世界の健全な発展を支え、ステークホルダーの皆さまとともに持続的な成長を実現していきます。取締役代表執行役社長 グループCEO平野 信行

世界、そして日本で起きていること

昨年度は、世界の政治・地政学的状況に大きな変化が現れ不確実性が高まるとともに、地域の内外で不均衡が顕在化し、金融においても市場の振幅が激しくなるなど、的確な情況の把握と迅速な判断が求められる一年となりました。

何故、BREXITが英国民によって選択され、何故、トランプ政権が米国民の手によって誕生したのか。背景は同じではないにしても、社会的な課題に対する適切な対応が図られておらず、その結果社会的分断が生じています。そして、多くの企業経営者を含むエスタブリッシュメント層がそうした大きな変化を正しく認識していなかったことを、私たちは重く受け止める必要があります。

幸いMUFGの母国市場である日本は、ここ数年政治・経済・社会のいずれにおいても安定的な状況を続けてきました。

安倍政権は、かつてのような頻繁な政権交代による指導力の欠如が必要な対策の実行を遅らせるといった日本の政治状況を変えることに成功し、日本経済も5四半期プラス成長を続けています。
社会も、世界の多くの国・地域と比較すれば安定しています。

しかしながら、さほど遠くない将来に顕在化することが予見される構造的な問題を抱えており、足元の課題とともに、将来に続く課題にも、早急に取り組む必要があります。足元の課題とは、デフレが永く続くなかで生じた企業と家計の縮小均衡指向、世代間格差等の社会的不均衡、財政の悪化であり、将来に続く課題とは少子高齢化・人口減少に伴う社会の持続可能性に対する深刻な懸念です。実際には、これら二つの課題群は相互に関連しており、後者の社会の持続可能性への疑念は、前者の結果とも言えます。従って、後者を念頭に置きつつ、前者の解決に迅速に取り組む必要があります。

日本は、先進国・新興国の如何を問わずいずれ世界の国々が直面するであろう課題に、先陣を切って取り組まなければならず、ベストプラクティスを提示することが国際社会における日本のリーダーシップの確立に寄与することは間違いありません。そうした文脈で提起されたのが「ソサエティー5.0*1」であり、デジタルイノベーションを、単に経済活動領域にとどめず、国民の福利と社会改革に繋げようという日本ならではのアプローチとして、金融を含む全ての産業の協働が求められています。

世界経済に目を転じれば、全体として回復基調にあることは間違いありません。しかしながら、ここ数年話題となったセキュラースタグネーション*2を覆すような持続的成長が可能なのか、また足元でそれぞれの地域・国が抱えるさまざまな課題に適切に対処することが可能なのか。また、テロの脅威が社会・政治の不安定化に繋がるリスクに加え、日本の隣国における核武装化の脅威が現実のものとなっており、こうした状況の深刻化が与える世界・地域社会・経済への影響についても留意が必要です。

  1. *1 政府の「総合科学技術・イノベーション会議」が、「第5期科学技術基本計画」(2016年1月閣議決定)で取り上げた重要テーマの一つ。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く第5段階の社会「超スマート社会」に向けた取り組み。IoT、人工知能の活用などにより複雑化する社会課題を解決し、社会・国民の豊かさの実現をめざすもの
  2. *2 経済が、需要不足や貯蓄過剰、あるいは潜在成長率の低下といった構造的な要因によって長期的に停滞し、自然利子率の低下により伝統的な金融政策が十分に機能しない状態に陥っているとする考え方

金融事業を取り巻く環境

これまで述べた大きな変化のなかで、金融もまた足元の、そして将来に続く課題に直面しています。前者の中で最大のものは、低成長からの脱却が容易に進捗しないことに伴うビジネス機会の制約とマイナス金利を含む低金利の継続です。加えて、世界最大の経済圏である米国が保護主義的な政策を選択するならば、グローバルな貿易・投資活動が停滞し、世界経済の成長への制約要因となるでしょう。それはまた、先進国における前例のない金融緩和からの出口を遠ざけ、低金利という金融機関にとっては最も厳しい状況からの脱出を困難にするという悪循環に繋がります。

一方で、後者の将来に続く課題の代表格とも言えるデジタル革命の大きな波は、脅威と機会を同時に提供しています。対応のスピードが遅れれば、新規参入者による既存ビジネスへの侵食を許す一方、オープンイノベーションにより大胆に革新的な技術やビジネスモデルを取り入れることに成功すれば、既存の金融機関がお客さまフレンドリーでありかつ生産性の高い新しい金融機関に生まれ変わることも可能なはずです。

こうしたデジタライゼーションは、先に述べたソサエティー5.0がそうであるように、少子高齢化・人口減少という社会的課題に対する金融機関としてのソリューションの提供にも繋がるという意味で、きわめて重要です。

昨年度を振り返って

こうしたなかで、昨年度は、日本国内におけるマイナス金利政策の影響と昨年11月以降の米国長期金利上昇が、私たちの国内リテール・法人ビジネスと外貨ALM運営に大きな影響を与え、多くの事業分野が減益となりました。

事業分野毎に見ていくと、まずリテールは、コンシューマーファイナンスが増加トレンドを維持し、金利の低下を受けて住宅ローン需要も強含みで推移したものの、円預金収益と運用商品が大幅に落ち込んだ結果、減益となりました。「貯蓄から資産形成へ」に向けたさらなる改革が必要です。また、三菱UFJニコスは、2期連続の赤字決算となりました。今期以降の業績改善に向けた構造改革費用の計上が主因です。今後は、同社を決済事業のプラットフォームとして位置付け、グループ横断的な資源投入を行います。このため100%子会社化することを決定しました。アコムの赤字は、利息返還請求の減少ピッチが想定より鈍化していることから、追加引当を実施したためです。

法人事業も、貸出・預金収益の減少を主因に減益となりました。希薄化回避の傾向を強める上場大企業の資本性資金ニーズを捉えたハイブリッド貸出が増加したことなどもあり、貸出利鞘は下げ止まりつつあります。また、前期から開始した日系企業に対する国内外一体運営が成果を上げはじめているほか、政策保有株式売却も計画を上回るペースで進捗しています。しかしながら、長期的な減益傾向に歯止めをかけ、再び成長軌道に乗せるためには、貸出を基軸とする資金収益依存型の事業モデルの変革など、思いきった手を打つ必要があります。

国際事業は順調に拡大しました。米州MUFGホールディングスをはじめとした米国事業は、新CEOのリーダーシップのもと、コーポレートバンキングにおけるセグメント戦略やクロスセル率の引き上げ、リテール・コマーシャルバンキングにおける体制再構築に加え、経費削減策でも成果を上げています。タイのアユタヤ銀行も資産の質を維持しながら、順調に業容を拡大しており、4大銀行に次ぐプレゼンスを固めつつあります。今後の大きな課題は、グローバルガバナンスの強化、米国における規制対応並びに関連コストの適切な管理、出資とネットワークの見直し、事務・システムプラットフォームの整備です。

受託財産事業は、日本市場における厚生年金基金の解散、市況影響による投信市場冷え込みを主因に減益となりました。しかしながら、グローバル・インベスターサービス*3は過去4年で大幅に拡大、ヘッジファンド、プライベートエクティ、米国40 Acts*4などフルラインアップのファンド管理サービスが可能となり、今後は受託先の拡大・コスト削減による収益増強フェーズに移ります。一方、グローバル・アセットマネジメントでは現行の中期経営計画で想定したインオーガニック投資が実現できておらず取り組みの強化が必要です。

市場事業は、変化の大きかった分野です。セールス・アンド・トレーディングでは、傘下の商業銀行・証券会社の一体運営を国内外で開始しました。その効果も寄与し、金利関連を中心とする国内での減益を、欧米亜各地域での増益が上回り、海外収益比率が50%を超えるに至りました。一方、バンキングALM*5は期前半こそ好調を維持しましたが、円金利の調整局面入り、外貨では昨年11月以降の米国金利上昇とその後の不透明感が強い状況への対応のため、残高圧縮・デュレーションの短期化による大幅なポジション圧縮を実施しました。この結果、前期収益はリテールに次ぐ大幅な減益です。当面の課題はバンキングALMの安定的収益確保に向けたポジションの再構築にあります。

  1. *3 外国籍投資信託の管理やお客さま有価証券の管理業務
  2. *4 米国の1940年投資会社法(The 1940 Investment CompanyAct)に基づく公募ファンド
  3. *5 貸出などの資産と預金などの負債に内在する資金流動性リスクや金利リスクなどを総合的に管理する業務

今後の事業運営に向けて

2017年度は、現行の中期経営計画の最終年度です。財務目標である各指標のうち、経営の基礎となる健全性指標(CET1比率)は目標達成を見込むものの、経営環境の変化もあるなかで、成長性指標(EPS)および収益性指標(ROE、経費率)の達成は困難な状況と言わざるを得ません。また、来年度以降については、次期中期経営計画の議論をこれから本格化していきますが、バーゼル規制の見直しやTLAC規制*6の導入など、今後、国際金融規制が本格的に適用されることから、投下可能な資本は一段と制約されるとが予想されます。

こうした制約のもとで、資本をより効率的に活用すべく、リスク・リターンをより意識した、規律ある運営を行うとともに、「健全性確保」と「株主還元策の充実」双方にバランスの取れた資本政策を実現し、安定的に資本コストを上回るROE水準をめざしていくことが、次期中期経営計画の重要テーマです。このためには、特に商業銀行業務における資産効率(RORA)の改善のための枠組みを構築するとともに、次に述べる「MUFG再創造イニシアティブ」の具体化も含め、持続的な成長に向けた不断の取り組みを行っていく必要があります。

  1. *6 Total Loss-Absorbing Capacity(総損失吸収力)の略でG-SIBsに適用される資本関連規制の一種

伝統的な商業銀行業務を中心とするビジネスモデルは現状のままでは
最早持続可能とはいえない

MUFG再創造イニシアティブ

現行の中期経営計画は、10年後を見据え、予見される社会・経済の構造的変化に対応するために、「お客さま起点・グループ起点・生産性向上」をキーワードに大胆な変革をめざすものであり、その方向感に誤りはありません。しかしながら、環境の変化は予想を上回るものであり、変革の加速と一層の深化が必要です。

すなわち、第一に、世界的な超低金利と低成長の継続によって、既存事業のトップラインは当初の計画を大幅に下回ること、第二に、国際金融規制の導入によって、事業展開に必要な資本・流動性への制約が強まる一方、規制対応コストは上昇すること、第三に、デジタライゼーションは予想を上回る速度で進展しており、新規参入企業による侵食が脅威となる一方、金融機関の事業改革に大きな機会を提供するものであることから、伝統的な商業銀行業務を中心とする私たちのビジネスモデルは現状のままでは最早持続可能とはいえない。こうした危機感とも言うべき問題意識から、MUFGでは昨年夏以来、傘下の事業会社横断的なプロジェクトチームを立ち上げ、グループの事業並びに組織運営を根底から見直す作業を行いました。その結果が、今後の事業戦略の方針を示す「MUFG再創造イニシアティブ」です。

今後次期中期経営計画を策定するなかで、「MUFG再創造イニシアティブ」で提示したマクロ方針の具体化・詳細化を通じて変革の第二フェーズをスタートさせます。テーマは「シンプル・スピーディー・トランスペアレントな経営への転換」です。

「MUFG再創造イニシアティブ」の概要は別途記載のとおりですが、その柱は4つで構成されています。第一は、グループ一体での顧客・事業軸運営です。従来、MUFGは、事業形態(「業態」)ごとに各分野でトップ企業をめざすことでグループ全体の競争力を高めることを運営上の理念としてきました。しかしながら、私たちに求められるのは、個人・法人・機関投資家等を問わず、お客さまの課題に対して最適なソリューションを提供することであり、それが企業の社会的使命でもあります。傘下の事業会社が独立的に事業運営を行うのではなく、お客さまのニーズを起点に各社が持つ機能・商品・サービスを業態横断的に自在に活用し、ソリューションを構築し、提供できる態勢をつくることが必要です。

そのためには、お客さま接点の再構築と必要な機能の再強化を行わなければなりません。前者を実現するためには、例えばグループとしてのお客さま接点をよりシンプルに一元化することが考えられます。また、後者については、機能の重複を解消し、傘下各社の使命を明確化することによって、当該事業の競争力強化に注力できる体制を整える必要があります。ウェルスマネジメント事業におけるグループ横断的な新ブランドの創設、グローバル企業に対する銀信証一体となったマーケティング・プラットフォームの構築、信託銀行が担うグローバル・アセットマネジメントにおけるマジョリティ出資によるインオーガニック展開、三菱UFJニコスの決済プラットフォーム事業などがその例です。

第二の柱が、デジタライゼーションです。デジタル戦略の成否が金融機関の将来を左右することは明らかです。大きく三つの領域で取り組みを進めます。一つ目は、お客さまの利便性向上に繋がる新しいビジネスの創出。モバイルによるシンプルで分かりやすいお客さま体験の提供はもちろんのこと、キャッシュレス決済、住宅ローンのデジタル化、データ活用によるマーケティング能力の向上などに取り組みます。二つ目は、業務プロセス改革。フロントからバックオフィスに至る一連の業務プロセスにデジタル技術を導入することで、業務量の30%(人員換算で9,500人分相当)の削減をめざします。三つ目は、国内外でのチャネル変革。非来店型のサービスチャネルを拡充する一方、実店舗はヒューマンコンタクトが不可欠なアドバイザリー業務特化型を含む次世代型の店舗への転換を進めます。業態一体型チャネルの実現も容易になるでしょう。デジタル化を進める上でもう一つ重要なのが、設計・開発手法の変革です。安定性・堅牢性は社会インフラである金融にとって引き続き重要ですが、お客さま・社内を問わず優れたUI/UX*7がより求められる領域においては、「アジャイル*8」な手法に挑戦し、それを常態化する必要があります。基盤も同様であり、クラウドへのシフトを進めます。

第三の柱は、生産性の向上です。現行の中期経営計画で掲げたヒト・モノ・カネの生産性向上をさらに加速するため、デジタル化による要員の最適化に加え、働き方改革や、業態を超えた人材活用・共通プール化といったヒトの施策、モノ・カネの面ではリスクアセット・流動性・コスト対リターンの管理高度化といった施策に取り組みます。さらに、国内外にわたる既存出資の戦略性を再点検することにより、投資の圧縮あるいはより戦略性の高い案件への入替を進め、ROEの改善に取り組みます。

第四の柱が、最適な経営体制の再構築です。顧客軸運営強化の前提となるセグメンテーション見直しでは、商業銀行の国内におけるリテール&コマーシャルバンキングの統合、日系大企業・グローバルコーポレートそれぞれのグローバル運営への転換を図ります。重複機能の統合・各事業会社の使命明確化では、法人貸出等業務を商業銀行に集約するとともに、資産運用を今後事業の中核に位置付ける信託銀行による三菱UFJ国際投信の100%子会社化、先に述べた三菱UFJニコスの100%子会社化などを実施します。また、グループ一体運営を国内外に明示するために、ブランドの統一を図ります。商業銀行社名の日本における「三菱UFJ」、海外における「MUFG Bank」への変更はこうした戦略に沿ったものです。これらは、いずれもシンプルでトランスペアレントな経営をめざすための変革です。

これらの戦略によって、7年で営業純益3,000億円の増益効果をめざします。内訳は、増益効果1,800億円、コスト削減が1,200億円であり、後者の多くはデジタル戦略によって実現させます。この数値は、約70の個別施策について一定の幅で見積もられた数量的効果・実現可能性・時間軸を勘案し、積算したものです。お客さま本位の業務運営を追求しつつ、業務プロセスの効率化やコスト管理にも注力し、双方を踏まえた手数料等の見直しも行います。これらの施策には実現に相応の時間を要するものも多く、今後、いかに確度を高めスピーディーに実現することができるかがポイントです。

  1. *7 UI (ユーザーインターフェース)とUX(ユーザーエクスペリエンス)の略。サービスの使い勝手、それから得られる体験や価値
  2. *8 「素早い」「俊敏な」という意味の英語で、例えばソフトウェア開発においてより短いサイクルを反復することで期間、コストを最小限にしつつ、ユーザー側のニーズ等に柔軟に対応することを可能にする手法
MUFG再創造イニシアティブ

取締役会をさらに多様化。
次の課題は後継者母集団の拡大、社外取締役の後継者計画

ガバナンスの進化

企業がさまざまなステークホルダーの期待に応え、持続的成長を遂げるためには、透明性の高いガバナンスのフレームワークの整備と運用の充実が必要です。MUFGは、発足以来、社外取締役の多様化、任意の委員会設置などを進め、一昨年には持株会社が指名委員会等設置会社に、昨年度は傘下の主要三社が監査等委員会設置会社に移行しました。とりわけ上場会社である持株会社は、グループガバナンスの要であり、取締役会における議案の絞り込みと各議案の審議時間の確保、資料の簡素化と論点の明示、社外取締役への情報提供の充実、オフサイト戦略会議の開催、加えてリードディレクター*9主導による傘下事業会社の取締役会とのコミュニケーション実施、米国中間持株会社の社外取締役との協議、さらには監査委員会と傘下各社の監査等委員会の協議など、さまざまな取り組みを行ってきました。また、先に述べた「MUFG再創造イニシアティブ」検討の過程においても、社外取締役との間で進捗状況の報告と議論が重ねられ、その内容は一層踏み込んだものとなりました。

こうした取り組みの結果、取締役会評価は多くの項目で改善しましたが、取締役の構成については、早い段階からさらなる充実が必要との認識で一致していました。特に、当社の事業がグローバル化し、株主・収益・従業員のいずれにおいても約40%が海外に帰属するに至ったことから、外国人取締役の起用が喫緊の課題であり、今回の定時株主総会における外国人社外取締役2名の選任に繋がりました。トビー・マイヤソンはクロスボーダーのM&Aに精通した弁護士であると同時に、当社米国現地法人のリードディレクターを兼務しています。また、タリサ・ワタナゲスはタイの元中央銀行総裁であり、金融・経済に関する専門的な知見を有しています。この2名は、海外において米国・アジアを戦略的市場と位置付ける当社にとって、まさに相応しい人材です。

もう一つの課題は、後継者計画の充実と次世代経営者の育成です。本年5月に商業銀行の頭取が健康上の理由から任期半ばで退任するという事態が発生しました。大変残念な出来事ではありましたが、一昨年以来、後継者計画の枠組み整備が進み、不測の事態に備えたコンティンジェンシー・プランと通常の後継者計画をそれぞれ策定する方向が固まっていたことから、早い段階から指名・ガバナンス委員会で審議を重ねることで必要な準備を進め、大きな混乱を回避することができました。今後は、後継者の母集団の拡大、「次の次」を含む次世代育成プログラムの策定などに取り組む予定です。

社外取締役の後継者計画も課題です。今回の外国人取締役2名の起用により、経験・専門領域・地域的多様性においてバランスの取れたメンバー構成が実現しましたが、固定化を避けつつこうした姿を維持するのは容易ではありません。適格要件の明文化・継続年限の設定の是非も含めて、今年度審議を行います。また、傘下の事業会社のガバナンスに関連して、各社の相談役・顧問制度のあり方についても、指名・ガバナンス委員会で検討を進める予定です。

  1. *9 独立筆頭社外取締役

日本に軸足を置き、グローバルに活動する金融グループとして果たすべき役割は何か。
真剣に考え行動することが求められている

事業活動を通じた環境と社会への取り組み

冒頭述べたとおり、社会の課題、とりわけ国内の少子高齢化・人口減少に伴う持続可能性に対する懸念に対し、日本に軸足を置く金融グループとして果たすべき役割は何か。あるいは近年、世界各地で起きている自然災害の一因と言われる気候変動に対し、グローバルに活動する金融グループとして何ができるか。こうしたことを真剣に考え、行動することが、今、私たちに求められています。

企業が、事業活動を通して社会的課題への解決策を提供し、共有される価値を創出することを、その存立の目的とすべきであることは、今や多くの経営者によって合意されており、昨年、日本の金融庁もこの考え方を行政方針の中で明示しました*10。日本においては、数百年前からこうした考え方が存在し、近江商人の信条である「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」はその典型と言えるものです。また、ESG*11の考え方は企業を評価する視点として定着し、企業はESGの環境・社会要素を特定し、事業創造やリスクマネジメントに取り組むことを求められています。

MUFGもこうした考え方に共鳴し、環境・社会への貢献を事業活動の中で展開することを重視しています。

社会への貢献という意味では、それぞれの事業領域で日本経済の活性化・持続可能な社会の構築に向けた取り組みを行っていますが、インベストメント・チェーンの高度と中小企業の支援はとりわけ重要です。

インベストメント・チェーンにおいて、MUFGは運用機関と販売会社という二つの機能を担っており、それぞれの領域においてわが国最大級の規模を有しています。前者においては、信託銀行が、主に年金制度における受託者責任のあり方に関する長年に亘る真摯な研究と実践をベースに、スチュワードシップ・コードに準拠した運用者としての活動方針の策定や利益相反の回避、さらには議決権行使基準の策定・公表や行使結果の個別開示などにおいて、ベストプラクティスの形成に努めてきました。「MUFG再創造イニシアティブ」において信託銀行が資産運用を事業の中核に据え、グループ内の投資信託運用会社を100%子会社化するのもこうした流れに沿ったものです。また、後者に関しては、グループ各社がフィデューシャリー・デューティー方針の策定と数値目標の設定において、業界をリードする役割を果してきました。「貯蓄から資産形成へ」は、日本において大きな政策課題であり、息の長い取り組みが必要です。私たちは、今後も若年層から社会人まで幅広い層に向けた投資教育プログラムを展開していきます。

日本国内における中小企業支援・育成も、長い歴史の中で日々の事業活動の中に定着しています。例えば、取引先企業のニーズに応じて、当社のお客さまの中からパートナー企業を抽出し紹介する大規模商談会(ビジネスマッチング)は、既に14回を数え、延べ37,000社、77,700件の商談が行われました。日本の産業が、高い技術力を持つ中小企業群によって支えられていることはよく知られていますが、MUFGはこうした取り組みを、20年近く続いたデフレ経済の中で、資金調達ではなく商機を求める中小企業に対する息の長い支援活動として位置付けています。また、スタートアップ企業を対象としたビジネスコンテスト「Rise Up Festa」やフィンテックを対象とするアクセラレーター・プログラムは、新しい技術・事業モデルを発掘するとともに、日本の社会的課題の一つである起業活動の活発化を促す試みです。こうした中小企業に対する取り組みは、地域社会の一員として地域に密着した事業活動をめざすMUFGにとって重要なものであると同時に、日本におけるもう一つの社会的課題である地域経済の再生にも寄与するものです。

環境保護、とりわけ気候変動への取り組みは、私たちに与えられた社会的使命の中でも最も重要なものの一つであり、長期にわたる取り組みが行われています。事業を通じた課題への解決策提供という意味では、太陽光・水力・風力・地熱発電といった再生可能エネルギー事業への積極的な融資が挙げられます。MUFGはこの分野で世界最高水準のノウハウを有しており、当該分野でのプロジェクトファイナンスの実績において過去5年間に2度第一位にランクされています。こうした融資に充てる資金を調達するため、昨年9月には、新たな国際金融規制に適合した「グリーンボンド」を発行しました。また、傘下の証券会社では、途上国における温室効果ガスの排出削減に向けたコンサルティングでトップクラスの実績を上げています。

6月には取締役会メンバーで、ESG経営の重要性を再認識するとともに、特に環境・社会の視点からMUFGのあり方について改めて議論を行いました。次期中期経営計画の策定とあわせてさらに議論を深め、社会課題解決による共有価値の創造、環境・社会リスクマネジメントの高度化等、長期的な価値創造に向けたMUFGの戦略を実行することで、さまざまなステークホルダーの期待に応えていきます。

  1. *10 2016年10月の「平成28事務年度 金融行政方針」のなかで、金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等について明記
  2. *11 環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったもので、企業の長期的な成長に必要な観点という考え方

人材育成とダイバーシティ

お客さまや社会に対して価値を提供するためには、担い手である従業員の能力が十分に引き出され活用される必要があり、同時に、そうした日々の営為と将来にわたるキャリア形成が従業員自身に対する価値の提供とならなければなりません。また、従業員が力を発揮するためには、働く環境もまた重要です。多様な人材とともに働くことで新たな視点を見出し新たな挑戦が可能となるような、創造的で自由闊達な職場をつくり出すのは、経営者の責務です。

MUFGでは、従業員が自ら設定するキャリアゴールに応じて、さまざまなキャリアパスを提供するとともに、職務や段階に応じてキャリア形成に必要な研修の機会を設けてきました。近年では、グローバルリーダーの育成が大きな課題であり、事業分野横断的に将来の経営を担うべき人材を管理し、キャリア形成を促すとともに、次世代リーダー育成のためのセミナーを開催しています。私も毎回最終報告会に参加し、講評を行っていますが、毎回新たなアイデアと新たな人材のポテンシャルを見出すことができる心弾む機会となっています。先に述べた「MUFG再創造イニシアティブ」に盛り込まれた戦略の多くは、そうした場においても議論されてきたものです。

もう一つ、今後取り組みを強化する必要があるのは、デジタル化による事業変革への対応です。第一には、デジタル化を進めるための人材の育成。トップマネジメント層の意識改革を進めるとともに、エンド・トゥ・エンドでの事業改革や新事業の創出を担う第一線の人材を育成する必要があります。システム開発においては、アジャイルな手法をユーザー、テクノロジー両サイドで浸透させなければなりません。第二には、その結果機械で代替される業務に従事してきた従業員に研修を行うことで、より創造的な仕事に転換することを可能にしなければなりません。

日本においては政府が「働き方改革」を提唱しています。これは、少子高齢化に伴い労働力不足が深刻化するなかで、女性の労働参加率向上と出生率の引き上げを図るとともに、他国比劣位にある生産性の向上をめざすものですが、私たちは、従業員のワークライフバランス、自己啓発の機会提供、そしてMUFGの一員であることの誇りと満足度の向上をめざす取り組みとして位置付けています。

昨年実施した従業員意識調査によれば、全体としてみた場合、当社社員の意識の多くはグローバルな金融機関の平均値を大幅に超え、最もレベルの高いグローバル企業群に近い水準に位置していますが、やるべきことはまだまだ沢山あります。

ダイバーシティについても、着実な取り組みを続けています。日本では、保育園への入園が非常に困難で社会問題化していますが、この打開策の一つとして「保活コンシェルジュ」*12の導入に加え、MUFG企業内保育園を開園するなど、女性のキャリア形成上重要な育児との両立支援を充実させてきました。その結果、国内において育児休業を取得している従業員は3,300名*13を超え、その数は日本企業中トップレベルにあります。女性登用についても、例えば、国内の女性役付者比率は19.2%*14に達し、同比率20%の目標をクリアしつつあります。一方、経営トップ層での女性活躍は不十分です。今年も、持株会社での外国人の女性社外取締役招聘や、昨年の信託銀行に続く商業銀行での日本人女性執行役員の誕生など前進感はありますが、執行サイドでの役員登用を加速するのが次の課題です。

  1. *12 詳細は、こちらをご参照ください。
  2. *13 商業銀行、信託銀行、証券会社、三菱UFJニコスの合計(2017年3月末時点)
  3. *14 商業銀行、信託銀行、証券会社の合計(2017年3月末時点)

終わりに

昨年から「MUFG再創造イニシアティブ」の議論を行ってきたなかで、特に傘下の商業銀行では貸出を上位に置く意識が根強く存在することを改めて痛感しました。そうしたカルチャーを脱し、MUFGが持つ広範なお客さま基盤に対し、真に価値のあるサービスを、お客さまのニーズに応じてタイムリーかつシームレスに提供する「真の総合金融グループ」でありたい。「MUFG再創造イニシアティブ」に込めた私の想いはそこにあります。

そしてそれは、社会的な課題にお応えしながら、日本と世界の健全な発展を支え、ステークホルダーの皆さまとともに持続的な成長を実現していくための変革でもあります。その果実を、株主の皆さまには「株主還元の充実」、お客さまには「期待を超えるサービス」、従業員には「働きがいのある職場」、社会・環境に対しては「本業を通じた貢献」を通じて分かち合いながら、揺るぎない社会の礎としての使命を果たしていきたいと考えています。 私たちが取り組むのは、「世界に選ばれる、信頼のグローバル金融グループ」をめざした変革、そうした金融グループを次世代に継承していくための「未来志向型の構造改革」です。

今後とも皆さまのご理解と一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2017年7月
取締役
代表執行役社長 グループCEO

平野信行