CFOメッセージ

徳成旨亮 徳成旨亮

2016年度の業績

2016年度は、日本銀行のマイナス金利付き量的・質的金融緩和政策の導入を受け、国内金利は年度を通じて超低金利が続きました。一方、海外では英国のEU離脱の動向や米国の新政権誕生などを受け、金融市場が大きく変動しました。こうしたなか、MUFGの業務粗利益は、国内資金利益が低金利環境により減少したほか、前半はリテールの運用商品販売が低迷、後半は米国を中心とする金利上昇を受けて市場関連収益が減少した結果、前年度比で約3%減少の4兆118億円となりました。

営業費は、規制関連コストは増加したものの、全社的なコスト抑制努力に加え円高の影響もあり、前年度比ほぼ横ばいとなり、この結果、業務純益は、前年度比約9%減少の1兆4,182億円となりました。

与信関係費用は、資源・エネルギー関連与信の改善等により前年度比997億円の費用減となり、株式等関係損益は、政策保有株式の売却進展により前年度比366億円の利益増となりました。臨時損益は、退職給付費用の増加などから前年度比悪化した一方、税金費用は税負担率低下により改善しました。

以上の結果、親会社株主純利益は前年度比約3%減少の9,264億円となり、公表目標8,500億円を達成しました。

最終利益を子会社・関連会社別に見てみますと、銀行・信託・証券等は利益を確保しましたが、三菱UFJニコスとアコムは利息返還損失引当金の計上により赤字となりました。三菱UFJニコスは、構造改革費用の計上や繰延税金資産の取崩しもあり損失額が拡大しましたが、将来の非現金化・デジタル化経済における決済プラットフォームを担うグループの中核会社として今後とも育成していく方針です。

海外子会社では、MUFGユニオンバンクを中心とする米州MUFGホールディングス(MUAH、米国の中間持株会社)やタイのクルンシィ(アユタヤ銀行)が利益を伸ばし、また、約23%出資先の米国モルガン・スタンレーの持分法利益も連結最終利益に貢献しました。

親会社株主純利益内訳グラフ

2017年度の見通しと中期経営計画の進捗

2017年度は、国内は超低金利の継続など依然として厳しい経営環境が続き、業務純益は弱含みで推移するものと想定していますが、政策保有株式の売却努力や海外子会社・出資先からの利益積み上げなどにより、親会社株主純利益は前年度を3%程度上回る9,500億円の達成をめざします。

2017年度は中期経営計画の最終年度にあたります。MUFGでは、成長性、収益性および健全性を表す指標を財務目標として掲げ、その達成をめざしています。2016年度までの実績と2017年度の利益計画を勘案すると、財務目標のうち、金融業として最も重要な健全性指標(普通株式等Tier1比率)は目標達成が確実である一方、成長性指標(EPS)と収益性指標(ROE、経費率)の達成はより一層努力が必要な状況です。

当社を取り巻く経営環境は、CEOメッセージにもあるように、中期経営計画の発表時に比べて厳しさを増しています。MUFGが従来収益の中核としてきた国内資金収益を中心とする伝統的なバンキング事業は構造的・長期的な収益減少にさらされています。また、近年、収益を拡大してきた海外での与信業務も、外貨流動性や格付の維持という制約から、従来の年率10%を超えるリスクアセットの拡大は望めない状況です。

一方、経費面では、海外を中心に規制対応コストの増加は当面続くものと思われます。さらに、デジタル・イノベーションの急速な進展やいわゆるフィンテック企業の新規参入など競争環境も大きく変化してきています。

「MUFG再創造イニシアティブ」の策定

こうした状況を踏まえ、持続的なグループの成長を実現すべく、今般、「MUFG再創造イニシアティブ」を策定し、公表しました。このイニシアティブには、70程度の具体的な施策が含まれており、それらの収益改善効果の合計額は、次々期中計最終年度の2023年度時点で、年間の粗利益効果が約1,800億円、経費が約1,200億円の計3,000億円程度と見込んでいます(詳細は、「CEOメッセージ」MUFG再創造イニシアティブをご参照ください)。

2018年度を初年度とする次期中期経営計画は、この「MUFG再創造イニシアティブ」を織り込んだ形で策定しますが、前倒しできるものは早期に具体化を図ってまいります。

中期経営計画財務目標グラフ
  1. *1 算出方法は、「財務ハイライト」ROEをご参照ください
  2. *2 2019年3月末に適用される規制に基づく試算値

資本運営

基本方針(資本の三角形)
基本方針(資本の三角形)グラフ

MUFGでは、(1)資本の健全性維持、(2)成長のための投資、(3)株主還元の充実の3つの観点から、バランスの取れた資本運営を行うことを基本方針としています。
資本政策は、非執行取締役が過半数を占める取締役会において、最重要のテーマの一つとして議論・検討されています。例えば、2016年度には、自己株式取得についてその要否や取得の場合の金額について複数の異なる見解が社外取締役から示され、取締役会での検討を経て最終結論となるなど、活発な議論が行われています。

充実した自己資本の維持……(1)

MUFGは、バーゼル国際銀行監督委員会により、世界で30社ある「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」の一社に指定されています。同時に、バーゼルVと呼ばれる国際ルールに基づいて自己資本の充実を図ることが求められています。

資本の健全性を示す自己資本比率のうち、中核資本のリスクアセットに対する比率を表す「普通株式等Tier1比率」は、2017年3月末現在で、11%台と金融規制に基づく所要水準8.5%を上回る水準を維持しています。

「TLAC規制」への対応

さらに、2019年3月からは、「総損失吸収力(TLAC)規制」が新たに導入される予定です。これは、リーマン危機後、欧米では多額の公的資金を投入して金融機関を救済したことへの反省から、G-SIBsについては、仮に経営破綻に陥った場合でも、社会のインフラとしての決済・為替機能を果たせるよう、子銀行の資本に変わり得る負債を親会社に一定程度保有させよう、という規制です。具体的には、TLAC適格負債をリスクアセット総額の18%以上保有しなければならない(2022年3月末以降)ことになります(詳細は「国際金融規制への対応」をご参照ください)。

この規制への対応として、MUFGでは2016年2月に、持株会社によるTLAC適格シニア債(SEC/米国証券取引委員会登録債)を邦銀として初めて発行しました。

さらに2016年9月には、G-SIBsとして世界初となるTLAC規制対応のグリーンボンド(資金使途が太陽光や風力発電等の再生可能エネルギー向け融資等に限られる債券)をESG(環境・社会・ガバナンス)投資家向けに発行するなど、安定調達基盤の確立をめざして投資家層の拡大と多様化を進めています(グリーンボンドに関する詳細は、「環境への取り組み」MUFGグリーンボンドの発行をご参照ください)。

これらの結果、2017年3月末現在のTLAC比率は、15.8%と前年度末比+0.8ポイント改善しました。

資本のベストミックス

また、バーゼル規制では、「その他Tier1資本」(永久劣後債等)や「Tier2資本」(期限付劣後債等)を規制上の資本(規制資本)として算入することが認められています。こうした各種債券を効率的に組み合わせて発行すること――“資本のベストミックス”――により、自己資本比率規制を充足しつつ、株主の皆さまに関心の高いROEを高めていくことはCFOとしての重要なミッションの一つです。

調達実績(2016年度合計)

資本の「健全性」と「効率性」の両立を目的とした最適な資本構造の構築をめざして、2016年度にはさまざまな市場で多様な投資家の皆さまに向けて、右記のような各種規制資本を調達しました。

収益力強化に向けた資本活用……(2)

持続的な成長を実現するためには、既存の顧客基盤や事業をベースとした成長に加え、資本を活用した戦略投資も重要な手段の一つです。

MUFGは、過去にはモルガン・スタンレーへの戦略的出資と日本における証券事業の合弁化やタイのクルンシィ(アユタヤ銀行)へのマジョリティー出資など大規模な戦略的出資・M&Aを行ってきました。2016年10月にはリース事業およびインフラ事業の拡大のため日立キャピタルに23.0%(914億円)出資し、2017年5月には構造改革の迅速な推進と決済ビジネスの拡大等を目的として三菱UFJニコスの株式15%を取得し100%子会社化することを発表しました。

CFOとして、こうした戦略的な出資にあたっては資本規律の維持が何よりも大切だと考えています。MUFGでは、「投資後一定期間内に資本コストを上回るリターンが得られること」を案件の可否判断の目線としています。また、出資後も定期的にモニタリングを行い、投資採算基準未達の場合にはエクジット(撤退・売却)を含む対応策を検討・実施しています。

株主還元の一層の充実……(3)

株主還元については、(1)還元策の中核としての「配当」と(2)追加的な方策である「自己株式取得」の組み合わせで行っています。後者は、資本効率(ROE)の向上等を通じて株主の皆さまのメリットとなり、一般に株価にも好影響を与えると考えられています。

株主還元の検討は、「資本の三角形」に基づき以下の手順で進められます。まず、三角形の左下の頂点「①充実した自己資本の維持」の観点、すなわち、資本規制への対応や格付の維持の観点から自己資本が十分かの吟味が行われ、同時に、三角形の右下「②収益力強化に向けた資本活用」の観点から、リスク・アペタイトやリスクアセットの状況に加え、成長のためのM&A等戦略出資案件の有無が確認されます。

これらを踏まえて、三角形の上の頂点にある「③株主還元の一層の充実」の観点から、まずは配当政策が検討されます。MUFGでは、配当について「利益成長を通じた1株当たり配当金の安定的・持続的な増加をめざすこと」を基本方針としており、2008年の金融危機以降一貫して増配基調を続けています。将来にわたって安定して払い続けることができると考えられる1株当たり配当金が取締役会において検討されます(2016年度においては年間18円)。

最後に、もう一つの株主還元策である自己株式取得が検討される、という流れです。2016年度は1,000億円を超える資本を費消するM&A等戦略出資案件がなかったこともあり、取締役会での検討の結果、約1,000億円の自己株式の取得を2回実施しました。配当と合わせた2016年度の株主の皆さまへの総還元率は47.9%となっています。

1株当たり配当の実績・予想グラフ

自己株式の消却方針を決定

取得した自己株式については、将来のM&A等において使用する可能性があることから、従来は全株式を保有しておりましたが、株主さまから、市場放出や希薄化のリスクに関するご懸念も一部寄せられたことから、今般、新たに、「保有する自己株式の上限を、発行済株式総数の5%程度を目安とし、それを超える部分は、原則として消却する」方針といたしました。

自己株式消却の概念図

政策保有株式削減 3つの効果と売却実績

銀行が取引先企業の株式を保有する「政策保有株式」は企業経営に安定をもたらし日本経済の発展に寄与してきましたが、MUFGでは2015年11月に、「2020年度末までに政策保有株式を中核的自己資本(Tier1)比で10%程度まで削減する」方針を公表しました。

政策保有株式の売却は、①信用リスクの削減(株式のリスク・ウェイトは通常の貸出に比して高い)、②リスクに対して割り当てられていた資本の開放と有効活用による資本の効率性の改善、③含み益の実現による利益貢献などさまざまな効果が期待できます。

2015年度以降の売却額(取得原価)は、累計で2,660億円、うち2016年度の売却額は1,490億円(前年度比+320億円)と着実に積み上がっており、政策保有株式の保有残高(取得原価)の対Tier1資本の比率は2016年3月末比1.3ポイント減少しました。

引き続き、取引先企業との十分な対話を経た上で残高削減に取り組んでまいります。

政策保有株式の削減グラフ

税務コンプライアンス強化への取り組み

MUFGは、世界50カ国以上で約15万人の従業員を擁し、グローバルに活動する企業グループであり、国内外において適正な納税に努めることは、社会的責任の一つであると認識しています。

MUFGでは、グループ全員が税に関して同じ価値観を共有し行動することができるよう、2017年4月に新たに税務コンプライアンスに関する社則を制定しました。

具体的には、グローバルに事業活動を行うにあたって、BEPS行動計画*などの国際基準の精神や各国の税法を遵守するとともに、税務当局に対して協力的かつ誠実な対応を行い、信頼関係の維持・向上に努めてまいります。

また、各国で認められた優遇税制等をその立法趣旨に沿って適切に活用し、適正な納税を実現するための管理態勢の強化にも努めることで、企業価値の向上をめざしてまいります。

税務コンプライアンス強化への取り組みグラフ

* OECD(経済協力開発機構)がとりまとめた国際的課税逃れ(Base Erosion and Proit Shifting(税源侵食と利益移転))対策

株主・投資家の皆さまとの対話(IR/SR活動の一層の充実)

CFOとして私が重要視していることは、株式や債券の投資家の皆さまとの建設的な対話やディスクロージャーのさらなる充実です。金融業を行うMUFGにとって、資本市場からの資本・負債の調達は、金融規制や格付の観点、さらには外貨流動性の確保の観点からも極めて重要です。

こうした観点から、2016年度は決算説明会に加え、米州MUFGホールディングス社長のスティーブン・カミングスによる米州戦略セミナーを東京で開催しました。また、2017年2月に実施したインベスターズ・デイでは、各事業本部長からの事業戦略説明と併せ、筆頭独立社外取締役の奥田務氏に登壇いただき、投資家の皆さまの関心が高いガバナンスについて直接対話していただく機会を設けました(当日の主な質疑応答は、「社外取締役と投資家との対話」をご参照ください)。

また、ファンドマネージャーやアナリストの方々と対話するIR活動に加え、パッシブ運用者を含む株主さまの議決権行使責任者の方々とガバナンスや経営方針等に関して対話するShareholder Relations活動も一層充実させてまいります。

Q&A 投資家の皆さまからよくいただくご質問をご紹介します

Q1. 海外貸出が増加していますが、 ドル資金など外貨の調達に問題はありませんか?

10年前と比較し、MUFGの海外貸出残高は約3倍の40兆円強となっています。これを支える資金調達については、米ドル等の外貨では預金よりも貸出が多い状態(貸出超過)となっていますが、三菱東京UFJ銀行では、現状、外貨貸出の6〜7割を外貨預金で賄えており、これに社債等の中長期の調達を加えて、貸出の全額に対して安定的な資金調達ができている状況です。

さらに、一時的な外貨調達環境の悪化への備えとして、外貨への現金化が容易な米国国債等を特定目的会社(SPC)で保有しており、緊急時の外貨資金の調達手段も確保しています。

今後とも、短期の円投(円資金をドルに転換)に頼らない調達構造を維持したいと考えています。このため、外貨預金の増強に努めるとともに、社債発行の多様化にも引き続き取り組んでまいります。

外貨資産と負債の状況(三菱東京UFJ銀行)

Q2.なぜ増配など株主還元をもっと拡大しないのですか?

2016年度の配当は1株当たり18円、配当性向(1株当たり利益に占める配当金の割合)は26.4%ですが、もう一つの株主還元策である自己株式取得を含めた株主の皆さまへの総還元率は前年度に続き47%を超え、邦銀中トップクラスにあります。

2017年度は、配当予想を1株当たり18円、自己株式取得を「資本の三角形」をベースに従来どおりの考え方で検討していく方針です。

また、2018年度以降の株主還元策については、現在策定中の次期中期経営計画の重要テーマの一つとして、以下の諸点を勘案し検討してまいります。

  1. 1.バーゼルV規制の最終化の動向(ルールの決着次第ではリスクアセットが増加する可能性があります)
  2. 2.格付の動向(現状、MUFGの中核銀行2社はいずれもグローバルに見て中位に位置するA+(S&P)/A1(Moody’s)を保持していますが、引き続き一定水準以上は維持したいと考えています)
  3. 3.欧米のG-SIBs各行の動向(競合他行の普通株式等Tier1比率は11〜12%程度です)
  4. 4.中長期的なMUFGの利益水準の想定(安定的な還元のための基礎です)

いずれにしましても、配当を含む株主還元は、今後とも市場や株主の皆さまのご意見も踏まえながら、取締役会で確りと議論する方針です。