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MUFGが挑むカルチャー改革 MUFGが挑むカルチャー改革

MUFGが挑むカルチャー改革。
「挑戦を生むマインドセット」に大切なこととは

MUFGのパーパス実現に向け、社員ふたりが早稲田大学大学院経営管理研究科の入山章栄教授とのセッションを実施。危機感の共有や課題の「自分ごと化」を促すカルチャー改革の重要性があらためて浮き彫りになった。
経営理論の分野で日本の第一人者である入山章栄教授。今回、その入山教授とのセッションに臨むのは、MUFGのカルチャー改革担当の加藤優子と、社内広報を担う内堀優子という経営企画部のふたり。早稲田大学内の教室で、熱い議論が交わされた。

パーパス実現に大事なこと

入山章栄(以下、入山):最初におふたりに簡単な自己紹介をお願いできませんか。

 

加藤優子(以下、加藤):私は新卒で入社したあと、営業店を何店か経験し、2021年5月に今の部署に移りました。異動のきっかけは、「MUFGの未来を亀澤社長と“本気”で語る会」に手を挙げて参加したことです。そこに集まった多様な10人の仲間たちと「MUFGはなぜ、どのように変わらなければならないのか」を時には深夜まで真剣に語り合い、亀澤社長宛てに提言をしました。その実現のために、この部署に配属されています。

 

 

入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科教授

入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科教授

加藤優子◎三菱UFJ銀行 経営企画部ブランド戦略グループ。

加藤優子◎三菱UFJ銀行 経営企画部ブランド戦略グループ

実は、当時のお客さまにベンチャー企業の経営者がいらっしゃって、あるとき、その方が話のなかで「銀行は10年後なくなるかもしれないよ」とおっしゃったのです。後輩の退職もあり、10年後、自分が、MUFGが、世の中にどんな価値を生み出していけるのかを本気で考える機会になりました。

そこでMUFGがこの先も社会に役に立っていくには、何か変化が必要なのではと思い、ヒントを求めて会に参加しました。

入山:なるほど、それで亀澤社長と話したいと思ったわけですね。

 

加藤:はい。私は「目の前にある道をただ進むだけでは、いずれ行き詰まってしまう」という健全な危機感を、MUFGの社員みんなにももってほしいと感じています。

入山:内堀さんは、なぜMUFGに入ったのですか。

内堀優子(以下、内堀):私は正直、やりたいことを真剣に考えるようになったのは入社してからです。最初、営業店に5年いたのですが、2018年にMUFG社員による「東北エールボランティア」という、東日本大震災復興支援の活動があり、そこに参加しました。その際に少しでも社会貢献できたことがうれしく、また日常の業務以外で社員同士の一体感をもて、自分にとって大きなターニングポイントになりました。

それをきっかけに「全社員がMUFGで働くことに誇りをもてるような活動に携わりたい」と考え、本部への異動を希望。2021年度、現部署に配属され、社内広報としてビデオニュース・広報記事の制作や、イントラネットのリニューアル等を担当しています。

入山:ところで今回のパーパス「世界が進むチカラになる。」ですが、加藤さん、パーパスでまず大事なことは何だと思いますか。

 

加藤:いかに社員が「パーパスを『自分ごと化』して自らのストーリーとして受け止め、行動できるかがポイントだと思っています。パーパスと日常業務の距離が遠いと、額縁に飾られた絵でしかありません。各自が自分のMy WayとMUFG Wayの重なりを見つけていく必要がある。そのために何をすべきか、入山先生にアドバイスを頂ければと思います。

 

入山:まずひとつ言えるのが、パーパスを浸透させるには、トップが「徹底的に語る」ことが大前提。亀澤社長が自ら社員全員に向かって、自分の言葉でパーパスに込めた想いを繰り返し説明する。そうすれば現場の人たちも徐々に真剣に聞いてくれるはずです。

 

ある外資系企業のグローバルCEOが来日した際、頼まれて早稲田で講演をセットしました。彼がそこで熱っぽく語ったのは、世界に残る貧困や環境問題のこと。そして最後になって「だから世界を変えなくてはいけない。我々は衛生用品の会社だから、世界の衛生問題から解決していきます」と締め、会場は割れんばかりの大拍手に包まれました。

 

この会社の支社は世界で100カ国以上。彼は毎年それを全部回り、ひたすらこういうメッセージを伝え続けています。

 

私は同じことを、ぜひ日本の経営者にもやっていただきたい。日本の大企業の経営者は在任期間が短すぎて、十分に想いを浸透させきれない面がある。いずれにせよ、パーパスはトップが語るのが大前提。オペレーションは部下の賢い人に任せてしまえばいいのです。

 

そしてもうひとつ、トップと現場のギャップを埋めるためにグローバル企業がやっているのが、研修です。現場の人たちが、自分の日々の仕事とトップの言っていることがどうかかわっているかを考え、それを言語化して、研修で仲間と議論する。そういった研修を定期的にやっていますね。

いかに暗黙知を可視化するか

加藤:パーパスの「自分ごと化」にはそれが目の前の業務とつながっている、社会へ貢献できているという実感も必要だと思うのですが、いかがですか。

 

入山:そうですね。トップの言葉は理念的、抽象的なことが多い。今回のMUFGのパーパスも、単体ではやや抽象度が高いと感じます。少し解像度を上げ、「つまりこれはこういうこと」という具体的な説明が欲しい。例えば銀行なら、「イノベーションを起こしてサステナブルな社会に進むには金融のチカラも必要。そうしてMUFGは新しい世界の誕生を後押しします」といった説明があると、かなり腹落ちできます。

 

そこで私が勧めるのが、パーパスと現場の行動をつなぐ「樹形図」の作成です。「『世界が進むチカラになる。』という大目標から始まって「その実現のためにMUFGはこういう事業を創出していかなくてはならない」「その事業の実現には、現場ではこういう作業が必要」というように、順を追って示してみる。そうすればトップの意識に対して自分たちの業務がどう紐づいているのか可視化され、みんな腹落ちするわけです。

 

内堀:可視化すると確かにわかりやすいですね。そのほかにも方法はありますか。

 

入山:スピードが求められる場合は、ショック療法もあり得ます。加藤さんが取引先から「銀行は不要になるかも」と言われたのは、おそらく強烈な体験だったと思います。だとしたら、それを社内に伝えていくことです。

 

それこそ内堀さんの担当である、社内広報の役目ですね。マインドチェンジには現場の危機感も重要で、それがなければ、「変わらなくては!」と思いきれません。おふたりは「このままではよくない」と漠然と思っているのでしょうが、それが全社員には伝わっていない。いわゆる「暗黙知」のままなのです。

 

その「暗黙知」を「形式知」として可視化し、共有する必要がある。人間は言語化されないと腹落ちしません。誰かひとりがわかっていても、それが言葉になり、ほかの人にわかるように表現されないと伝わらないし、共有されない。逆に共有されれば、組織全体を進化させるチカラになります。

 

例えば映画をつくってはどうですか。皆さんの思い、危機感を映像化してみる。「暗黙知の可視化」ですから、ビジュアルで表現することも効果的ですよ。

 

一例として、「MUFGがイノベーションを起こして大転換できたら、20年後にはこういう世界がつくれる」という動画を制作する。言葉だけだとピンとこなくても、ムービーにすれば臨場感が増して、絶対に響きますよ。

 

加藤:実はいま、弊部が「パーパスの世界観」についてイメージ動画をひとつつくり、You Tubeに流しています。タイトルは「赤い球の冒険~MUFG Soul Movie~」です。

 

入山:それはいいですね。動画がすでにあるのなら、社内でも繰り返し流すべきです。

 

内堀:定期的な発信としては、毎月、ビデオニュースを発信しており、トップメッセージや活躍中の社員・活動等を取材し、紹介しています。こちらも挑戦へのモチベーションを高める狙いです。最近の取材では、社員からパーパスを意識したコメントも増え、パーパスの浸透についても、ある程度の手応えを感じ始めています。

 

入山:社内ムービーも素晴らしいですが、月イチでは少ない。パーパスの浸透はトップダウンが大事と伝えましたが、ボトムアップのサポートもないと、亀澤社長ひとりではさすがに疲れてしまう。社内広報はトップのビジョンを体現するようなコミュニケーションを積極的に仕掛け、サポートすべきでしょう。

「挑戦」と「楽しさ」

内堀:入山先生の『両利きの経営』のモデルを拝見し、変革の実現における「挑戦」の重要性を再認識しました。入山先生でしたら、社員に挑戦の大切さをどのように伝えられますでしょうか。

 

入山:MUFGで問題なのは、我々は大丈夫と心のどこかで思っている人が多いことではないでしょうか。いくら「このままでは危ない」と言っても、中間管理職であれば数字に責任があり、目の前の仕事を疎かにはできません。彼らに挑戦するまでの余裕はなく、トップもいまの事業を守っている人をしっかり評価することが大事です。しかし同時に、彼らが「挑戦する人は応援するよ」と素直に思える文化を育む必要もある。

 

そのためにはポイントがふたつあります。ひとつは当たり前ですが、結果を出すこと。社内で挑戦的なことをする人に、ほかがいい顔をしないのは、結果が出ていないからです。

 

加藤:ただ、新しいビジネスの場合、すぐに結果は出ないですよね。

 

入山:そうです。そこで第2のポイント、「楽しそうにやっていること」が大事になる。人は変えられませんが、自分から変わる可能性はあります。楽しそうにやっている人を見たら興味が湧いて「何やってるの?」となりますよね。それがきっかけで変わるのです。

 

楽しそうだと仲間が集まってくる。そして結果が出ると、それまで反対していた人も「前から応援していた」と言い出すんです。

 

加藤:「挑戦あるある」ですね(笑)。

 

今度、新しく始める社内ビジネスコンテストで募る新規事業も長い目で見ていく必要があると思っています。そのためにはそれを許容する文化、つまり、先生がおっしゃるように、結果がまだ出ていなくても「行動している」ことが評価される社風が大事だと考えます。

 

入山:銀行はこれまでは圧倒的に安定した業界でした。イノベーションの必要もなく、失敗しないことが第一の人事評価基準になりやすかった。これをイノベーティブな組織に変えるのは容易ではないですが、挑戦は必須です。

 

加藤:銀行はお金を扱うので、失敗しないことの重要性が高かったのだと思います。そういう価値観があると「失敗するなら挑戦しないほうがいい」というマインドになりやすい。でもいまの銀行を取り巻く状況を考えれば、これまで私たちがやってきた仕事が社会の役に立たなくなるかもしれない。それなら何もしないよりは、新しい世界に向け自ら変革に挑み、すぐに行動を始めないといけないのでしょう。

会社は自分のパーパスを実現する場

入山:内堀さん、MUFGのパーパスは、あなたの中で腹落ちしていますか。

 

内堀:自分の中では定着し始めていると感じています。MUFGには社員が挑戦できる環境があるということを発信する立場にもありますし、積極的に挑戦することを心がけ実践をしてきました。まだまだ挑戦したいことはありますが、最近は目の前の業務で手一杯で……。

 

入山:現在の仕事の中でも、挑戦の余地は十分ありますよ。身近なところから、どんどん始めるべきです。さらにその上を目指すとなると、ひとつ質問をさせてください。会社の業務とは別に、あなたがひとりの個人としてやりたいこと、やって楽しいことは何ですか。

 

内堀:即答は難しいですね。

 

入山:実はそれが日本社会の課題です。日本で個人のパーパスをもつ人はそう多くない。

 

日本では小学生までしか将来の夢を語らせないんですよ。その後は偏差値教育の中に放り込まれてしまう。そして大学まで行き、卒業後は名前やイメージなど曖昧な基準で会社選びをして、入社していく。全体的にそういう仕組みになっているのです。

 

だから社会人になっても「自分はこういうことをやりたい」と明快に言えない。おそらくMUFGにも、「あなたがやりたいことは?」と尋ねたら、「自分の仕事はこうだ」という話になってしまう人がいるでしょう。内堀さんはまだ若いですから、人生の大目標まではなくても構いません。ただ、代わりに「世界がこうだったらいいな」と思い、「そのために自分は何ができるだろう」と考えてみてはどうですか。

 

極論すれば、会社は道具です。自分がやりたいことを実現するために使い倒せばいい。「MUFGにはこういう素晴らしいアセットがある。私の夢を実現するには、まさに最高の環境なので、私はここで頑張ります」と、全社員が胸を張って言えることが理想です。そういうマインドセットを社員みんながもてたら、これは強いですよ。

 

加藤:おっしゃる通り、会社のパーパスに共感してもらうには、それぞれが自分のパーパスを見いだすことが大切ですね。「会社を通じて自分は社会に何がしたいのか」を、全社員が語れるようになれればと思いました。

 

入山:ぜひ、そうなることを期待しています。

 

内堀:これからもブランド価値のさらなる向上、社員のパーパスへの共感獲得に貢献していきたいです。今日はありがとうございました。

 

入山章栄◎早稲田大学大学院経営管理研究科教授。1998年、慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了後、三菱総合研究所に勤務。2008年、ピッツバーグ大学経営大学院で博士号を取得。NY州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授等を経て、2019年より現職。近著に『世界標準の経営理論』。

Promoted by MUFG / text by Masashi Kubota / photographs by Shuji Goto / edit by Fumihiro Tomonaga