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三菱UFJ信託銀行の情報銀行サービス「Dprime」がめざす新たな未来とは

三菱UFJ信託銀行の情報銀行サービス「Dprime」がめざす新たな未来とは

2018年11月、三菱UFJ信託銀行が運営する情報銀行サービス「Dprime」は、アシックス、NTTデータ、マネーツリーをはじめとする企業10社と共に、1,000人規模の実証実験を行った。今回は、信託銀行がパーソナルデータを扱うという試みが生まれた背景や社会へ与える影響について、Dprimeのプロジェクトリーダーを務める三菱UFJ信託銀行 経営企画部 FinTech推進室 齊藤 達哉 氏に話を伺った。

(本記事の取材は2019年7月に実施されましたが、Dprimeは2021年3月にサービス提供を開始し、2021年7月時点でiOS版Dprimeアプリがリリースされています)

事業内容について

個人の資産であるパーソナルデータを守り、管理・運用する「情報銀行」

—Dprimeについて教えてください。

齊藤氏:Dprimeはスマートフォンのアプリを介して提供されるサービスです。当社は、ユーザーである個人の同意のもと、パーソナルデータを保有している企業に対して開示請求を行い、DprimeのPDS(パーソナルデータストア、貸金庫のようなところ)に集約して保管します。パーソナルデータは、例えば資産状況や購買履歴、行動履歴など多岐に渡りますが、どのデータを集約し、どこに開示するかは個人が選択できます。データの提供先としては、新商品・サービス開発のための調査やマーケティングをしたい企業や、研究機関、公共サービスなどでもニーズがあると考えています。

データを提供した個人ユーザーが得られる対価としては、金銭のほか、個々人のニーズに最適化された生活の質を向上させるサービスやそのクーポン券などが提供されます。ビッグデータの世界ではあくまで推測による区分けに基づくため、望まない広告や的外れなレコメンドも多いですが、情報銀行の介在により、精度の高いレコメンドをデータ利用者から受け取ることができるようになるでしょう。パーソナルデータを適正な形で活用することで、個人の生活がより便利で豊かになることが、情報銀行の本質的な価値であると考えています。

当社はデータの中身を見ることはできず、利用企業としてデータを利用することもありません。信託銀行は、データを渡したのに対価が返ってこないということが起きないようにデータや対価の管理・保全をしたり、個人で行うには手間のかかる開示先のコントロールやデータ授受の仲介役を担います。 します。データ流通の起点は個人主導であるということを担保しつつ、信託銀行が下支えしていくということです。


(Dprimeアプリの画面(参考図) 三菱UFJ信託銀行提供)

プロジェクトの経緯・成果

イノベーションの創出に向けた多様な企業と連携

—Dprime構想に至った背景について教えてください。

齊藤氏:信託銀行は長きにわたり、金銭や有価証券、不動産など、いわゆる「伝統的資産」を保管して価値をお守りしたり、付加価値をつけて増やしたりする業務を行ってきました。

一方で、伝統的資産のデジタル化や、暗号通貨のように最初から電子化されている「デジタル資産」の普及が進み、日本政府が提唱するSociety5.0においても、このデジタル資産が爆発的に増えていくことを前提としています。そこで、これまで私たちが伝統的資産の分野で担ってきた、価値を守る、移転する、あるいは付加価値をつけるといったいわばインフラとしての機能を、デジタルの世界でも発揮したいと考え、情報銀行のプロジェクトを立ち上げました。

—プロジェクトを推進する上で苦労した点を教えてください。

齊藤氏:社内における仕組みづくりでしょうか。イノベーションを生み出すためには、「0を1にするクリエーション」と「1をNにするオペレーション」、どちらも車の両輪のように必要だと思いますが、もともと社内には後者だけがある状況でした。そこで、2017年の春からはクリエーション段階をモード1、オペレーション段階をモード2として、モード2がコストを負担し、モード1に資金を投入する形で実証実験を進め、徐々にモード2へ移行するというスキームでプロジェクトを進行しました。クリエーションをオペレーションの段階へ到達させるまでのハードルが高く、コストをクリエーションに負担させると着手ができなくなるため、まず種を生み出し、その種を部門で育てていくために、こういった仕組みにしています。このようなアイデアは現場での議論から発展したもので、そういう意味ではMUFGは現場の発信力が強いボトムアップの会社だと思っています。

今後の展望

広く門戸を開放し、企業が保有するデータの価値を最大化

—Dprimeにおいて、今後どのような拡張をお考えでしょうか。

齊藤氏:現在は、データ連携が可能な企業を増やして個人ユーザーが手間なく簡単にデータを集約できるようにすることと、データを利用する企業を増やして個人ユーザーにとって魅力ある対価を充実させることに注力しています。

協業によって企業が得られるメリットは2種類あります。データ利用者である企業については、データ分析による市場調査のほか、Dprimeを経由した自社サービスへの送客が期待できます。データ保有者である企業については、データの提供によりそれまで収益化できていなかったデータを活用できる可能性があります。提供したデータの利用度合いに応じて収益が還元されれば、データが新たな価値を生んだことになります。こうしたご提案ができるよう、将来的には情報の提供や利用を希望される企業・団体に対するコンサルテーションも検討するべきだと考えています。

データ利用者となる企業については、情報銀行の認定ガイドラインに沿って、データの利用目的や保管する上でのセキュリティ上の安全基準を満たしているかなどの入念なチェックを行っています。一方、オープンイノベーションの観点から、現状ではデータ提供者となる企業についてはガイドラインを設けていません。情報銀行への入り口を常に用意し、どんどん輪を広げていくことが、個人ユーザーにとっても有用なサービスの充実に繋がると考えています。


(三菱UFJ信託銀行 経営企画部 FinTech推進室 齊藤 達哉 氏)s