提携の経緯
アクセラレータプログラムへの応募がきっかけに
—Crezit社とアコムが出会ったきっかけを教えてください。
矢部氏:2020年にMUFGの第5期Digitalアクセラレータプログラムに応募し、ファイナリスト企業に採択していただいたことがきっかけです。
—どんなことを期待されていたのですか。
矢部氏:当社は2019年設立のフィンテックスタートアップです。消費者金融サービスを展開したいと考えている事業会社に対して、与信機能における契約から与信審査、債権管理・回収、督促までを、ソフトウェアの提供にとどまらず、オペレーション構築から事業の成長まで支援するという「Credit as a Service(CaaS)」の提供を行っています。今、事業会社が自社のサービスに消費者金融サービスを新たに組み込もうとすると、金銭的にも時間的にも非常に大きなコストがかかり、普及の妨げになっています。そこを解決したいと考えてきました。応募当時は、自社がレンダーになることを想定していたので、そのための原資と信用データの獲得を期待して応募しました。
齊藤:私はMUFGのメンバーの一人として応募企業の提案の審査をさせていただいた際に、Crezit社の取り組みを知りました。日本の消費者信用産業がどうあるべきかという視点から大きな絵を描いていらっしゃる点ですごいなと感じましたし、アコムが抱えている課題にぴったりはまる取り組みだと感じました。
—課題といわれるのは?
齊藤:アコムは個人ローンで40年以上の歴史を積み重ねてきましたが、事業会社を通じたローンサービスは行っていません。しかし今インターネット上での決済が増えるなかで、従来のアコムの個人ローンはお客さまにとってフィットしない場面も出てきています。ネット上での購買と、そのための借入がバラバラの2つの体験になっていて、いったん物販のサイトを離れて、改めてアコムとのあいだでローンの手続きをしなければならないからです。もしローン手続きが事業会社のアプリやネットサービスのなかで一括してできれば、顧客体験を大きく改善することができます。
—事業会社のサービスにアコムの金融サービスを組み込むということですね。
齊藤:そうした組み込み型の金融サービスを、エンベデッド・ファイナンスと呼びますが、これからの個人ローンはこちらに大きくシフトしていくだろうと考えています。実際アメリカやヨーロッパでは急拡大しています。こちらは矢部さんが詳しいですね。
矢部氏:アメリカの個人向けローン市場は、2010年頃は99%が既存の金融機関によるものでした。しかしここ10年ほどでフィンテックのスタートアップがプレーヤーになって、今では約4割のシェアを持っています。しかもそれは従来の金融機関の取引量に上乗せする形で伸びたもので、マーケット全体が急速に拡大しています。
齊藤:しかもエンベデッド・ファイナンスは、購買と一体ですから与信データに厚みが出ます。今アコムは、目の前のお客さまと今日やりとりした“点”の情報で融資します。しかしエンベデッド・ファイナンスなら、購買情報を通してその人をより深く知ることができる。それは与信にも活かすことができ、より多くの人に必要なお金を、リスクを抑えながら融資できる可能性が出てくるわけです。
矢部氏:私たちにとっても大きな意味のある出会いでした。先ほども申し上げたように、当初は私たちがレンダーとなり、プラットフォームを使ってエンベデッド・ファイナンスを提供していくことを考えていました。しかし齊藤さんはじめMUFGの方々と議論するなかで、アコムと連携しながらプラットフォ-ムをさらに充実させ、それを多くの事業会社に提供して日本にエンベデッド・ファイナンスの流れをつくるという、より大きな取り組みにしていくことにしたのです。
(アコム株式会社 経営企画部 次長 兼 GeNiE株式会社 代表取締役社長 齊藤 雄一郎)
新規事業の狙い
新会社GeNiEを共同で運営し、エンベデッド・ファイナンスの先頭を切る
—新事業をどのように展開していきますか。
齊藤:4月にアコムの100%出資で新会社GeNiEを設立しました。この新会社にCrezit社のプラットフォームサービスを導入し、Crezit社と共同で運用しながら、さまざまな事業会社にエンベデッド・ファイナンスを提供していきます。今年度内には事業をスタートさせる予定です。GeNiEが提供できる価値は大きく2つあり、1つは購買とローンをはじめとする信用サービスがシームレスにつながることによるエンドユーザーの体験の向上です。参入する事業会社としても販売機会を逃さずに済み、ローンによる金融収益も得られます。もう1つは、データを利活用した事業会社の本業への貢献と与信精度の向上です。例えば小売業でポイントカードを発行しているサービス事業者は、現在は名前、年齢、いつ何を買ったか、というデータを所持していますが、このプラットフォ-ムを使うことでお客さまの年収や家族構成、給料日など取引上の特徴が分かることで、お客さまの解像度が一気に上がります。これによって本業でのマーケティングへの貢献が可能となるわけです。また、本業データを信用サービスへの与信に活用することで、与信精度の向上も期待できます。
矢部氏:GeNiEの事業を成功させるため、当社もプラットフォームの機能をさらに拡張していきたいと思っています。アコムとGeNiEは膨大なデータを保有していますから、これらのアセットをうまくソフトウェア化し仕組みに取り込んでいきます。
(Crezit Holdings株式会社 代表取締役 矢部 寿明氏)
今後の展望
日本の消費者金融をGeNiEがアップグレードしていく
—今後の展開をどのように考えていますか?
齊藤:ネット時代にあわせて、あらゆるところでローンの機会をシームレスで提供していきたいと思います。また、アコムの個人ローンも、プラットフォームからデータを取得することで与信の精度を高め、融資の可能性を広げていきたいです。そして次のフェーズとして、個人ローンの手前の使いやすいサービスである後払いサービス(BNPL: Buy Now Pay Later)や給与の即日払いサービスなどを提供して、エンドユーザーが自分の信用を活かしたさまざまな金融サービスを受けられるようにして、より豊かな人生を送ってもらえるようにしていきたいですね。さらにアコムは、個人ローンに関するマーケティングや与信、債権管理やオペレーションについての経験や知見が豊富にあるので、それをプラットフォ-ムに還元し、エンベデッド・ファイナンスに取り組む事業会社のコンサルティングなどの業務も担っていきたいと思っています。
矢部氏:私がこの事業を通して実現したいことは2つです。1つは言うまでもなくGeNiEを成功させること。そのためにプラットフォームの機能を今後も拡張し、事業会社が金融サービスを軌道に乗せられるように伴走していきます。もう1つは、当社が消費者金融の裾野を大きく広げる存在になることです。そのためにもつくりあげたCaaSのプラットフォームはほかの金融機関にもサービス提供を行い、プラットフォーマーとして、多くの金融機関と協力しながら事業会社が新たに取り組む金融サービスをサポートしていきます。
当社は「信用を最適化し、その可能性を解き放つ。」ことをミッションとしています。日本の消費者金融は与信のデータや業務プロセス、顧客体験など、いろいろなところがレガシーのまま取り残されていますが、そこをアップグレードすることでより良い与信が提供できると思います。貸金業というのは日本ではまだマイナスのイメージが強く残っています。しかし貸付残高は約10兆円です。それだけの個人消費を支え、金融の本来の役割を果たしているわけです。透明性が高く、利用しやすい個人ローンの環境をつくりあげ、日本の消費者信用産業の歴史に新しいページを加えていきたいと思っています。
齊藤:消費者金融の新しい時代を一緒に切り開いていきたいですね。