CEOメッセージ

これまでの10年をこれからの10年につなげていくために

1.発足から10年を振り返って

発足後10年で、総合金融グループとして大きく進化

険しい道のりの中でのスタート

MUFG発足から今年で10年が経ちます。当時は日本経済が緩やかな景気回復の時期にありましたが、金融業界はその流れに少々乗り遅れた形で、公的資金の返済が当面の課題として残っていました。そして公的資金を完済し、過去に決着をつけて「さあ、これから」という矢先に、今度はリーマン・ショックが起きるという、大変険しい道のりの中でのスタートでした。しかし、今振り返ってみると、あの金融業界に大きな傷跡を残したリーマン・ショックでの対応こそが、現在の事業基盤を形づくる上での大きな転換点になったと思っています。それは一つには、非常に迅速かつ的確にあの金融危機を乗り切ることができたということが挙げられます。もともと自己資本などの財務基盤が強固だった上に、サブプライムローン関連の証券化商品などに代表される高リスク金融商品への投資の偏りも少なかったことが、早期の事業立て直しにつながりました。そしてもう一つは、危機の最中に訪れた類例のない投資機会を捉えることができたことです。約9,000億円を拠出し、モルガン・スタンレーとの戦略的提携を敢行したことで、かねてからの経営課題であった「グローバルな投資銀行事業」をグループ内に取り入れることができました。
これらにより、発足当初から掲げていた「サービスNo.1」「信頼度No.1」「国際性No.1」という経営目標に向けて大きく前進することができました。いまや、日本国内においては頭一つ抜きん出たリーディングバンクとしての地位を確立させ、世界で見ても預金・貸出双方でトップリーグに入るところまできました。「グループ総合力」「グローバルネットワーク」「充実した顧客基盤」「強固な財務基盤」の4つの強みを誇る総合金融グループへと大きくステージを進化させることができたのです。

競争力のある子会社で構成される「グループ総合力」

「グループ総合力」ということでいえば、まず、銀行・信託・証券・カード・リースといった幅広い金融事業領域を手がける体制を構築しました。加えて、グループが各業界でトップクラスの地位にある企業で構成されていることが、他にはない強みとなっています。さらに、その子会社同士が協働することにより、お客さまに継ぎ目のないサービスをご提供する仕組みづくりも進んでいます。 特に、モルガン・スタンレーとの合弁事業化を通じて同社のノウハウや知見を取り込んだ三菱UFJモルガン・スタンレー証券は、昨今活発化している日本企業のクロスボーダーM&Aの分野で、上位の評価を得るなど、この10年の間に競争力を飛躍的に強化しました。あたかも個々の強いプレイヤーを集めて作り上げた一つのサッカーチームのように、チームプレイを展開することでより一層高いパフォーマンスを挙げられる仕組みが構築されつつあると考えています。

「グローバルネットワーク」と「充実した顧客基盤」

MUFGは40カ国以上、約1,150拠点を擁する「グローバルネットワーク」を展開するまでになりました。グループ全従業員14万人のうち5万人が海外採用であるなど、従業員のグローバル化も進んでいます。 これらの拠点網と人材を武器に、収益面でも海外事業はグループの成長を牽引しています。顧客部門(リテール・法人・国際・受託財産)の営業純益に占める国際事業本部の割合は、3年前の約2割から今は約4割へと増加しました。
お客さまとのお取引基盤、という観点でも、国内では既に個人4,000万口座、法人40万口座と、信頼関係をベースに築きあげてきた「充実した顧客基盤」があります。金融機関は一朝一夕でお客さまとの信頼関係を構築できるものではありませんから、お客さまとの長期的な信頼関係は非常に重要です。海外では、この10年間で、日系企業のみならず非日系企業とのお客さまとのお取引も随分拡大しました。従来日本の金融機関の海外事業は日系企業とのお取引が主体でしたが、海外の法人ビジネスの収益のうち、非日系取引は7割を超えるほど、その存在感は高まっています。

3年間で顧客部門の営業純益に占める国際事業本部の割合が約4倍に拡大

2.前中期経営計画の成果と課題

「世界に選ばれる、信頼のグローバル金融グループ」に向けて着実な前進を遂げた3年間

国内事業の再強化が進んだ3年間

2014年度を最終年度とする中期経営計画では、「グローバルベースでの総合金融力の拡充」「再生・再創造に取り組む本邦市場への貢献」を基本方針として、事業戦略を推進してきました。この3年間を振り返りますと、着実な前進を遂げることができたと評価しています。
国内事業については、日本市場そのものの大幅な拡大が望みにくい環境下、実体経済の鏡でもある金融業界でも市場の縮小傾向は変わらず、MUFG発足以来、国内事業収益は右肩下がりの状況から抜け出せずにいました。しかし、私自身としては、なんとかもう一度復活させたいと強い思いを抱き、国内事業の再強化に取り組みました。個人(リテール)・法人のお客さま向けの双方において、徹底したグループ協働を図り、 ニーズに合った商品をタイムリーに投入する努力を続けた結果、一定の成果を挙げることができたと考えています。例えば、個人のお客さま向けに多様な運用ニーズに応える商品・サービスを投入しました。また、法人のお客さま向けでは、課題を抱えている中堅・中小企業のお客さまに積極的に向き合い悩みを分かち合うコンサルテーション型のバンキングや、経営者の世代交代を見据えた事業承継のお手伝いなど、付加価値の高いサービスを提供しました。こうした取り組みによる効果が、アベノミクス効果による市場環境や企業マインドの好転と相まって、長引く低金利によるマイナスの影響を打ち消した上でさらに国内事業収益をプラスに転じさせることができたという点が、この中期経営計画での一番の評価ポイントではないかと感じています。

海外事業がグループの成長を牽引

そうは言いましても、成長ドライバーが海外事業であることは確かです。国際部門の営業純益は年率10%以上の伸びを見せています。北米・東南アジアの2市場では、リテール取引も含めた「総合金融化」をめざし、米国MUFGユニオンバンクの事業と三菱東京UFJ銀行米州事業の統合、タイのアユタヤ銀行の買収および三菱東京UFJ銀行バンコック支店との統合を実現しました。プロジェクトファイナンスの分野では、3期連続世界No.1となるなど、花を咲かせてきました。
また、昨今の金利動向を踏まえ、これまでのように国債の売却益で収益を上げることが難しくなった市場部門から、収益の軸足を顧客部門へと移していくことも課題の一つでした。各顧客部門の施策を着実に遂行できたことで、計画通りにリバランスできたことも、この中期経営計画での一つの成果だと考えています。

前中期経営計画期間での課題認識

前中期経営計画では、「成長性」「収益性」「健全性」の観点でそれぞれ財務目標を掲げ、その達成に向け役職員が一丸となって努力しました。「経費率」のみ海外事業への積極的な資源投入等により目標未達成となりましたが、それ以外の項目では目標を達成することができました。特に、財務健全性を示す「普通株式等Tier1比率」においては、2019年3月末に適用される規制に基づいた試算値においても十分な比率を確保することができました。
一方、前中期経営計画期間においては、大きく3つの課題が抽出されました。1つは、生産性の向上です。具体的には一人当たりの生産性、リターンを意識した投資効率という視点での生産性、そして資本効率をさらに向上させることが必要だと認識しています。
課題の2つ目は、グローバルレベルでのガバナンス(企業統括)の強化です。前述したように海外事業が業績を牽引する事業として存在感を高めるなか、国際金融規制への対応は急務となっています。国や市場ごとに異なる規制やルールを的確に把握し、順守すること、そして各地域の事情を本部でしっかりマネジメントすることが非常に大切です。ガバナンスの強化には、外部の目が重要な機能を果たします。外部には、お客さま、各地域社会、規制当局などさまざまな目がありますが、社外取締役の存在はステークホルダーの代表として特に重要です。
そして最後の課題は、環境変化に的確に対応し、その変化に合わせてビジネスモデルを進化させていくことです。これは絶えることなく常に課題としてあり続けるものですが、今後日本でも新産業の成長や企業の国際競争力強化に向けた事業再編といった新陳代謝が活発になることが予想されます。そうしたなか、金融機関も積極的にそれを支援するビジネスモデルを構築し、これまでの貸出中心のビジネスから、業務の多様化・ビジネスミックスの拡充を図っていく必要があると考えています。

前中期経営計画(2012-2014年度)達成状況

3.長期的な経営戦略

国内では金融業界をリードする地位を堅持し、アジアでトップリーグ、米国でトップ10入りをめざす

次の10年に向けて

このような課題を認識しながら、MUFGの新中期経営計画がスタートしました。この計画策定にあたっては、10年後の経営環境変化を見据え、そのファーストステップとしての3年間をどう位置づけるかという視点で検討を重ねました。10年後、国内ではさらに少子高齢化が深刻な問題となる中で、女性の社会進出・活用やシニアの活躍が進み、その一方で次世代の育成が今以上に大切になってくると考えます。このような人口動態・社会構造の変化に加え、街のコンパクトシティ化やICT技術の飛躍的進歩なども見据えると、お客さまとの接点である店舗の形態も相当変化することが予想され、間違いなくオムニチャネル化*1が進んでいくと思われます。また、企業セクターでは、新しい産業の勃興による新陳代謝や、今以上にグローバル化が進行することが予測されます。
こうした見取り図の中で、MUFGはどのような針路を取るのか。まず、間違いなく言えることとしては、今後もしっかりと軸足は国内事業に置き、日本再興戦略の成功に向けて貢献する金融機関としてあり続け、金融業界をリードする地位を堅持する、ということです。
成長を牽引する海外事業においては、アユタヤ銀行、MUFGユニオンバンクを活かしてアジアでトップリーグ、米国でトップ10入りをめざしたいと考えています。また、事業領域の拡大も重要なテーマです。現在の貸出中心のビジネスモデルから、トランザクション・バンキング*2まで幅広く事業を広げます。投資家への販売を前提とし貸出などを行うオリジネーション&ディストリビューションも行うことで、効率的な資産の活用をめざしていきます。同時に、新興諸国を中心に所得水準の上昇や金融資産の蓄積が進んでいく国・地域が増えていく中で、アセットマネジメント事業をこれまで以上に強化していきます。そして、国内外で存在感のある金融グループとしての地位を確固たるものにします。
さらに経営基盤の強化が挙げられます。これからの金融を変えていく一つの大きなカギとなるのはICTの活用だと思いますが、加えて、ガバナンスの高度化や、経営情報システムの高度化など、一連のインフラの強化も重要と考えます。

  • *1 店舗・ATM・電話・インターネットなど、あらゆるチャネルを最適な組み合わせで連携させ、お客さまにサービスを提供する手段
  • *2 預金業務・内国為替業務・外国為替業務およびそれに付随する業務(キャッシュ・マネジメント、トレードファイナンス)の総称

4.新中期経営計画の概要

「お客さま起点」「グループ起点」「生産性の向上」を図り、環境変化に対応するための進化・変革を続ける

環境変化に対応し、変革を続ける

先ほどご説明した10年後の環境変化、そして私たちのめざす姿を見据えた上で策定した新中期経営計画では、「持続的なグループの成長に向けた進化・変革」をスローガンに、5つの基本方針を定めました。この基本方針の下、具体的な事業戦略策定においては、MUFGグループ全体で共有する考え方の軸として「お客さま起点」、「グループ起点」、「生産性の向上」の3つの考え方を掲げました。「お客さま起点」とは、お客さまのニーズの変化を的確に捉え、そこを起点にビジネスを組み立てるということです。「グループ起点」とは、より一層グループの一体化を進め、グループとしての全体最適をめざすということです。「生産性の向上」は合理化・効率化をよりさまざまな業務で深化させていくということです。これは、規模の拡大にのみ目を向けるのではなく、資本に対していかに高い収益を上げ、資本効率を上げていくか、とうことにもつながります。この3つの考え方を軸に部門、業態、国内、海外という壁を乗り越え、グループ一体となって7つのグループ事業戦略、4つの経営戦略を推進していきます。

新中期経営計画(2015-2017年度)概要

最後に

信頼・信用の絆を守り続ける

金融業界に限らず、市場環境は絶え間なく変化を続けるものであり、金融規制環境も、経済動向や時代の変遷とともに変化するのが常です。その中に身を置きながら、私たちにとって非常に重要で、かつ、いかなる環境変化があろうとも永遠に変わらないもの、変えてはならないものが、「経済の血流」であるという本源的な社会的役割を揺るぎない使命として担っているということです。
MUFGは、この「経済の血流」としての本来の社会的使命を果たすとともに、持続可能な社会の実現に向けて、金融本業の業務を通じて社会課題の解決に貢献することが大切だと考え、各種の取り組みを進めてまいりました。日本経済は今、再生へ向けた道のりを歩んでいますが、「今こそ、私たちの出番だ」という意気込みで、その再生を力強く後押ししてまいります。
そしてそのような取り組みを進めていく中で最も大切にしなければならないのが、ステークホルダーの皆さまと長い年月をかけて築き上げてきた信頼・信用の絆です。お客さまと長期的な信頼関係を築くことで、私たち自身もお客さまとともに持続的な成長を実現していきます。その成長の果実を株主・投資家の皆さまと分かち合える、そういう金融機関をめざしていきたいと思います。そして、揺るぎない社会の礎としての使命を常に心に刻み続けてまいります。
皆さまにおかれましては、MUFGの取り組みにご理解・ご支持をいただき、今後もご支援を賜りますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

2015年7月
代表執行役社長 兼 グループCEO

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