社外取締役インタビュー

取締役 奥田 務 J.フロントリテイリング株式会社相談役

略歴

1964年、大丸に入社。1997年に同社代表取締役社長、2003年に同社代表取締役会長兼最高経営責任者に就任。2007年にJ. フロント リテイリング代表取締役社長兼最高経営責任者、2010年に同社代表取締役会長兼最高経営責任者に就任。2014年より同社相談役を務める。2014年より三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役に就任(現職)。

MUFGのコーポレート・ガバナンスをどのように評価していますか。

2015年6月の株主総会を経て、MUFGは「監査役会設置会社」から「指名委員会等設置会社」に移行しました。指名・報酬・監査という法定の3委員会に加え、リスク委員会を設置しているのが特徴的です。取締役会は、実業界、法曹界、会計税務界、学界等で豊富な経験、広範な見識や専門知識を有する方々を社外取締役として迎え入れ、バランスのとれた構成となっています。議論もオープンマインドで活発に行われており、社外取締役の多面的な見方が、取締役会の活性化や監督機能に貢献していると思います。

取締役会の終了後、社外取締役全員が出席する「独立社外取締役会議」があり、当日の議論や進行、執行側からの説明内容や資料のあり方、そして経営課題などに忌憚のない意見を述べ合います。その後、取りまとめ役の私から会長、社長に出てきた議論の内容を洗いざらい報告します。この際、より深く問題を理解するため、社外取締役向けにレクチャーの場を設けてほしいとお願いすることもあります。これに対し会長、社長は、オープンマインドで、その場で対応策を打ち出していきます。すばらしい仕組みだと思いますし、トップ自らが真摯に取り組まれる姿勢が非常に印象的です。

「指名・ガバナンス委員会」の委員長として、どのような役割を果たしていますか。

監査役会設置会社であった2005年のMUFG発足時から任意の3委員会があり、2014年からは並行して取締役会評価を運用してきた基盤の上に「指名委員会等設置会社」に移行しています。指名・ガバナンス委員会は初年度から機構的にも、機能的にも大変スムーズなスタートが切れたと自己評価しています。

後継者は、人的側面、職務の要件、過去のバックグラウンドの3つから選定を行っています。指名・ガバナンス委員会では設立以来、人的側面の評価軸や重要な職務の定義を明確にする作業を徹底的に行ってきました。そして2016年4月、所定の手続きに基づき、商業銀行、信託銀行のそれぞれのトップ、そしてトップを取り巻く重要な経営人材について指名しました。どういうステップで進めたのか、いかに透明に、しかも具体的に行われたか、きちんと説明できるレベルであると自負しています。組織を整えるのと並行して、実際に指名する過程も経験しPDCAが回せましたので、指名・ガバナンス委員会として非常に実りの多い1年であったといえます。

後継者を選定していくサクセッションプランについて何か、課題はありますか。

後継者選びでは、人的側面のほか、攻めに強いのか守りなのか、順境に積んだ経験なのか逆境なのかなど人材プールの深さと幅、それらの組み合わせが問われますが、その点、人材が豊富なMUFGに心配はありません。今後は、5年、10年のサクセッションプランのなかでグループを俯瞰し、候補者の資質に応じた経験を埋め込んでいかなければならないと考えています。

また、社内はもちろん、社外取締役についてもサクセッションプランが必要となります。従来、社外取締役の選定は、「誰を」を中心に行われてきました。しかし、社外取締役の選任は本来、「誰を」ではなく、「今後、取締役会にどのようなバックグラウンドやキャリアを持つ人材が必要か」という視点で検討されなければなりません。その点では、グローバルな金融機関として、社内外ともに外国人の起用を考えるといった多様性の拡充も検討課題の一つといえます。

3回目となる取締役会評価については、どのような議論がなされていますか。

取締役会評価は3年目に入り、評価レベルが格段に向上してきました。これに対し取締役会は今後も、コーポレート・ガバナンスの高度化に不断の努力を重ねていくことで一致しています。

今回の評価では、モニタリングシステムをいかに高度化していくか、経営を取り巻く環境変化にいかに対応していくか、が議論になりました。

戦略から計画の遂行といった流れのなかでどのような量的変化を追っていけば、経営の実態を取締役会がより正確に把握できるのか。モニタリングすべき項目をもっと明確にしていこうと考えています。

一方、現実に起きている事象は捉えやすいが、環境が激変するなかで、いかに将来の経営に関わる重大な課題を見つけ出し、どのような優先順位・スピード感で議論していくのか。個々人の環境認識や問題意識を取締役会としてどう吸い上げ、全体で議論していくか。現状、取締役会での議論のあり方そして割く時間が足りないのではないかなどが問題提起されています。

また、今回顕著であったのが、コーポレートカルチャーに関する議論です。コーポレートカルチャーは、企業の信用や伝統を支える一方で、挑戦や革新に対してはネガティブな面もあり、運営そのものによって変わってきます。MUFGは非常に強いブランド力を持つがゆえに、さらに持続的な成長を遂げていくには、コーポレートカルチャーの良い面にさらに磨きをかけることが重要な経営課題の一つであると認識しています。

コーポレート・ガバナンスには2つの目的があります。1つは、どのようにリスクを回避するか、どのようにして不祥事を防ぐのか。いかにリスクとミスを減らすか、社外取締役の選任に代表される「守り」のガバナンスです。これに対し、日本の成長戦略の一角に据えられたのが、いわゆる「攻め」のガバナンスで、企業がいかに持続的な成長を遂げ、中長期的な企業価値の向上を実現していくかが争点です。MUFGは世界で幅広く事業を展開する金融グループだけに社会的な責任も大きく、株主利益の追求とその責務をどのようにバランスをとっていくかが問われます。

さまざまな経営課題が次々と現れるなか、プレッシャーもありますが、しがらみのない、大きな目で経営を見ていく社外取締役の役割をこれからもしっかりと果たしていきたいと考えています。

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