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ビッグデータと画像認識技術で為替相場を高い確率で予測する「AI外貨予測」

じぶん銀行 執行役員 決済・商品開発ユニット長 兼 商品開発部長 榊原一弥氏(左) AlpacaDB Inc.Head of Japan R&D 北山朝也氏(右)

ビッグデータと画像認識技術で為替相場を高い確率で予測する「AI外貨予測」

2017年6月28日、じぶん銀行がAIを活用して為替相場の変動を予測するサービス「AI外貨予測」をリリースした。これは邦銀としては初めてのことだ。

このサービスは、じぶん銀行と、FintechベンチャーであるAlpacaDB Inc.(以下アルパカ)が共同で開発したものである。アルパカが保有している膨大な外国為替相場のバックテストデータに基づき、AIを活用して、外貨預金取引を賢くサポートするためのツールとして、じぶん銀行の顧客向けに提供を始めたものだ。

じぶん銀行は、KDDIと三菱東京UFJ銀行が出資し、スマートフォンのアプリをメインに金融サービスを提供しているネット専業銀行で、顧客は現在約250万人を抱える。

一方、アルパカは、三菱UFJフィナンシャル・グループが主催する「MUFG Digitalアクセラレータ」に参加し、金融工学や画像認識技術、深層学習(ディープラーニング)技術を複合的に用いた投資アルゴリズムの開発を得意とする米国のベンチャー企業だ。
 

「顧客の思いを賢くサポートしたい」

その両社が出合ったのは2016年の5月頃。それから1年後には「AI外貨予測」のサービスが誕生したのだが、そもそもどのような経緯と背景で、「AI外貨予測」サービスは誕生したのか。じぶん銀行執行役員の榊原一弥氏は次のように語る。

榊原氏「創業以来、外貨預金には力を注いできており、アプリで取引ができる便利なサービスということで利用している方はかなりいらっしゃいます。しかし、日本の超低金利が長引くなか、より多くのお客さまに外貨預金を利用していただきたい。

そこで、お客さまに外貨預金の動機をアンケートしたところ、意外にも、為替取引のタイミングがわからないからやらない、タイミングがわかればもっとやりたいという意見が多かったんです。

いろいろ話し合いを重ねてきて、2016年8月の『MUFG Digitalアクセラレータ』の最終日のデモデイに、共同開発の合意に達したことを発表することになったわけです。」


「AI外貨予測」の誕生背景を語る じぶん銀行の榊原一弥氏

顔マークで相場の変動予測を伝える

両社が共同で開発した「AI外貨予測」は、じぶん銀行のアプリ内で利用できる。予測の対象となる通貨は、「米ドル」「豪ドル」「ユーロ」「南ア・ランド」「NZドル」の5つ。

具体的には、「1時間以内」「1営業日以内」「5営業日以内」の為替相場の変動を予測する。

「1時間以内」の予測には、15分足を使用し、月曜日7時から土曜日12時まで15分おきに更新を行う。そして「1営業日以内」の予測には、4時間足を使用し、月曜日9時から土曜日12時まで4時間おきに更新する。
また、「5営業日以内」の予測には、24時間足を使用し、火曜日9時から土曜日9時まで1日おきに情報を更新する。その結果を緑、赤、グレーの顔マークのアイコンで表示するものだ。

緑の顔マークが出た場合は、為替相場は上昇トレンドであることを示し、赤の顔マークが出たときは下降トレンドを示している。グレーの顔マークが出たときには、相場の変動があまり見られないということを表す。

いずれも、AIで算出した確率が55%以上になったときは緑、45%以下になったときは赤の顔マークが出現する。45%から55%の間だとグレーの顔マークが継続する。確率45/55%が相場変動の表示切り替えの基準となっている。

そして、表示されている顔マークのアイコンをタップすると、上昇や下落予想の確率や、高値、安値の予測などの詳細な変動予測を閲覧できる。また、「5営業日以内」の終値が上がる確率が一定以上になったときには、その情報をスマホの「プッシュ通知」で知らせる機能もついている。ユーザーにとってみれば、スマホに「プッシュ通知」が配信されるので、いつでも、どこでも、タイミングを逃さず取引ができるメリットがある。

では、「AI外貨予測」は、どんなふうに利用されているのか。榊原氏は次のように語る。

榊原氏「私も驚きましたが、平日の実績では、ひとりのユーザーが1日に平均7回から8回は『AI外貨予測』を見てくれています。とくにまだ、利用者の声をトレースできていないのですが、ツイッターなどでは『おもしろいね』という声があります。

1日のアクセス数は1万件を超えていますし、事実、このアプリをリリースしてから、外貨預金の取引量も増えていると感じます。

たとえば、8月11日(金)に、ユーロの上昇確率が高いという予測が出現して「プッシュ通知」が配信され際、通常は比較的取引量が少ないユーロの取引量が格段に増えたこともあります。」

画像認識技術を主体に相場を予測

ではいったいどのように、「AI外貨予測」は相場変動を予測しているのだろうか。アルパカの北山朝也氏はこう話す。

北山氏「専門用語で言えば、『特徴量抽出技術』といいますが、画像認識の技術を使っています。AIが現在の為替レートを画像として認識し、その画像を過去の為替相場変動のビッグデータと照らし合わせて、似ている動きを探す。それを最適化技術によって、どのくらいの期間で、どのくらいの価格の上昇、下落が見込めるかを計算し、今後の為替相場の変動や為替レートを予測するわけです」


開発の苦労話を語るアルパカの北山朝也氏


開発自体の苦労はどんなものがあったのか、北山氏はこう続ける。

北山氏「『AI外貨予測』の仕様の一つひとつを、解析結果を基にじぶん銀行さんとディスカッションしながら決めていくというプロセス自体が一番大変だったかな、と思います。

『AI外貨予測』がまったく世の中にない初めてのものですから、こうすればいいという前例がありません。ですから、大変だったけれど企画段階のディスカッション自体がもっともおもしろい部分だったかな、とも思います。」

榊原氏はこう語る。

榊原氏「アルパカさんの人工知能の技術は大変素晴らしいので、技術面はすべてアルパカさんにお任せしました。一方で、限られたスマホのスペースのアプリのなかで、どう見せたらわかりやすいかとか、次のページはどうするかとか、UIデザイン・設計の部分は、これまで外貨預金を行ってきた経験や知識を活かして、当社が担当して、それを合わせたというかたちですね。」

ユーロは80%以上の確率で予測があたる

そのようにしてディスカッションをしながら生まれた『AI外貨予測』だが、気になるのは「AI外貨予測」の予測と、実際の相場の動きとどれだけ合致しているか、である。それについて、榊原氏はこう話す。

榊原氏「アルパカさんから一定期間ごとに解析レポートを出してもらうことになっていますが、今回取り急ぎ提供開始後1ヵ月過ぎた時点で『5営業日以内』の解析をお願いしました。

それによると、ユーロなどは80%以上の確率で予想が当たっているという結果を得ています。5通貨の平均値では、私どもの期待値(55%以上)を超える確率が出ていました」

FXなどの為替相場分析には、一般的に、移動平均線やMACDなどのテクニカル分析で相場の変動を読んでいくが、それと「AI外貨予測」の分析は何がどう違うのか。北山氏が答える。

北山氏「移動平均線はプライスの移動平均しか見ていませんが、そこから分析できる情報量というのは、手法を高度にすればするほど上がっていきます。今回の手法も、ある意味機械学習的な画像認識のアプローチを取ることによって、移動平均線よりも、より多くの情報を分析できるということになります。

そして、AIが過去のデータや今後のデータから学習し続ける点が、FX業者などが提供している、一定のアルゴリズムに則ったトレードシステムと大きく異なるポイントです。」

第二フェーズの開発へ

2017年6月28日に「AI外貨予測」のサービスを提供したばかりだが、じぶん銀行は次のバージョンアップのための研究・開発に取り組んでいる。今度はディープラーニング技術を使っていくそうだ。

榊原氏「次期サービスに利用する新AIについてはかなりできあがっていて、実際の為替レートを使用した内部テストを繰り返しています。次世代の『AI外貨予測』は何をやろうとしているのかと言えば、1ヵ月間(1日から月末日まで)で『今日が最安値の日』を予測することにチャレンジしています。

現在の『AI外貨予測』は、アプリを開いた瞬間に今日上がるか、下がるかを示すだけで、開いた瞬間の状況しかわからない。しかし、現在開発中のAIは、常に相場を分析していて、今日が最安値だという予測をするというもの。

2016年から外貨積み立てサービスを行っていますが、これの進化版として、このAIを使って最適なタイミングで積み立てができるものをつくろうというものです。

つまり、現在の外貨積み立ては毎月決められた日に外貨を積み立てますが、次サービスでは、AIが最適と判断する積み立て日を選んで、外貨の積み立てを実行するというものです。すでに、特許の出願も終えています。」

じぶん銀行では、この新サービスを2018年3月までにはリリースしたいと考えている。これがリリースされると、為替の相場変動予測を外貨積立という資産運用手段に応用した画期的なサービスとして評価されるのは間違いないだろう。