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運用しない投資ロボアドと金融カードゲームで、投資と教育界の新機軸を狙うGoodMoneyger

正しい金融知識の普及・浸透と、安全な投資アドバイスを提供するために、思い切ってGoodMoneygerを設立したと話す、創設者の清水俊博氏。

運用しない投資ロボアドと金融カードゲームで、投資と教育界の新機軸を狙うGoodMoneyger

金融は私たちの日常生活に必要不可欠な存在だ。しかし、金融についてきちんと学べる場は少ない。その為、金融や投資は怖い、難しいといったマイナスイメージが間違って広まっている。GoodMoneygerは、そんなイメージを払拭し、正しい金融知識の普及・浸透と、安全な投資アドバイスを提供するために設立された。この社名には、金融教育を通じて、きちんとお金の管理ができる人が増えてほしいという願いが込められている。

その願いを実現するためにGoodMoneygerが開発したのが、個人の資産状況を分析し、投資に関するアドバイスを行うツール「VESTA」(ロボアドバイザー)と、カード型の金融ゲームコンテンツ「Asset Allocation」である。この2つのツールとは、いったいどのようなものだろうか。三菱UFJフィナンシャル・グループ主催の第2期「アクセラレータ・プログラム」の参加企業、GoodMoneygerの創設者である清水俊博氏に聞いた。

「ビッグ・ファイブ理論」も用いてアドバイス前に個人を診断 投資アドバイスツール「VESTA」とは?

「投資」を意味するinvestmentから名づけられた「VESTA」は、AIを利用したGoodMoneyger独自の投資サポートツールである。「クライシス・マネジメント型」のアルゴリズムを使って、投資すべき銘柄や各銘柄の保有比率、売買のタイミング、内外の景況感などをアドバイスする投資アドバイスサービスで、金融のプロが実施している投資手法を、アプリを通して提案してくれるというものだ。

アドバイス前には必ず診断が行われ、個人(家族)の資産状況をはじめ、「リスク許容度」と「期待リターン」も確認される。どのぐらいのリスクまでなら許容できるのか、どのぐらいのリターン(利益)を望んでいるのかなどをチェックされることは、投資のアドバイスをしてもらう上で欠かせない要件だ。

さらに、今後は人間の性格を5つの要素で捉える「ビッグ・ファイブ理論」を基にした性格診断の実装も予定されている。その人が神経質な人なのか、あるいはケアレスミスの多い人なのか、個々の性格の違いによってアドバイスの内容は変わってくると言う。実は、投資にとってメンタルは非常に重要なポイントだと、清水氏は話す。


オンライン投資アドバイスを利用しているのは、30代が多いそうだ。
また、オンラインでは、中・長期の投資アドバイスに特化し、推奨商品もノーロードの投資信託とETFに限定している。

オンラインとオフライン(対面)で具体的なアドバイスを提供

投資アドバイスは、「VESTA」による分析結果と個人の診断内容を基に行うのだが、サービスには、オンラインとオフライン(対面)の2つがある。「オンラインを利用するのは、これから資産運用を本格的にしようと考えている30代の方が多いんです。ただし、オンラインではどうしてもきめ細かなサービスをするには限界があるため、中・長期の投資アドバイスに特化し、さらに推奨商品も投資信託とETFに限定しています」と清水氏は語る。

一方、オフラインを望むのは投資経験者が多く、主に50代から70代の方が利用している。投資信託やETFをはじめ、個別証券や債券、為替などあらゆる金融商品について具体的に銘柄を推奨し、売買のタイミングも指示する。また、本人が所有している金融商品についても評価を行い、適切な売買チャンスのアドバイスも行う。ときには必要に応じて、ゲーム型の金融勉強コンテンツを利用して、マクロ経済など社会の大きな流れについても説明すると言う。

しかし、オンラインでもオフラインでも、大きなレバレッジを効かせる金融商品については、アドバイスはしていない。商品先物取引などは対象外であり、為替取引もレバレッジ1倍で取引を行う場合のみアドバイスをしている。これはGoodMoneygerがIFA(インデペンデント・フィナンシャル・アドバイザー)という、金融機関から独立した資産運用アドバイザーという位置づけにあるからだ。

さらに、「VESTA」の特徴として言えるのは、月初めに、その月は相場が良いのか悪いのか、あるいは現状維持のままなのかの見通しを、四季になぞらえて分かりやすく表現していることである。清水氏は次のように説明していた。「たとえば『相場の春』なら『相場が上がりつつある時期であり、株式やREITなどへの投資が推奨できる時期』となります。『夏』なら『相場がピークを迎える時期であり、株式などへの投資が推奨できる時期』で、『秋』は『相場のピークが過ぎる時期であり、リスク逃避を考え、債券など安全資産への投資を推奨する時期』です。『冬』は『相場が崩れる時期であり、リスク逃避の季節。債券や現金など安全資産への逃避を推奨する時期』となります。」

他のロボアドバイザーとは一線を画す「VESTA」のビジネスモデル

「VESTA」は、最近よく耳にするロボアドバイザーの一種だが、他のロボアドバイザーとはビジネスモデルが異なる。たとえば、ウェルスナビやTHEOなどは、分散投資の手法を自動化し、顧客から預かった資産を運用して成果を出す。そして、ポートフォリオの評価額の数パーセントを手数料として徴収する。ちなみに、ウェルスナビやTHEOの手数料率は現在のところ1%となっている。

それに対して「VESTA」は、顧客から資産を預かって自ら運用して成果を出すのではなく、あくまでも顧客への「投資アドバイス」に徹する。収益源は、提携している証券会社からの「紹介料」である。

「VESTA」ではまず、ユーザーに会員登録(無料)をしてもらってから、IFA契約をしている証券会社(楽天証券)に口座を開設してもらう。その会員が「VESTA」のアドバイスによって金融商品を売買したいとGoodMoneygerに伝えると、GoodMoneygerは会員の注文を証券会社に取り次ぎ、「紹介料」がその報酬として支払われるという仕組みである。前述もしているが、「VESTA」はロボアドバイザーであるものの、そのビジネスモデルゆえに他とは一線を画していると言えるだろう。


遊びながら金融について学べる、カード型金融ゲームコンテンツ「Asset Allocation」を実践する清水氏。

ゲーム型の金融勉強コンテンツとは?

「VESTA」の他に、GoodMoneygerの事業の大きな柱の一つとして金融教育があり、ゲーミフィケーションを取り入れた金融教育も行っていると清水氏は語る。それが東京大学の研究室とともに開発した、金融について遊びながら学べるカード型金融ゲームコンテンツ「Asset Allocation」である。

これはカードを使ったゲームで、経済の仕組みと金融について直観的に理解できるオリジナルツールだ。必要な金融知識を、無理なく習得できることを目的に開発された。

たとえば、カードに書かれた「日銀の金融緩和」や「イギリスのEU離脱」「米大統領選挙」「北朝鮮のミサイル開発」といった政治・経済に影響するイベントによって、米ドルやユーロ、株価が上がるか下がるかを当てるゲームだ。難しいと言われる経済や金融を面白く学ぼうという意図が、ゲームの根底にある。

そして、なぜ米ドルやユーロ、株価が上昇するのか、下落するのかを、ゲーム相手に丁寧に説明を行うことで、世界経済や社会の大きな流れを理解してもらうというシステムである。そのことがすなわち、投資の世界で長く生きていける糧になると清水氏は話す。

現在は金融機関での研修をはじめ、学習塾でも取り入れられるなど、提供先を拡大させている。金融へのアプローチの斬新さもさることながら、様々な意味で楽しめるツールとして位置づけられているのだ。

GoodMoneygerは「拡大フェーズ」へ突入、ビジネスの裾野をますます広げている

GoodMoneygerの創設者である清水氏が同社を設立した動機や理由は、氏が京都大学を卒業後に入社したリーマン・ブラザーズ・ホールディングスの倒産と無縁ではない。「私は2008年3月に大学を卒業し、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスに就職しました。当時、全米第4位、格付けも3Aと破格の評価を得ていた大手金融会社が、負債総額6,000億ドルを抱えてその年の9月に倒産したことを覚えている人は多いことでしょう。その影響は各方面におよび、全世界同時不況という、まさに『100年に一度』と言われたリーマンショックを引き起こしました」。

そのときに清水氏が思ったのは、「金融危機が叫ばれながらも直前までバブルに沸いていた市場や、リーマンショックで大きな損失を被った投資家を見て、きちんとした金融教育を受けていれば、いち早く市場から撤退するという自衛策も取れたのではないか……」ということだった。

さらに、「欧米では子どものころから基本的な金融教育を実施しているが、日本ではそうした教育方針が全くない。これでは将来、交通ルールを知らずに車を運転するようなもので、危なっかしくて見ていられない」とも思ったそうだ。

その思いは、投資銀行のLazardやヤマトキャピタルパートナーズ(現YCP Holdings Limited)、ミクシィの子会社のコンフィアンザの代表取締役を経験しても、ずっと胸の奥にあり続けた。さらに、父親をはじめ親族や友人から投資相談を持ちかけられることも多くなり、個人投資家のための金融サービス、教育の重要性をさらに痛感することになり、2015年に思い切って起業に踏み切ったと言う。

現在、会員数が順調に伸びているGoodMoneyger。ビジネス面では、マネックス証券のユーザーに相場分析レポートを配信している。また、カブドットコム証券とはAPI連携を行い、どのようなサービス内容にするかを検討中である。今後は、ビジネスの裾野を401Kや年金、保険、不動産分野に広げることも視野に入れていると話す清水氏。「拡大フェーズ」に入ったGoodMoneygerの勢いは止まりそうにない。