「グランプリは株式会社クレジットエンジン!」——。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、世界に変革をもたらす熱意を持った起業家、ベンチャー、スタートアップを支援する「MUFG Digital アクセラレータ」のDEMO DAYが2018年7月27日に東京国際フォーラムで行われた。グランプリに選ばれたクレジットエンジンの名が呼ばれると、会場は大きな歓声に包まれた。
このプログラムは今年で3期目。書類選考などを経た6社——株式会社AndGo、MDR株式会社、株式会社クレジットエンジン、株式会社ノーニューフォークスタジオ、株式会社FACTBASE、RESTAR株式会社——がおよそ4ヵ月にわたってメンターからアドバイス、指導を受けながら、サービス・事業プランを練り上げてきた。
その集大成となるDEMO DAYでは、各社の代表が成果を発表。クレジットエンジンがグランプリに選ばれたほか、準グランプリにはMDR株式会社、RESTAR株式会社が選ばれた。また今回から新設されたオーディエンス賞には株式会社ノーニューフォークスタジオが選出された。
6社の中には、DEMO DAY当日にグループ企業との具体的な業務提携などを公表した企業も。4ヵ月間という限られた期間の中で、着実に事業が加速してきたこともうかがえた。
4ヵ月間の成果はいかに? アクセラレータ参加6社の発表内容
各社の発表に先立ち、MUFG執行役専務グループCIO兼グループCDTO・亀澤宏規氏があいさつ。「これまでアクセラレータプログラムに参加した企業とMUFGは一緒にサービスを開始し、必要に応じてMUFGから出資させて頂くこともありました」と実績を強調したうえで、「今回のアクセラレータでも、これを終わりにするのではなく、スタートになることを期待しています」と述べ、グループとしてのプログラムへの期待の高さを示した。
当日は各社の代表が登壇、各社7分という限られた時間の中で、プログラムの成果をアピールすべく熱のこもったプレゼンを披露した。各社の発表からは力の入りようがひしひしと伝わってきた。その内容を発表順にお伝えしよう。
(1) クレジットエンジン——レンディングサービスの開発
中小企業や個人事業主などに向けたオンラインレンディングサービス「LENDY」を提供するクレジットエンジン。金融機関の資金力と顧客基盤、同社が持つテクノロジーをかけ合わせて、新たな融資先の開拓を行うため、本プログラムでは金融機関がオンラインレンディングサービスを提供できるようにするプラットフォームの開発を進めてきた。
プレゼンテーションを行うクレジットエンジン代表・内山氏
アクセラレータ期間中にMUFG傘下のアコムでPoCを実施したところ、オンラインレンディングがもたらすインパクトは非常に大きく、銀行のオペレーションを圧倒的に効率化し、審査コストも削減できることが明らかになった。
発表の最後には、三菱UFJ銀行と提携し、同行がクレジットエンジンプラットフォームのファーストユーザーになることを発表。会場は大きな拍手に湧いた。
(2) ノーニューフォークスタジオ——スマートフットウェアの開発
今回から設けられた参加者投票によるオーディエンス賞を受賞したノーニューフォークスタジオ。LEDライトとモーションセンサーを搭載したスマートフットウェア「オルフェ」を開発。そこから得られるデータをアセットとして活用できないか検討を続けた。
光る「オルフェ」を身に着けピッチを行う、ノーニューフォークスタジオ 菊川氏
同社がまず注目しているのは、ランニング市場だ。健康意識の高まりやランニング・ジョギングブームにより、ランナーの数が増えているが、それと比例して膝を痛める人も増えている。これを解決するには、着地を改善する必要があり、スマートフットウェアによるトラッキングが有効ではないかと検証を行った。
大学との共同研究で、スマートフットウェアによるトラッキングの効果が見込めることが判明。来年3月の発売に向けて、準備を進めるとともに、三菱UFJ信託銀行が行う情報信託プラットフォームの第一弾実証実験に参加。スマートフットウェアから得られるデータの利活用を進めていく。
(3) MDR−−量子コンピュータの開発
「人類の解けない問題を解く」を理念に掲げるMDR。現代社会が抱える課題を解決するには量子コンピュータが必要であるとし、本プログラムでは銀行業務への適用について議論を重ねてきた。
現在実用化されつつある特化型量子コンピュータでは、資産運用や業務効率化など最適な組み合わせを解くことには活用ができる一方で、セキュリティなどについては汎用型量子コンピュータが必要になると結論づけた。
MDRとしては、この汎用型量子コンピュータの実用化に向けて挑戦すると発表し、三菱UFJ銀行と量子コンピュータに関する共同研究の検討を開始したことを発表した。いずれ誕生すると考えられている汎用型量子コンピュータ時代に向け大きな一歩を踏み出したといえそうだ。
MUFGとの共同研究の開始について発表するMDR代表の湊氏
(4) RESTAR——不動産情報収集・分析プラットフォームの開発
不動産投資を行う法人向けの情報検索分析プラットフォーム「REMETIS」を開発しているRESTAR。膨大な時間を要する不動産投資に関するデータ収集や分析作業を効率化させるべく、新たなサービスの開発を行っている。本プログラム期間中に外資系投資会社3社による利用を進めるなど、着実に成長を続けていることが発表された。
今後のロードマップについて語るRESTARの右納氏
また、本プログラムでは、三菱UFJ銀行の与信審査業務にどれくらい貢献できるか議論を重ねた。その結果、情報収集、データ加工、分析までをワンストップで行い、与信先の収益不動産の審査を自動化することで、審査にかかる時間を現状から90%削減可能という試算に至ったそうだ。
今後、MUFGとの協業に向けてさらに検証を進めることも発表した。
(5) FACTBASE——仮想通貨市場分析AIプラットフォームの開発
仮想通貨市場分析AIプラットフォーム「SIGNAL」を提供するFACTBASE。ビットコインの価格が昨年末大きく上昇するなど、仮想通貨市場は大きな盛り上がりを見せた。今後も引き続き注目が集まると予想される中で、現在バラバラになっている情報を収集して、投資判断に役立つ形で提供しようとしている。
同社は現在3.8万人を集める仮想通貨投資コミュニティを来年100万人にする目標を掲げたほか、仮想通貨に関するコンテンツを制作し、ユーザーに提供する構想だ。
プレゼンテーション後に質疑応答を行うFACTBASEの高橋氏
(6) AndGo——仮想通貨ハードウォレットの開発
仮想通貨を安全に保管するためのハードウォレットの開発を行う同社。当日はブースで試作品を展示して、多くの注目を集めた。現存するハードウォレットのように、複雑な操作を必要としない、シンプルな操作性を兼ね備えた商品を開発することに成功したとアピールした。
同社の発表によれば、仮想通貨のハッキング被害は2018年の前半だけで約1,200億円に及ぶ。この課題を解決すべく開発したハードウォレットは来年、2019年1月の発売を予定。3年後には10億円の売り上げを見込んでいる。今後、カブドットコム証券と技術面でディスカッションを継続していく。
ハッキング被害額の大きさについて語るAndGoの原氏
過去参加スタートアップは着実に成長、MUFGとの協業も進む
6社の渾身のピッチが終了、審査が行われている間には過去にアクセラレータに参加した企業がゲストピッチを行なった。
たとえば第1期グランプリ企業で、自然言語を理解して企業分析を行う人工知能を開発するスタートアップ「xenodata lab.」(ゼノデータ・ラボ)は代表の関洋次郎氏が登壇。ダウ・ジョーンズと業務提携し、将来予測AIの開発と営業を始めたことや、同社のxenoBrainが「ひふみ投信」などで知られるレオス・キャピタルワークスに導入されていることなどを発表した。
DEMO DAYの最後には各賞が発表された。前述のとおり第3期MUFG Digital アクセラレータのグランプリに輝いたのは、クレジットエンジン。マーケットを広め、新たな機会創出につながる可能性があること、MUFGとのシナジーが見込めることなどが高く評価された。
クレジットエンジンの代表・内山誓一郎氏は受賞後のコメントで、「賞をいただけて光栄です。事業はまだまだ始まったばかり。これから皆さんと成長できたらと思います」と喜びの声を語った。
またそれ以外の賞は以下の企業が受賞した。
●準グランプリ
MDR
RESTAR
●オーディエンス賞
ノーニューフォークスタジオ
●パートナー賞
AWS賞:クレジットエンジン
MS Azure賞:ノーニューフォークスタジオ
DEJIMA賞:ノーニューフォークスタジオ
PR TIMES賞:全スタートアップ6社
「参加企業同士をつなげるネットワーキングにも注力したい」
DEMO DAYの最後には亀澤氏があらためて登壇、総評として「発表の内容もワクワクするものぞろいで、レベルの高さに息を飲むばかりでした。また、アクセラレータの参加企業も増えてきて、ネットワークに厚みも出てきました。今後は、スタートアップ同士をつなげ、創業、資金調達の支援、そしてMUFGが持つグローバルネットワークを活かして、世界に打って出る機会を創出できればと思います」とコメントした。
回を重ねるごとに参加企業数は増えているアクセラレータ。今回のDEMO DAYの会場は満席で立ち見が出るほど。過去と比べても当日の熱気も回を重ねるごとにますます高まってきている。
次回の第4期にむけて、引き続き関係者の期待は高い。果たして第4期のプログラムはどのようなスタートアップが採択されるのだろうか。過去のプログラムに参加したスタートアップの生んだ成果や、今後生みだすであろう革新的な事業・サービスにもぜひ注目してほしい。