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第3期アクセラレータ参加企業連載 第3話: ~MUFG Digitalアクセラレータグランプリ受賞 クレジットエンジンのオンラインレンディングサービス~

クレジットエンジンのCEOを務める内山誓一郎氏

第3期アクセラレータ参加企業連載 第3話: ~MUFG Digitalアクセラレータグランプリ受賞 クレジットエンジンのオンラインレンディングサービス~

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループが主催する「MUFG Digitalアクセラレータ」の参加企業で初めてプログラム期間中に銀行本体と提携した企業がある。オンラインレンディング事業者の株式会社クレジットエンジンである。同社のCEOを務める内山誓一郎氏に話を聞いたところ、三菱UFJ銀行との連携によって事業拡大の筋道が見えたことや新たな事業アイデアが浮かび上がったことなど、アクセラレータへの参加が今後の飛躍へのきっかけになったことが分かった。

クレジットエンジンのCEOを務める内山誓一郎氏 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)が主催する「MUFG Digitalアクセラレータ」(以下、アクセラレータ)の参加企業で初めてプログラム期間中に銀行本体と提携した企業がある。それが、株式会社クレジットエンジン(以下、クレジットエンジン)だ。今回は最高経営責任者(CEO)を務める内山誓一郎氏にインタビューし、アクセラレータでの取り組みと今後の戦略を話してもらった。

「融資をよりスピーディーに」優れたUIでグッドデザイン賞を獲得

クレジットエンジンは、オンラインレンディングサービス「LENDY」の企画から開発、運営を手掛ける。クラウド会計やオンライン決済、Eコマースの販売実績などのデータを利用して、審査がスピーディーに完了かつ、手続がオンライン完結するのが特徴だ。このサービスは、2017年に公益財団法人日本デザイン振興会が運営する「グッドデザイン賞」を受賞するなど評価されている。

そのサービスの着想は、「中小企業の資金繰りは手間がかかる」という課題感からだという。内山氏は新卒で大手金融機関勤務を経験後、仙台市にて東日本大震災からの復興を支援する公益財団法人に参画し、中小企業復興支援事業の立ち上げに従事した経験を持つ。その際に中小事業者の立場で感じた資金調達の際に作成する資料の多さ、金融機関の審査時間の長さに対する不満が「LENDY」の特徴に生かされている。

サービスは順調に拡大し、クラウドソーシング大手のランサーズ株式会社と協業を実現するなど成果を上げている。

一方で、クレジットエンジンの事業構想が「LENDY」以外にもう一つあった。同社が持つオンラインレンディングに関するテクノロジーを金融機関に提供するサービスだ。最も中小企業の顧客基盤を持っているのは地域金融機関であり、地域金融機関にこのサービスを利用してもらうことで、より多くの中小事業者の課題を解決できるのではないかと考え、内山氏は以前から連携の糸口を模索していた。

その一つが、内山氏が起業する前から注目していたMUFGのアクセラレータだった。海外では既に、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニーがオンラインレンディングサービスの大手OnDeckと連携する動きもある。これから金融機関とオンラインレディング事業者の協業が進むことを見据え、MUFGアクセラレータに参加して金融機関との連携のヒントをつかもうとした。

起業前から参加を希望したアクセラレータ 地方銀行へサービスを展開するヒントをつかむ

内山氏は自社の強みの一つに"デフォルトデータ"の存在を挙げる。「我々は創業当初からデフォルトデータの価値を認識していました。審査に必要なオンライン上の外部の取引データを貯めて、実際に自分たちのお金を貸出し、その返済結果を紐付けることで、モデルの精度を向上させることができます。まだ他社にはほとんどないデータなので、それを外部の方から評価してもらうこともあります」ただ具体的に踏み込んでいくと、金融機関が既に保有しているデータでは自社のモデルの検証が難しく、そのまま金融機関がモデルを採用するのは難しいことがプログラムの中でわかった。一方で評価を得たのが実際の貸出の中で磨き上げたUI・UXと、少人数のスタートアップならではのバックオペレーションの徹底的な省人化であった。銀行担当者からも「最初からこの仕様を検討するのは難しい。やったものでしかわからないノウハウが詰まっている」と評価されたという。

プログラム中に最も時間を費やしたのが、実際に金融機関で利用してもらうために、対応しなければならない「LENDY」との差分の抽出だ。例えば、厳格な融資ポリシー、リスケ対応の有無、基幹システムとの連携、債権の回収・償却等、検討事項は多岐にわたり「同じ融資を提供しているが、銀行法の下で行っている銀行と、貸金業法の下で行っている我々では、異なる部分がたくさんあった。これを完璧に抽出するのは自分たちだけで行うのは難しかったと思う」と内山氏は振り返った。

また、MUFGのネットワークを使い、当初からサービスのユーザーとして想定していた地方銀行にオンラインレンディングに対する取組みについてヒアリングも行った。
「話を聞いて分かったのは、オンラインレンディングに対する姿勢が各行でバラバラということです。進んでいるところもあれば、まだこれからというところありました」

この状況を踏まえ、着想したのがオンラインレンディングシステムを機能ごとに分け、モジュールとして提供できるようにすることだった。「こうすれば、地方銀行の実情に合わせて柔軟に提案できます」と内山氏はメリットを示すとともに「実際に話を聞かなければこのアイデアは浮かばなかった」とヒアリングの成果を述べた。

三菱UFJ銀行との提携 それが実現できた背景とは

クレジットエンジンにとって、アクセラレータ最大の収穫は三菱UFJ銀行との提携だ。銀行本体がプログラム期間中にアクセラレータ参加企業と提携するのは初めてのこと。内山氏も「あわよくばとは考えていましたが、本当に実現するとは」と驚きを隠さない。「正面から提案したのではまず実現しないことです。アクセラレータに参加して、三菱UFJ銀行の担当者と膝詰めで話し合えたのが大きかった」と提携に至った経緯を語る。

提携をバックアップするプロメンターの存在も大きかった。インクルージョン・ジャパン株式会社の取締役・吉沢康弘氏には「大企業と提携する上で何が必要か貴重なアドバイスをもらった。それ以外にも、アクセラレータ期間中は事業に関わる細かいことまで相談しました」とそのやり取りを振り返る。さらに、吉沢氏には過去にアクセラレータに参加した先輩起業家を紹介してもらったという。アクセラレータのことだけでなく、事業の悩みなどを相談できるネットワークができたことは大きい。

企業の信用を評価する基盤になる

見事にグランプリを受賞したクレジットエンジン。そのニュースを耳にした銀行関係者から多数の問い合わせがあった。「PR効果も含め価値の大きさを実感しています」と語る内山氏だが、当面は三菱UFJ銀行との提携に注力する。「提携が成功したらその取り組みを他行でも実施できるかもしれません。事業展開の道筋が一つできました」とアクセラレータ参加を総括した。

また、将来的な展望について「(レンディング領域に止まることなく、)企業の信用評価の基盤として使ってもらえるようなサービスを開発したい」と今後の意気込みを示した。

当初から参加を希望していたアクセラレータで、MUFGが提供したアセットをフル活用した内山氏。これから参加を検討する企業に「アクセラレータを通じて事業をどのように成長させたいか、それがあればMUFGが用意するアセットを使い切れます」とエールを送る。

わずか4ヵ月のアクセラレータで事業を加速するきっかけをつかんだクレジットエンジン。MUFGとの協業が進み、今後さらにサービスが洗練されていくかもしれない。