BPRにデジタルツールを活用し、業務の分析・可視化を促進
Q. デジタル人材の育成に注力するようになったきっかけを教えてください。
瀧本:急速な社会のデジタル化に伴い、三菱UFJ銀行ではDXを推進すべく、これまでに全行員向けのeラーニングや階層別のデジタル研修など、多様な人材育成プログラムを実施してきました。「デジタル人材」というと、プログラミングやアプリ開発などの高度な専門性をもった人をイメージされる方も多いと思います。しかし私たちが研修を通して実現したいことは、誰もがテクノロジーを活用して自分の業務の改善・改革を自ら推進できるような組織づくりを行うことです。
堀内:2020年に始動したDXコア人材の育成プログラム「DEEP研修」では、対象者を絞って研修を行っていたため、DX推進を「一部の限られた人の仕事」と考えていた人も多かったと感じます。しかし、デジタルツールのビジネス活用が重要性を増す中、すべての行員がDXを「自分ごと」として捉え、積極的にDX推進に取り組む姿勢をもつことが重要です。これまでのバンカーとしての金融知識・スキルにデジタルという新たな武器を加え、いかに使いこなすか。デジタルツールを活用した業務フローの改善や作業効率の向上などを、基本的なビジネススキルとして全行員に習得してもらいたいと考えています。
Q.これまでのDX人材育成研修の成果を教えてください。
瀧本:前述の「DEEP研修」では、これまでに500名以上のDXコア人材を育成してきました。修了者は各業務領域において中核的な役割を担い、研修で得た知識・スキルを活かしてDX推進を牽引する人材に成長しています。
堀内:「DEEP研修」ではインプットとアウトプットのバランスを重視し、座学だけでなくグループワーク形式での実践的な課題を設計しました。半年間の研修期間中、前半はデータ分析やUI/UXデザインなどの専門知識を習得する座学を用意し、後半3ヵ月間はチームに分かれ、実際の業務課題をテーマとしたプロジェクトに取り組みます。プロジェクトでは銀行業務の効率化・高度化を実現するためのBPR(※)に焦点を当て、参加者自身の業務プロセスを深く分析する機会を提供しています。当行の行員はもともと業務知識が豊富で、現状分析を得意とする方が多いため、研修ではその強みを活かしながら現状を可視化し、デジタルツールを活用して具体的な改善策を立案する力を養います。
瀧本:参加者の多くが課題修了後も自主的にプロジェクトを継続し、実際の業務改善につながるところまでやり切るなど成果を上げています。実践的な課題に取り組んだことが、DXの手応えや可能性に直接触れるきっかけとなり、高いモチベーションに結びついたのだと思います。
※Business Process Re-engineering:業務本来の目的を達成するため、既存の組織や制度を抜本的に見直し、業務フロー、管理機構、情報システムなどを再構築すること。
DXを「自分ごと化」し、主体的な学びを促す
(三菱UFJ銀行デジタル戦略統括部人材・総括Gr 次長 瀧本 茜)
Q. 「BASE研修」導入の狙いを教えてください。
瀧本:「BASE研修」は、「DEEP研修」で培った業務分析とデジタル活用を融合させたアプローチを継承し、より多くの行員が受講できるように設計しました。本部所属となる調査役の約2,200名を対象に、1ヵ月間で合計1.5日間を2回(0.5日+1日)に分けて実施します。カリキュラムは「DEEP研修」の内容を凝縮し、短期間で効率的に学べる内容となっています。1回目と2回目のインターバル期間中は、研修で学んだ内容を自身の業務に当てはめ、eラーニングで業務の可視化や改善策を検討する課題に取り組んでもらいます。具体的には業務フローの作成やChatGPTを活用したマクロ作成など、実践的なスキル習得をサポートするコンテンツを用意しています。
堀内:「BASE研修」の最大の目的は、DXを「自分ごと」として捉えてもらうことです。研修を通じて、身近な課題をデジタルツールやスキルで解決できる可能性に気づき、自ら行動する姿勢を育むことをめざします。AIツールなどは、ともすると活用すること自体を目的化してしまいがちですが、ツールはあくまでも課題解決のための手段です。ツールに触れる前に思考プロセスをきちんと構築して業務上の課題を明確にし、課題解決に最適なツールを選択・活用できるようになることが重要です。そのため、「BASE研修」では意図的に業務の分析・可視化に多くの時間を割いています。普段は忙しく働く中で、自身の業務を見つめ直す時間が取れないという行員も多く、受講後のアンケートではそういったプロセスも含めて有意義な時間になったという反響をいただいています。
瀧本:また、受講者の上司にあたるマネジメント層向けの研修も2024年春から実施しています。「BASE研修」を通して自身の業務を振り返り、さまざまな企画や改善策を考える際、デジタル技術に理解があり、相談しやすい上司がいることも大事なポイントです。マネジメント層向けの研修を「BASE研修」と連動させることで全行員のデジタルスキルが底上げされ、新たな施策もスムーズに推進できるよう設計しています。
Q.「BASE研修」を設計する上で工夫した点はありますか?
瀧本:「BASE研修」はオンラインで実施するため、いかに受講者の集中力を維持し、主体的な参加を促せるか、という点は重視しました。資料の視認性を高めたり、グループワークを効果的に取り入れたりすることで、飽きさせないコンテンツを追求しています。また、リリース前にトライアル研修を2回実施し、参加者からのフィードバックをもとに研修内容や構成を大幅に見直しました。構成の変更に伴い、日数についても当初は4日間を想定していましたが、最終的に1.5日間まで短縮しました。
堀内:その結果、受講者の負担を軽減しながらもテンポよく集中して学べる内容に仕上がったと感じています。インターバル期間中に取り組むeラーニングについては、受講コンテンツを必須のものと任意のものに分けることで、本人のレベルやニーズに合わせて学習をカスタマイズできる設計にしました。
さらなるDX推進と顧客体験の向上へ
(三菱UFJ銀行デジタル戦略統括部人材・総括Gr 堀内 善史)
Q.今後の展望について教えてください。
瀧本:「BASE研修」の実施を継続することはもちろん、「DEEP研修」のようにDXプロジェクトを牽引していけるような、より専門性の高い知識・スキルを学べる機会も広く提供していきたいと考えています。また、新卒採用におけるシステム・デジタルコース入行員の育成、キャリアパス設計にも力を入れていくなど、多角的に人材育成を推進していきます。
堀内:デジタル技術が急速に進化する今の時代、数年後には求められるスキルも大きく変わっている可能性があります。三菱UFJ銀行のめざす方向性やお客さまのニーズを的確に捉え、社会の変化に柔軟に対応できる研修体制を構築していくことが重要です。AIが当たり前に活用される未来を見据え、デジタルの側面から活躍できる人材育成に取り組むことで、社会やお客さまに新たな価値を提供できる組織づくりに貢献していきたいです。
Profile
※所属・肩書は取材当時のものです。

三菱UFJ銀行 デジタル戦略統括部 人材・総括Gr 次長
瀧本 茜
大手通信事業、コンサルティングファーム、スタートアップを経て2016年に三菱UFJ銀行へ入行。オープンイノベーションの推進、デジタル領域でのプロジェクトリードなどを経て、現在はデジタル人材戦略と新規事業開発プログラム運営を担当。

三菱UFJ銀行 デジタル戦略統括部 人材・総括Gr 調査役
堀内 善史
2015年に三菱UFJ銀行に入行。営業店、営業本部での法人営業を経て、2023年よりデジタル人材の育成、デジタルコースの新卒採用のチームリーダーを担当。