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BaaS事業に弾みをつける「& BANK」への取り組み

BaaS事業に弾みをつける「& BANK」への取り組み

株式会社三菱UFJ銀行(以下、三菱UFJ銀行)は、一般的なネットバンキング機能を備えたアプリを外部企業へ提供するサービス「& BANK」を発表した。これは三菱UFJ銀行が「黒子」となり、決済や口座開設、資産運用といった金融サービスを提供するBaaS(Banking as a Service)事業の第4弾の取り組みであり、今後の同事業の中核を担うと期待されている。「& BANK」の特徴や狙い、その開発を通じた社内の変革について、事業主体の三菱UFJ銀行と、開発を担った三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社(以下、MUIT)のプロジェクトメンバーを代表して4人に話を聞いた。

(写真左から)
三菱UFJインフォメーションテクノロジー リテールチャネル部
三木 崇史
久保埜 恵
三菱UFJ銀行リテール・デジタル企画部 新事業Gr
許山 智慧
阿部 将史

異業種連携を通じて顧客基盤のさらなる拡大を図る

—「& BANK」とはどのようなサービスなのか、概要を教えてください。

許山:当行では2022年からBaaS事業を展開してきました。BaaSは、当行が直接個人のお客さまにBtoCでサービスを提供するのではなく、事業者を通じてBtoBtoCの形で個人のお客さまへシームレスにサービスを提供するものです。金融サービス機能の提供は当行が担いますが、あくまで裏方で、お客さまへ直接サービスを届けるのはパートナー企業です。パートナー企業に寄り添い、多彩なニーズに対応することで一緒に課題解決をしていきたいとの想いを込めて「& BANK」と名づけました。

三菱UFJ銀行リテール・デジタル企画部新事業Gr 許山 智慧
(三菱UFJ銀行リテール・デジタル企画部新事業Gr 許山 智慧)

—具体的な事例をご紹介ください。

阿部:現在リリースに向けて準備を進めているのは、株式会社バンダイナムコエンターテインメント(以下、バンダイナムコエンターテインメント社)の人気IP(知的財産)「アイドルマスター」と、株式会社ツクルバ(以下、ツクルバ社)の中古・リノベーション住宅の流通プラットフォーム「cowcamo(カウカモ)」との取り組みです。
例えば「アイドルマスター」なら、アプリホーム画面で、ユーザーの「推しを選べる機能」を開発しています。

許山:アプリごとにパートナー企業のロゴやコーポレートカラーなど、ブランディング戦略に沿ったカスタマイズが可能です。しかし、あえて当行が提供するサービスであることがユーザーに伝わるようにデザインされるケースもあり、これは当行の信頼や信用といったイメージをパートナー企業が重視されることによるものです。この点は当行ならではの大きな強みと自負しています。

久保埜:バンダイナムコエンターテインメント社とのコラボレーションは「金融×エンタメ」というこれまでにないUI体験の創出ですので、開発に携わる私たち自身も楽しみながら取り組んでいます。

—「& BANK」に取り組む背景や狙いは、どのようなことですか。

阿部:「& BANK」には、既存の商流・消費導線上に金融機能を追加で組み込むことで、お客さまは便利にサービスを利用でき、パートナー企業は事業を拡大でき、当行は新たな顧客基盤を獲得するという狙いが込められています。
これまで銀行口座は、お客さまが積極的に選択するというよりは、近くに店舗があるから、勤務先から指定されたからといった理由で開設されることが多かったと思います。しかしさまざまな金融サービスが登場している今、MUFGで口座を開き、お取引をいただくためにはより積極的なアプローチが必要と考えています。金融サービスのオンラインチャネルへの移行が進んだことでお客さまとの物理的な距離が離れてしまった一面もあり、「& BANK」の取り組みによって、お客さまにとって身近な存在となれるようサービス展開していきたいと考えています。

許山:私はかつてBaaS事業の立ち上げに参画したのですが、当時はオープンAPIという形でサービスを提供しており、提供可能な金融サービスを増やしていきたいという思いがあったので、「& BANK」に携わることになったときはうれしかったです。
現在は当行の強みである法人顧客の層の厚さを活かし、多くのお客さまに提案活動を行っています。「& BANK」による金融機能の提供が事業者にとって大きなメリットであることは間違いありませんが、経営戦略に関わってくることですので、いかにしてシナジーを生み出していくかという点も含め、協議には相応の時間がかかっています。重要な経営判断をお願いすることになりますから、お客さまのビジネスの成長を支援し、共に成功をめざすパートナーとしての役割を果たしていきたいと考えています。

三菱UFJ銀行リテール・デジタル企画部/新事業Gr 阿部 将史
(三菱UFJ銀行リテール・デジタル企画部/新事業Gr 阿部 将史)

アジャイル開発による組織風土の変革

—プロジェクトにおいて最もチャレンジされたことは何でしたか。

三木:世の中にないものをつくっていくのだから従来のウォーターフォール開発ではなくアジャイル開発で進めようとしたことが、一番のチャレンジでした。何しろメンバーの9割がアジャイル開発は初めてで、私もプロジェクトリーダーとして重圧を感じました。しかし発注側の三菱UFJ銀行チームと受注側のMUITチームが同じ空間で過ごすことで、最初は言いづらかったことも次第に本音で話せるようになり、ワンチームになることができました。その結果、全員の描くゴールが一つになりました。

久保埜:その頃には、いわゆる発注者・受注者という意識はなくなっていましたね。私もスクラムマスターでありながら、こういう要件が必要ではないか、こんな機能はどうだろうと、遠慮なく提案できました。それこそ所属部署や年次などに関係なくフラットに取り組めたと思います。メンバーの関係性もアジャイルに構築できたのではないでしょうか。

阿部:私自身は以前MUITに出向していたことがあるので開発者側の気持ちもよくわかるんですが、開発者はどうしても開発中のシステムを完成させることが目的になってしまいがちなんです。しかし今回のプロジェクトでは、三木さんがおっしゃったように「& BANK」を通じてBaaS事業を成功させるんだというゴールを全員が共有できました。
私は途中から参加したのですが、それまで外から見ていて、和気あいあいとしていて楽しそうなプロジェクトだなと感じていたので、アサインされたときはワクワクしました。

三菱UFJインフォメーションテクノロジー リテールチャネル部 三木 崇史
(三菱UFJインフォメーションテクノロジー リテールチャネル部 三木 崇史)

—技術的にはどのような点に苦労されましたか。

三木:初めてのサービスでどれほどのお客さまが利用してくださるか見当もつかないため、オンプレミスで開発するとスケーラビリティの点で壁にぶつかる可能性がありました。そこでAWSのコンテナを利用することにしました。

阿部:確かに、いかにシステムキャパシティを担保するかという点は難しかったですね。

久保埜:パートナー企業のアプリとしてエンドユーザーにシームレスに使っていただくには汎用性や拡張性、メンテナンスのしやすさが重要ですが、銀行としての堅牢性も絶対に妥協できませんから、セキュリティ強度にも気を使いました。

許山:私はユーザー側のプロジェクトマネジメントを行う立場でしたので、パートナー企業との調整に苦労しました。その際に感じたのが、三木さんが先ほどおっしゃったワンチームとしてゴールを共有できている素晴らしさです。フラットな関係性の中、誰もが思っていることを臆せずに言い合える空気があったので、最終的な調整もしっかりできたと思っています。

ローンチはゴールではなくスタート

—このプロジェクトを通じて得られたものは何でしたか。

三木:プロジェクトが立ち上がってから約2年ですが、先ほども言ったように「全員が同じゴールに向かって進んでいく」という志を一つにできたことが一番の成功体験です。そしてそれはプロジェクトリーダーである私の成果ではなく、メンバー一人ひとりの成長によるものであることは間違いありません。

久保埜:その土壌をつくったのは、やはり三木さんです。私たち受注側の人間に対しても「発注者である三菱UFJ銀行に向けて自分の意見を言っていいんだ、若いメンバーも議論していいんだ」と繰り返し呼びかけてくれたことで、次第に全員の意識が変わってきたと思います。

三木:同じゴールに向かっていく上で、チーム内に壁や遠慮があるのはおかしいですから。

阿部:三木さんが我々にも同じように呼びかけてくれたおかげで、次第にフラットな関係ができてきたと思います。

許山:アジャイル開発ですから要件の決定権はプロダクトオーナーである阿部さんにあります。MUITの若い開発メンバーも次第に直接阿部さんにお話を持ってくるようになりました。こうした関係性が醸成されたことは素晴らしいと思いますし、今後、当行全体にこの空気感が広がっていけば新しいカルチャーが誕生するのではないかと考えています。

三菱UFJインフォメーションテクノロジー リテールチャネル部 久保埜 恵
(三菱UFJインフォメーションテクノロジー リテールチャネル部 久保埜 恵)

—今後の展開について教えてください。

阿部:まずはバンダイナムコエンターテインメント社とツクルバ社のアプリをローンチすることが一番の目標です。予定としては2025年中を考えています。

久保埜:ローンチする際はそれなりの達成感はあると思いますが、むしろやっとスタートに立てたという感覚のほうが強いでしょうね。

許山:パートナー企業の商流に組み込んでいただき、その先のお客さまにしっかり使っていただける、そうしたビジネスへと仕上げていかなくてはなりません。その上でお客さまの声を吸い上げてプロダクトをさらに成長させていきたいと考えています。

三木:その意味でこのプロジェクトにゴールはないですね。お客さまの声を反映させながら満足度を高めていくので、ローンチ後もアジャイルで取り組んでいくと言えるでしょう。

許山:当行ではリテール戦略の柱として、顧客基盤の最大化とともに、お客さまの生涯提供価値(Life Time Value=LTV)を最大化することを掲げています。お客さまの生活に深く入り込んでいるパートナー企業との協業はLTVを高めることにつながりますので、「& BANK」の今後の展開に力を入れていきたいと思います。

プロジェクトメンバーの皆さん
(プロジェクトメンバーの皆さん)

Profile

※所属・肩書は取材当時のものです。

株式会社三菱UFJ銀行 リテール・デジタル企画部 新事業Gr 許山 智慧

株式会社三菱UFJ銀行 リテール・デジタル企画部 新事業Gr

許山 智慧

2011年に三菱UFJ銀行に入行。法人営業、トランザクションバンキング、オープンAPI施策の企画・推進といった業務を経て、現在は「& BANK」施策のユーザー部PMO担当。

株式会社三菱UFJ銀行 リテール・デジタル企画部 新事業Gr 阿部 将史

株式会社三菱UFJ銀行 リテール・デジタル企画部 新事業Gr

阿部 将史

2014年に三菱UFJ銀行に入行。法人営業、システム開発、新規事業の立上げといった業務を経て、現在は「& BANK」アプリのプロダクトオーナーとオープンAPI施策のチームリーダーを担当。

三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 リテールチャネル部 三木 崇史

三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 リテールチャネル部

三木 崇史

2005年入社。旧UFJ銀行-旧東京三菱銀行合併時の行内振込システムの新規構築、電子記録債権システム新規構築、電手システム統合案件などの内製開発を担当。営業店システム更改案件リーダーを経て、本プロジェクトにおいては、開発側のマネジャーを担当。

三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 リテールチャネル部 久保埜 恵

三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 リテールチャネル部

久保埜 恵

2004年入社。証券決済システムの内製開発、2児の出産・育休を経て、口座開設アプリ開発へ。「& BANK」アプリではチームを支えるスクラムマスターを担当。