金融庁による行政処分を受けて
MUFGグループの銀証連携ビジネスにおいて、不適切なお客さまの情報の取扱いや勧誘行為があったとして、金融庁から行政処分を受けたことにつき、関係者の皆さまにご迷惑とご心配をおかけしたことを深くお詫び申し上げます。この度の処分を厳粛に受け止め、内部管理態勢の一層の充実・強化を中心とした業務改善計画を策定いたしました(詳細は「MUFG Report 2024(PDF / 11.31MB)」14ページをご覧ください)。
今後、改善計画を着実に実行するとともに、再発防止に向けてグループを挙げて対応いたします。一日も早く皆さまの信頼を取り戻すことに注力し、持続的に成長できるように全力で取り組んでまいります。
MUFGは本当に変わったのか
「亀澤さんですよね?」
近所を散歩していた、昨年秋ごろのことです。前方から男性がジョギングしてすれ違ったと思ったら、私の方に戻ってきていきなり声をかけられました。「MUFGは変わったと思います。それだけお伝えしたくて。」あまりに唐突だったので驚きましたが、聞くとMUFGの元社員で、今は外資系企業に転職したとのこと。私は3年前のこのCEOメッセージで「MUFGは変わったなと思われたい」と書きました。元々社内を知っている人が外から見て変わったと言うのであれば、それは本当に変わったということかなと、素直に嬉しくなりました。
実はこのように声をかけられたのは3回目です。MUFGが確かに変わってきたということかと思いましたが、一方で、ネガティブな声はなかなか聞こえてこないものです。再び歩き始めて、本当にMUFGは変わったのか自問自答してみました。確かに、意思決定のスピードや社内での議論の雰囲気、Webを通じた海外のネットワークの広がり等、変化していることは実感しています。ただ、改めて日々の自分の生活を振り返ってみると、朝会社に行く時間はほぼ同じで、仕事や会議のスタイル、夜の会食等、昔とあまり変わっていないものも多い。会議も相変わらず多い。会議のための事前説明も多い。手続きも多分、多くが変わっていない。会社として、確かに変わった部分はある。でも、組織の芯の部分は変わっていないのではないか。
私は、CEO就任時に「カルチャー改革」、「ビジネス改革」、「プロセス改革」の3つの改革を掲げ、これまで企業変革に取り組んできました。少しずつ変化の兆しもあります。ただ、まだまだ2~3合目。緩めるとまたすぐに戻ってしまうくらいの状態です。
「変革の継続」。本当に「会社がかわる」必要がある。ここからが本番だと、決意を新たにしました。この決意は、2024年4月からスタートさせた新しい中期経営計画(以下、中計)にも確りと込められています。今回のCEOメッセージでは、新しい中計に懸ける私たちの想いを皆さんにお伝えします。まずは、今日の環境認識や世界経済の動向から始めたいと思います。
環境・課題認識
私たちは今、国、経済、人、様々な面でかつてないほど「分断」が進む時代にいます。「分断」は、ニーズや価値観が多様化した結果の、分散化とも言えるかも知れません。米中の覇権争いという歴史的な潮流の中で、ウクライナ紛争、中東情勢等への各国の立場は多様化、分散し、国際秩序はより混沌としています。これらは短期的に収束するものではなく、この状況を意識しながらビジネスを考えていかなくてはなりません。
デジタル技術によって多様化が実現している面もあります。多様化した個別のニーズに全てこたえられる技術があり、DAO(分散型自立組織)のように究極的な民主化をめざす動きもあります。分断の時代でありながら、デジタル技術の進展で人々がつながることが、以前よりもずっと容易になっています。それにより様々なグループや価値観が醸成されることもあります。矛盾もある複雑な時代です。
また、デジタル化の流れは、とどまることを知りません。特に、生成AIは人々の生活や私たちが触れる全てのサービスに入り込み、ビジネスモデルに大きな変化をもたらすゲームチェンジャーになると考えられます。2024年は、そうした未来に向けたターニングポイント「生成AI元年」と呼ぶべき年になるでしょう。MUFGとしても、生成AIの勢いを早く、確実に取り込む必要があります。(コラム1)
世界経済を見ると、米欧でインフレが落ち着くとともに金融引き締めが緩和され、金利水準は新たな均衡点を探るでしょう。一方、日本はいよいよ金利のある世界へと移行し、低金利・低い物価上昇率・低賃金という長らく定着してきたレジームが変わりつつあります。金利やインフレ、賃金上昇が正常に存在する世界です。この世界では、相応の利払いやコストが発生することを前提に、事業活動で高いリターンが追求され、インフレに負けないように資産価値を高めるニーズが強まります。つまり、お客さまの資産形成やリターンの目線が高まるということです。これは30年にわたる長期停滞にあった日本経済にとって大きなチャンスでもあります。MUFGは、本邦最大の金融機関として、マザーマーケットである日本を再び成長軌道に乗せる責務があると強く思っています。
中長期的にめざす姿
では、この中計3年間で、MUFGとして、パーパスをどう体現するか。
歴史的にみて、私たち人類は、国や人、企業同士のつながりが社会の繁栄と精神的な豊かさの源泉となり、発展してきました。今は、先ほど触れた通り、かつてない分断の時代ですが、これからの時代も、国と国、人と人、企業と企業がつながる世界が望ましい。私は、そう考えています。
MUFGには、これまでの長い歴史の中で築き上げた信用・信頼と、圧倒的なお客さまの基盤、そしてグローバルネットワークがあります。また、MUFGグループの各社は、もともと様々なものをつなぐ機能を備えています。分断の時代にMUFGは、多様なステークホルダーとのネットワークを活かし、共創し、世界を「つなぐ」存在になる。「つなぐ」ことであらゆるステークホルダーのチカラになっていく。これが、今回の中計において、パーパスを体現するための基本的な考え方です。(コラム2)
前中計を振り返ってみて
前中計では、パーパスを策定して、エンゲージメント重視の経営にシフトし、カルチャー改革を行いました。そして、ROEを経営の中心に据えました。振り返ると、戦略の柱として掲げた、「企業変革」、「成長戦略」、「構造改革」のそれぞれで成果が現れ、稼ぐ力の向上、ビジネスモデルの強靭化が進捗した3年間だったと評価しています。
厳しい環境下でも、RWAは同水準を維持しながら採算改善を進めることで、リスク・リターンが大幅に改善し、顧客部門を中心に営業純益は3年間で約6,000億円増加、約1.5倍に成長しました。
また、米国のユニオンバンク売却の完遂は、構造改革における象徴的な案件です。思い切った決断を下し、スピーディーに対応することができました。
ROEが最も重要なコミットメントであると繰り返し発信し続けましたが、前中計最終年度のROEは8.5%となり、目標である7.5%を大きく超えることができました。
株価は、他メガやグローバルな大手金融機関をアウトパフォームし、3年間で約3倍になりました。時価総額も世界のトップ10入りを展望できるところまで来るなど、資本市場からの評価の高まりも実感しています。
また、株主還元に関しては、累進的配当を継続し、2023年度の1株当たり配当金は、2020年度の25円から41円まで増加しました。これは、64%の配当成長です。さらに、3年間の累計で1兆円の自己株式取得を行い、総還元額は2.2兆円を超えました。
中計に込めた想い
私たちは、今回の中計を、「成長」を取りに行く3年間と位置付けました。成長戦略を深化させながら、社会課題解決への貢献にも取り組み、それらを支える企業変革を加速させることで、企業価値を高めていきます。
前中計の3年間で「稼ぐ力」が向上し、ビジネスモデルが強靭化した今、「成長」のアクセルを踏み込む土壌が整ったと感じています。GXやDXといった構造変化の加速や、日本での金利のある世界の到来を機に、攻めの姿勢に転換していきます。
変化や競争が激しい世界において、攻めないと勝つことはできません。一方で、弱い所は手当てしておかないと攻め込まれます。すなわち、「攻めること」と「基盤を作ること」を同時に追求する必要があるのです。囲碁で例えると、先手で相手の石を攻めつつ、自陣の手薄な部分に石を置いて固める動きです。攻めるためにこそ、強い石で自陣を固めることが大切で、それこそが基盤を作る投資です。目の前の成長を追求すると同時に、人的資本やシステム、AI、データ基盤など、将来の成長に必要な基盤投資を着実に行っていきます。
つぎに、今回の中計の三本柱について説明します。戦略の位置づけを分かりやすくお伝えするために、それぞれの柱にひらがなで副題をつけました。これは私がこだわったポイントです。金融機関はどうしても堅い印象をもたれがちです。もう少し柔らかく、そして分かりやすくという点を意識し、社員も含むステークホルダーの皆さんへの着信に重点をおいて中計の議論を進めました。読み進めながら、この辺りも感じていただければと思います。
冒頭に申し上げた通り、「変革の継続」が重要です。「会社がかわる」ことで、土台を盤石なものにします。そして、今回の中計のキーワードである「成長」を意識し、世の中の変化を捉えて「成長をつかむ」。さらに、前中計から意識してきた「社会課題の解決」のギアを上げて三本柱の一つとして「未来につなぐ」。それぞれについて説明していきます。
成長戦略の進化~成長をつかむ
(1)国内リテール基盤の強化
リテール戦略では、中長期的な目線で「LTV(Life Time Value)×顧客基盤」を最大化することに主眼を置いています。まず、リアル・リモート・デジタルの3チャネルのベストミックスを通じて、効果的にお客さまとの接点を増やします。そしてMUFGの多様な金融機能をグループ一体でシームレスに繋ぎ合わせ、お客さま一人ひとりのライフステージに寄り添ったご提案を行うことをめざしています。銀行の預金口座を中核に、クレジットカードや住宅ローン、証券ビジネス等の様々なサービスとつなげ、ここにポイントなどのインセンティブを付与して、MUFGでお取引をまとめていただくイメージです。
また、顧客基盤を最大化するには、他社との協働を通じて新たな発想を取り入れることが重要です。MUFGは金融機能を外部に提供する「BaaS(Banking as a Service)」に2022年から取り組んでいます。NTTドコモとの共同開発による「dスマートバンク」を皮切りに、資産形成サポートサービスの「Money Canvas」等をBaaS展開し、様々な企業とのシナジーを実現しています。また、ウェルスナビ株式会社との資本業務提携契約を締結し、お客さま一人ひとりのライフステージに寄り添った「お金に関する総合提案」を行うプラットフォームも開発しています。私たちに無い強みを持つ他社との協働を通じ、新しい技術や発想も取り入れて、成長を加速させていきます。
(4)アジアプラットフォームの強靭化
(5)資産運用立国実現への貢献
資産運用立国は、家計を中心に預貯金に偏る余剰資金を、大企業等のGX・DX投資や高い潜在力を持つスタートアップの資金需要につなぎ、国全体の成長性を高めていく。その果実を家計に分配し、再び新たな成長投資につなげるという、壮大なプロジェクトと捉えています。日本に限った話ではなく、世界中の投資機会と運用資金を相互につなげていきます。間接・直接金融双方の機能を持ち、幅広いお客さまとの接点とグローバルネットワークを持つ総合金融グループであるMUFGが貢献できる余地が非常に大きいテーマです。三菱UFJアセットマネジメントを、持株傘下の組織として運営することを決めました。資産運用力を強化し、2029年度末までに預かり資産残高(AuM)を倍増させる計画です。また、NISAの制度改正も梃子に貯蓄から投資の流れを支援し、金融経済教育を通じて、各世代の金融リテラシーの向上にも取り組んでいきます。
代表的なものをご紹介しましたが、これらの7つの主要戦略を通じて、日本において成長を創り出し、アジアをはじめ海外の成長でアップサイドを取り込む、さらには世界全体で社会課題の解決に貢献しながら、MUFG全体の成長戦略をしっかりと推進していきます。
社会課題解決~未来につなぐ
中計の3本柱の2つ目に、「社会課題の解決~未来につなぐ」を掲げました。「持続可能な社会」、「活力溢れる社会」、「強靭な社会」という3つの軸で、10個の優先課題を選定し、その課題解決に取り組みます。GXの潮流など新たな豊かさを追求する動きが強まる中で、経済的価値とともに社会的価値を追い求めていくことが、企業価値向上の鍵です。お客さまとともに社会課題の解決に貢献できなければ、経済的価値を高めることはできません。
例えば「カーボンニュートラル社会の実現」において、MUFGがCO2削減に資する技術開発の支援を行うことで、その新技術が社会に広く普及し、認知されて脱炭素化が進展すれば、お客さまの社会的価値の向上が実現します。その中で、お客さまの業容は拡大し、売上や利益といった経済的価値も高まります。MUFGは、提供するファイナンスや金融サービスの対価として金利や手数料といった経済的価値を受け取ることができます。また、金融ビジネスを通してカーボンニュートラル社会の実現に貢献するという、MUFGの社会的価値を高めることにもつながります。
このように、お客さまを含むステークホルダーとMUFGの、経済的価値と社会的価値を「つなぐ」、両者を相乗的に高めていく視点が重要です。
前中計でも、社会課題起点で事業戦略を考えてきましたが、今回の特徴は、一段ギアを上げて、社会に与えるインパクトを強く意識した点です。重要テーマに、具体的な目標をKPIとして設定し、取り組みの実践や具体化を強力に推進していきます。
気候変動対応/自然資本・生物多様性
重要なテーマである気候変動対応について、少し詳しく触れます。カーボンニュートラル宣言以降の取り組みや進捗に加え、日本のカーボンニュートラルの道筋について、欧米政策関係者を中心としたステークホルダーの理解を高めるべく昨年に引き続き「MUFGトランジション白書2023」を発行しました。また、今年の4月には中間目標達成に向けたプロセスなどの移行計画の内容をまとめた「MUFG Climate Report 2024」を発行しました。移行計画の鍵は、規律あるトランジション支援と2030年中間目標達成に向けたモニタリングです。このレポートを通じて、MUFGの移行計画や取り組みのベースとなる考え方を、幅広いステークホルダーの皆さまにご理解いただきたいと考えています。さらに、私自身、本年7月からGFANZ日本支部の議長に就任したので、その場を通じて私たちはカーボンニュートラルの実現に向け、責任をもって行動していくことを発信していきたいと思います。
また、新たに「自然資本・生物多様性の再生」を優先課題に選定し、MUFGの自然資本に対する考え方や、お客さまに提供できる各種ソリューションを幅広いステークホルダーの皆さまにご理解いただくことを目的に、「MUFG TNFDレポート」を公表しました。
こうした重要なテーマへの対応において、MUFGは新技術の支援やお客さまへのエンゲージメントを行い、2030年までに100兆円規模のサステナブルファイナンスに取り組みます。
産業育成、イノベーション支援
さらに、経済の牽引役である成長産業の創出や、急速な成長を続けるスタートアップへの支援が、「活力溢れる社会」には不可欠です。MUFGにとっても、高い成長性を有するスタートアップとの取引拡大は持続的成長に向けた鍵となります。スタートアップと相互理解を深め協働していくことで、これまでにないビジネスへのアプローチが可能になり、社会課題解決へもリンクする、好循環を作りたいと考えています。
加えて、スタートアップの方々と協働することは、それだけでも刺激を受ける良い機会となっています。経済的な側面だけではなくカルチャー改革にもつながる部分があるからです。起業した人達は、社会課題を解決するために会社を立ち上げており、非常に強い問題意識を持っています。また、会社を軌道に乗せるため、必死になって企業価値を高めようと努力されていて、自分の信念が会社のパーパスそのものになっています。こうした方々から、私たちはパートナーとして「選ばれる」存在でありたいと考えています。金融サービスの提供にとどまらず事業戦略策定の知見など、私たちがお手伝いできることも多く、双方の社員がお互いの強みを持ち寄って協働することで、非常に良い影響を受け合っていると思います。
企業変革の加速~会社がかわる
中計の柱の3つ目は、「企業変革の加速~会社がかわる」です。
企業変革の根幹はカルチャー改革です。前中計では、MUFG Wayを社内に浸透させ、新規事業創出プログラム“Spark X”や本館建て替えプロジェクト、社員が企画する社会貢献活動“MUFG SOUL”といった公募制度を拡充してきました。例えば、マンションの理事会業務を代行する「プロサード」は、”Spark X”で生まれた新規事業です。多くの社員がこれらのプロジェクトに手を挙げ、真剣に取り組んでくれており、自ら挑戦するマインドの浸透に手ごたえを感じています。冒頭で元社員の話に触れましたが、今のMUFGの社員も、6割近くが「会社が良い意味で変わった」と実感してくれています。ですが、まだまだこれからです。変革を継続し、加速しなければなりません。今後、さらに重視したいと考えているのは「スピード」です。変化の激しい時代にMUFGが信頼され選ばれ続けるには、スピードを価値として提供する必要があります。今回MUFG Wayを改定し、Values(共有すべき価値観)にスピードを追加しました。昔の慣習にとらわれることなく、Agilityを高め、人事評価や手続き、会議運営、役割・決裁権限など、あらゆるものを聖域なく見直します。全ての社員が、主体的に考え、決断し、直ちに行動に移すことのできる会社をめざします。自由闊達な雰囲気の中で、所属や役職に関わらず多様な意見が交わされ、業務を任された人が速やかに「決断」を下し、次の「行動」を後押しするような風通しの良いコミュニケーションが行われる職場でこそ、エンゲージメントも向上すると考えます。
もう一つ重要なことは、人的資本を重視した経営です。社員が日々の業務でパーパスを体現し、挑戦してくれた成果は、確り還元して次の挑戦に結び付けます。これまでも人事制度改革などを通じて、社員の挑戦を後押ししてきました。加えて、社員が能力を高めていくための機会提供など、幅広い人的資本投資を行います。具体的には、事業戦略と連動した専門性の高い人材を処遇する人事制度の実現や社員の自律的なキャリア形成を支援する教育研修施策の拡充を図るとともに、多様なバックグラウンドや価値観を持つ社員がオープンに意見交換し、自分らしく活き活きと活躍できる環境を作るため、DEIの推進や健康経営などにも確り投資します。
また、今後更にサステナブルに成長していくために、カルチャー改革や人的資本拡充など事業活動すべての基礎になるソフト面の変革に加えて、AI・データ基盤の強化やシステム開発リソースの増強など、より多岐にわたる企業変革にも取り組んでいきます。
MUFGを「覚醒」させる
毎年恒例の書き初めで、今年の一字は「覚」にしました。新しい時代に目覚め、私自身のMy Way(人生で大切にしている信念)を改めて自覚し、MUFGという組織のポテンシャルを覚醒させたいという思いからです。
1月に、ロサンゼルス・ドジャースの大谷選手と対談をする機会に恵まれました。その対談で、「山登りに例えると今は何合目か?」という質問をしました。「恐らく今は6~7合目。ただ、自分の山の高さは予想でしか分からない。まだてっぺんではないし、高さをもっと高くしたい」との答えでした。やはり成長する人は違う。あのレベルにありながら、自分でリミットを設けず、これから山の頂上を作っていくというのです。常に挑戦する姿勢に感銘を受けました。私たちも常に挑戦と成長を続けなければいけない。そして、次のステージへ向けてMUFGという組織の持つ強みと良さを十分に発揮させたい、そのポテンシャルを最大限に引き出すことが自分の使命である。改めてそう思いました。
成長戦略を進化させながら、社会課題の解決に貢献する。それを支える企業変革も加速させる。そして、パーパスである「世界が進むチカラになる。」を体現する会社にしたい。私は、社員は会社そのものであると捉えています。自分の頭で考えて、強く発信してくれる社員が多い会社は、間違いなく強い組織になります。この会社で何をしたいのか、何にワクワクするのか、どんなことで成長を実感するのか。自ら考え、日々の業務で実践し続ける社員が集まる魅力的な会社に変えていきます。
金融機関と言うと、どうしても守りの側面を見られがちです。これからは、それだけではなく、攻める姿勢で、日本や世界をリードする存在となり、成長する会社と見られたいと考えています。私自身がMUFGのめざす姿の先頭に立ち、持続的な企業価値向上のため、「成長」を取りに行く中計の達成とパーパスの実現に向けて進んでいきます。
コラム1:AI-Nativeが求められる時代へ
生成AIの登場で「思考のDX」の時代へと突入しました。「考えること」の一部をアウトソースする、思考過程をAIが担う時代。それにより「思考」が一段と深まり、これまでの人間の思考だけでは想像もつかない、「価値の繋がり」や「因果関係」、「繋がりの関係性」が生まれてきます。私は、近い将来、全ての製品やサービスにAIが入っている世界が来ると思っています。今後、生成AIの技術が磨かれ、サプライヤーの競争激化によりコストが下がり、ハルシネーションの問題も減って、生成AIはこれまでよりも「早く・安く・正確な存在」になる。ビジネスを一変させるゲームチェンジャーになると思います。
先日、AIを専門とする大学教授から、「生成AIも演繹的思考が出来るようになった」と聞き、衝撃を受けました。これまで生成AIは、LLMと呼ばれる言語モデルで、膨大なデータを分析して確からしい結論を導き出す帰納的思考しかできない、演繹的思考が求められる数学の問題は解けない、とされてきました。ところが最近、記号と論理ルールを使って推論する記号演繹エンジンと、言語モデルとを組み合わせて、幾何学の証明問題を解けたというのです。プログラムは一種の論理展開ですので、AI自らプログラムを書いて証明問題が解けたということは、演繹的な思考ができていることになります。
昨年のコラムで、「生成AIは中身を理解できていない」と書きましたが、実はこの1年で、帰納法と演繹法の両方を用いて、「中身も理解している」状態に近づいたのかもしれません。人間との違いは、肉体とそれに結び付く感情のみになる。人間が、実際に経験していなくても本や映像から学べるのと同じように、AIが中身を理解できる世界が、そこまで来ていると感じています。
進化のスピードが加速する中、生成AIを使っていないと、生産性が低くなりすぎて、競争優位性を保てなくなる。そして、全てがAIを軸に語られ、AIを前提に物事を考える、いわゆるAI-Nativeな人材が求められる時代が来る。そのような危機感から、私は、社内にインテリジェンスチームを立ち上げました。AIで世界がどう変わっていくのか。私たち人間には、これまで以上に、深く、広く思考し、本質を見抜く力が求められています。
コラム2:パーパスの自分ごと化
中計策定に当たり、日本を代表する金融機関として何をすべきか、あらゆる角度から議論を行いましたが、行き着いたのは、「世界が進むチカラになる。」というパーパスでした。議論を集約する判断基準がパーパスであり、パーパスを軸にやるべき事を実行していきます。そのためには、社員一人ひとりがパーパスを自分ごと化することが大切です。
MUFGでは、社員が集い、互いにパーパスを語る場を定期的に設けています。私もよく話していますが、私自身のMy Way(人生で大切にしている信念)は、カトリックの幼稚園に通っていたことにも影響を受けているように思います。慈悲の心を持つこと、自分自身を客観視することを、自然と身に付けました。そして漠然と、将来は社会の役に立ちたいと考えていました。大学・大学院で数学を専攻し、このまま数学を極めるか就職するかで、かなり迷いました。今でも数学の芸術性に魅力を感じますが、最終的にはダイレクトに社会の役に立ちたいという思いが勝りました。
My Wayを伝える時には「自分にとってのMUFG Way」もセットで語っています。My Wayは自分の信念、MUFG Wayは「世界が進むチカラになる。」という会社のパーパス、この二つの重なる部分が「自分にとってのMUFG Way」です。つまり、自分の信念をベースに、自分は誰の役に立ち、何のチカラになりたいか、を考えることが、「パーパスを自分ごと化する」ということです。私が考える「自分にとってのMUFG Way」は、「世界が進むチカラになる。」を実現するために、社会や社員が進むチカラになる、ということ。社員が前に進むために風通しの良い働きやすい場を提供することは経営の責務です。確固たる「自分にとってのMUFG Way」を持つ社員が多いほど、強い会社になると信じています。