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邦銀初のスタートアップ アクセラレータ・プログラム運営の舞台裏

邦銀初のスタートアップ アクセラレータ・プログラム運営の舞台裏

今までにない金融サービスを作り出す原動力にもなると見られてきたFinTech。バズワードになったり多くの人々の話題にも上ったりしてきたが、いよいよ本格的に革新的なサービスの提供に向けた動きが加速してきている。

その一つに、アクセラレータ・プログラムがある。これは、スタートアップによるプロダクトの開発や事業化をすでに起業を成功させた先輩(メンター)や資力や組織力のある大企業が支援するプログラムである。三菱東京UFJ銀行(BTMU)が主催者として実施した「MUFG Fintech アクセラレータ」もその一つで、金融機関がスタートアップを支援する取り組みとしても注目を集めている。

そのアクセラレータ・プログラムを実施した、三菱UFJフィナンシャル・グループ シニアアナリスト 藤井達人氏、事務局の運営を主に担当した三菱UFJリサーチ&コンサルティング 主任研究員 杉原美智子氏、同じく三菱総合研究所 研究員 松田信之氏に話を伺った。

コンテストから「アクセラレータ」に進化した2016年

実は「MUFG Fintech アクセラレータ」には、前身がある。「三菱東京UFJ銀行 Fintech Challenge 2015」というもので、2015年はビジネスコンテストとして実施した。このイベントの成功が、2016年のアクセラレータ・プログラムの立ち上げにつながったという。

しかし、アクセラレータ・プログラムにしたことで、一体何が変わるのだろうか? BTMU主催のFinTech関連のイベントという側面は同じだが、一言でいえば、より実践的な内容にバージョンアップしたと言えるだろう。具体的には、ビジネスコンテストでは1、2回のレビューはするものの、比較的に少ないコミュニケーションしか取れないという限界があったとのことだ。

藤井氏は2015年の実績も踏まえて、「もう少し深くスタートアップと組んで、新しいことをやっていくという仕掛け作りにステップアップすることをめざして立ち上げた」と、今回のアクセラレータ・プログラムの狙いを語る。

また同氏によれば、アクセラレータを実施し数ヵ月間にわたってメンタリングを行いながら、腰を据えてアプローチをする方が、アイデアを深めたり高みをめざしたりすることには効果的なのではないかという思いもあったという。

ちなみに、同プログラムへの参加企業をおさらいしておくと、グランプリを獲得したxenodata lab.(ゼノデータ・ラボ)、準グランプリのAlpaca DB(アルパカ)のほか、スマートアイデア、zerobillbank(ゼロビルバンク)、ナレッジコミュニケーションの5社で、それぞれのサービスやプロダクトを磨き上げた。

スタートアップを「人の目に触れ&鍛え」させたプログラム

スタートアップももちろんカベに直面するが、いかにそれを上手く支援するかが、BTMUを中心とした事務局の腕の見せ所でもありそうだ。

特に、主役でもあるスタートアップと、メンターとのぶつかり合いの中で生み出されるものがある一方、大きな摩擦も生じるようだ。サービスの事業化の厳しさを十分に知っているメンターと、スタートアップが真剣に向き合えば、「なんとなく気持ちいい話」に終始することはなく、厳しい言葉も当然に飛び出すという。

松田氏によれば、そうした真剣な議論を行っていけるよう支援するのが「ある意味事務局の役割」だと言う。メンター達にとっては実績とみなされると同時に、MUFGは事業に結びつけなければならない。利害関係があるため、円滑に運営する役割が必要になるとのことだ。

松田氏は、議論の中で事業化の厳しさを指摘することはあるとした上で、「本質的に、『それニーズないよね』と事業の根本的な部分を指摘されることもある」と、スタートアップとメンターの厳しいやりとりの一端を示す。意見をぶつけあいながら、サービスにさらなる磨きをかけてきたと言ってもよさそうだ。

別の見方をすれば、メンタリングでの厳しい言葉を浴びせかけられる経験から、事業のシビアさを学べるということだろう。さらにアクセラレータは、スタートアップの新しいサービスや技術を、厳格な目線から世に問うてもいいものにレベルアップさせる機会にもなっていると言える。

スタートアップにとって、同プログラムで実現できる成長がほかにもある。ビジネスを行う上での「土地勘」の醸成だ。

その点について杉原氏は、「実現したい世界観や技術を持つ彼らが市場ニーズを意識しマッチさせることで、事業の形が出来上がっていった」とプログラムによる成長を目の当たりにした自身の経験を話す。

さらに同氏は「彼らにとって一番大きかったのは、この短期間で多くの企業を回り検証できたこと。外部メンターの協力もあり、企業で決定権を持つ方々への質の高いネットワークを提供できた。」とした上で、イスラエルに拠点を置く企業を支援したことを紹介。

「必要と思われるネットワークは提供できた。『これだったらここに行けばいい、あっちに行けばいい』とか、業界の土地勘がすごくできあがった。通常では3〜4ヵ月で得るのは難しかったのではないか」(杉原氏)との見方が出るなど、ビジネスネットワークの構築という成果もあると言えそうだ。

伝えるプレゼン力を磨く

今回のイベントは、スタートアップにとってビジネス構築に向けた準備を進める機会を得られるだけではないようだ。他者から意見を聞くだけではなく、スタートアップ自身の技術やサービス、あるいは取り組みを「伝える」力も磨かれる機会になっている。それを象徴するのが、プレゼン方法の改良だという。

例えば松田氏は、「その場で取り繕うのではなく、きちんと綿密な準備をして努力を重ねる姿が見えた。」と、自社のアイデアやコンセプトを伝えるスタートアップの姿勢にも変化が及んでいることを指摘した。

他方で、プレゼンの課題が全くないわけでもない。杉原氏はその点について、「自社の役員が内部向けのInternal DEMO DAYに来ていたのですが、後で怒られました。『もっとちゃんとプレゼンの指導をしなさい』と。プレゼンの時間を守らなかったり、本当は面白い事業なのにその面白さが全然伝わっていなかったり。そうした意見を受け、プログラムを変更しプレゼン指導を入れたのですが、入れてよかったです。」と話す。

松田氏も、最初は「説明下手だったりするので、アクセラレータ・プログラムの中で分かりやすくするにはどうすればいいかも議論する。分かりやすくすることによって、理解できる人が飛躍的に増えるため、ビジネスコミュニケーションの機会が一ケタ増えます。」と説明。単なるサービス、製品の開発だけではなく、スタートアップにとっての細かいメリットがあることに言及している。

BTMUはスタートアップの支援をさらに続ける姿勢を明らかにしており、まだまだ加速しそうだ。すでに来年のアクセラレータ・プログラムの準備も水面下で進んでおり、来年の盛り上がりにも期待が高まる。

技術開発やビジネスネットワークの提供だけでなく、必要なコミュニケーション力も磨かれるアクセラレータ。それを通じて、今後さらに活力のあるFinTechスタートアップが登場するのかどうか、MUFGがどのようなエコシステムを作り出していくのか、注目していきたい。

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