アクセラレータ・プログラムで事業化を推進、協業を実現
まずは両社の協力関係について解説しよう。じぶん銀行とアルパカによる外貨預金サポートツールの共同開発は、突然始まったものではない。アルパカは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が主催するアクセラレータ・プログラムに採択され、プログラム期間中に協業合意に至ったものだ。
MUFG Fintech アクセラレータは、フィンテックでの「オープンイノベーション」をキーワードに、金融サービスに変革をもたらす熱意を持った企業家・ベンチャー企業の方々と、革新的なビジネスの立ち上げをめざすプログラムである。
アルパカは、同プログラムでAIによるトレード自動化サービスや、テクニカル指標とバックテストを活用した株式銘柄スキャンサービスの事業化・ブラッシュアップを進めると同時に、じぶん銀行との協業にも繋げた。同社の取引ツールは国内最大のCPS/IoTの総合展・CEATECにも出展され、期間中に約10%弱の利益を出すなど、実利的な側面での可能性も示した。
言い換えれば、ネット銀行の顧客基盤を抱えるじぶん銀行と、ディープラーニングを用いたトレードアルゴリズムの開発ツールなどの独自技術に強みを持つアルパカがタッグを組んで、より便利なサービスの提供を図る動きだともいえる。
ネット銀行としてのサービス拡充とAIの技術力で相乗効果を
じぶん銀行とアルパカが発表した提携では、じぶん銀行の外貨預金ユーザーへ、AIによる市場の分析を生かした支援の提供をめざすという。
現在までに明らかになっているところでは、アルパカのバックテストデータを活用して、外貨預金の取り引きに関する情報を提供する。「通貨別期待上昇率を一覧表示するヒートマップを表示」させたり、「一定確率以上の通貨別為替変動タイミング出現時のプッシュ通知」をしたり、「ディープラーニングを活用して最適な投資タイミングをお客さまのかわりにAIが判断する外貨積立預金」の提供をめざすという。
榊原氏は今回の取り組みについて「外貨預金は、当行においても、円預金に比べて利用者がまだ限られている。外貨預金をいつ始めればいいかわからない、という悩みを持っているお客さまもいるだろう。これまで、店舗での対面による説明の機会がない場合は、そのようなお客さまの悩みを解消する方法は限られていた。このツールを使うことで、そういった悩みの解消につながり、外貨預金を利用するきっかけにしてもらえるのではないか」と期待を込めて話す。
また、同氏によると「外貨預金のサポートツールを使うお客さまに対して、満足できるパフォーマンスでサービスをしなければならない。これまでの類似サービスでは、予め設定したアルゴリズムに基づいてシグナルを出すものが一般的であり、相場のトレンドが大きく変わるタイミングではうまく機能しないものが多かった。AIを使うことにより、どのような相場にでも対応ができ、AIそのものが成長していけるものを作っていく」意図でアルパカとの共同開発の開始に至ったという。
一方で、北山氏は共同開発における自社のスタンスについて「日本においては、金融機関と組んで、自社技術を提供していく方向でビジネスを組み立てていく。技術をどうカスタマイズして使っていただくかが重要」と自社のスタンスを明らかにした。
じぶん銀行にとってはお客さまとの接点、アルパカはパフォーマンスの強化へ
さらに、アルパカと共同開発する外貨預金のアドバイスツールは、ネット銀行ならではの狙いもあるという。従来型の銀行とは違い、店舗を持たないがゆえのお客さまとの接点の薄さを補う、そんな役割も期待されている。
じぶん銀行の榊原氏は「せっかく作るのでお客さまに使っていただけるものにしたい。じぶん銀行では今年度から、”じぶん仕様プロジェクト”を開始しており、メインチャネルであるスマホアプリを通じて、お客さまとのコミュニケーションのレベルをあげる取り組みを行っており、このサービスもその中の一つとして受け入れられるものにしていきたい」と話す。
他方、アルパカの北山氏は「技術を駆使して、お客さまが満足するパフォーマンスを出し続けることが重要だと受け止めている。」と自社のスタンスを示す。
左:じぶん銀行 榊原氏 右:アルパカ 北山氏
また、金融機関はフィンテックを活用して自分達が「変わる」きっかけにしようとしている背景があることを指摘した上で、榊原氏は、アルパカのようなスタートアップ企業と一緒に歩んでいくことの大切さを強調。今後、スピード感をもって新しいことに取り組んでいく姿勢を鮮明にした。
両社の協働プロジェクトから今後、どのような新たなサービスやプロダクトが生み出されていくのか、今後の展開に期待したい。