AIは最も得意なデータ解析の部分に専念
今回、AIによる資産運用についてインタビューしたのは、三菱UFJ信託銀行ならびに三菱UFJトラスト投資工学研究所(MTEC)。「次世代の資産運用」として、飛躍的に向上してきたコンピュータの処理能力とビッグデータ、そしてデータから価値ある知見を導き出すためのAI技術を組み合わせて、新たな形での資産運用を広めていこうとする構えだ。
三菱UFJ信託銀行とMTECが運用を開始するAI投信とは、一体どのようなファンドなのか。
三菱UFJ信託銀行の資産運用部 国内株式クオンツ運用課でチーフファンドマネージャーを務める岡本訓幸氏の解説によると、AIを活用するファンドは「現物株ロングポジションと先物のショートポジションを組み合わせた安定的な収益をめざすもので、自然言語処理や、AIの機械学習・ディープラーニングを組み合わせて、国内株式の運用に活かしている」という。
Photo:三菱UFJ信託銀行の資産運用部国内株式クオンツ運用課でチーフファンドマネージャーを務める岡本訓幸氏
資産運用といえばもちろん運用成績が大きな焦点の一つになるが、シミュレーションの結果では、トータルではTOPIXの値動きを大きく上回る結果となった。三菱UFJ信託銀行とMTECが2008年4月から2016年3月を想定して行ったシミュレーションでは、年平均7.4%の運用成績を叩き出したという。年度別でTOPIXの動きと比較すると、TOPIXが2008年にリーマンショックの影響で30%以上落ち込み、2010年、2015年にも約10%程度のマイナスを記録した一方で、シミュレーションではすべての年度でプラスを記録。TOPIXの上昇局面ではTOPIXを下回る試算となったものの、トータルでは年平均3.4%であったTOPIXの値動きを大きく上回った。AIは人間よりもデータ処理能力に優れており、その能力の一端を示したと言えそうだ。
実際の売買は、AIが大量のデータから得た知見に基づき算出する取引情報を人間の目でチェックし、実施する。
Photo:資産運用部国内株式クオンツ運用課ファンドマネージャーの鴻丸靖弘氏
アルゴリズム取引のように、システムやプログラムに取引を任せきりにするのではなく、AIには最も得意とするデータ解析の部分を担当させたということだ。ファンドマネージャーの仕事をAIが奪ってしまうのではないかと懸念する向きもあるが、資産運用の領域で人とAIが上手く共存する例の一つにもなりそうだ。
ニュース分析での銘柄選定とAIの先物ヘッジを連携
三菱UFJ信託銀行とMTECが運用をめざすファンドでは、情報分析とリスクヘッジにAIを活用し、運用力の強化にあてているという。
今回紹介されたファンドでは、現物株式の銘柄選定の際にテキストマイニングを活用している。MTEC 研究部長の石部真人氏は、「ニュースのデータをテキストマイニングし、株価の上昇しそうな銘柄を抽出する」と解説する。かねてから研究されてきたニュース記事内の表現の株価への影響も活かしていると言えそうだ。
Photo:MTECで研究部長を務める石部真人氏
さらに、AIを先物アクティブヘッジにも活用している。ディープラーニングを用いて相場の短期的な動きを予測。為替や株価の動きや投資家心理を示す指数など約300種類にも上るデータをニューラルネットに入力することで、分析の際に注目する「特徴量」を見つけ出させ、売買に有用な情報の抽出につなげる。
加えて機械学習を活用したランダムフォレストと呼ばれる中長期的なリターン予測を行う手法を組み合わせるという。為替やGDP、原油価格、金利の水準といった指標を組合せ、樹木のように条件分岐していくディシジョンツリーと呼ばれる意思決定モデルでシナリオを表現する。さまざまなディシジョンツリーを組み合わせて、複数のシナリオから株式市場の動きを予想するモデルだ。
ほかにも、フラクタル解析という手法で株価の値動きを分析し、値動きの転換点を探る方法も組み入れているという。
人間とAIが役割を分担するモデルの推進
紹介された様に、三菱UFJ信託銀行ならびにMTECによるAIを活用したファンドはファンドマネージャーとAIが適切に役割を分担しながら資産の運用にあたっているともいえ、一つのモデルとして存在感を発揮していく可能性が十分にありそうだ。