アルパカのAIがチャートを解析し、「見えなかった」収益機会を見つけ出す
株式やETF取引に、AIを取り入れようとする動機は何なのか?
その理由は「市場で収益機会が減少していることが一因」という。伊藤氏によれば、「ある銘柄の組み合わせがマーケットでテーマ株として認識されるタイミングと、値動きの相関性が現れはじめるタイミングにはタイムラグがあり、個人投資家にとっては重要なポイントになる。その銘柄の組み合わせがテーマ株として認識される前に値動きが似ているとわかれば、個人投資家にとってはそれが収益機会になり、他の投資家よりも超過収益を得られる可能性がある」と話す。
従来から知られてきたペアトレードやサヤ取りと呼ばれる値動きの似た銘柄を取引する手法のように、「アルパカの技術を使って、値動きの似ている銘柄を見つけ出すものだ」と、AlpacaSearch for kabu.comの開発を推進した背景について伊藤氏は解説する。
Photo: AlpacaSearch for kabu.comの開発背景について語るカブドットコム証券の伊藤氏
なお、AlpacaSearch for kabu.comは、カブドットコム証券のトレーディングツールであるkabuステーションの新プランである「kabuステーション Premium」上で提供予定となっている。
アルパカのAIがチャートを解析し見つけ出す「共通した値動き」
AlpacaSearch for kabu.comは個人投資家にとって新しい武器になると言えるだろう。伊藤氏も北山氏も「従来にはなかったツールだ」と口をそろえる。
同ツールは、上場している約3,700の銘柄から、個人投資家が調べたい銘柄のチャートを他のチャートと比較し、似た形を持つ銘柄を見つけ出す機能を提供する。アルパカが持つ画像認識AIの技術を活用したパターンマッチングを応用し、値動きの似ている銘柄のペアを導き出す仕組みである。
チャートの類似度合を調べる際に、AIが注目する「特徴量」は230次元にもなる。その特徴量を銘柄ごとに比較することで類似度を計算し、人の目から見ても似ている値動きを見つけ出せるという。その特徴について伊藤氏は「超高速の画像認識処理をすることで、今、マーケットを牽引している銘柄とどの銘柄が似た動きをしているかを教えてくれる」と説明する。
また北山氏はAlpacaSearch for kabu.comの時価情報処理エンジンで活用するカブドットコム証券の法人向けAPIサービス「kabu.com API」の重要性を強調した。
AlpacaSearch for kabu.comを実現するにあたり「kabu.com APIを使うことで、1分単位で値動きのデータを取得できる。kabu.com APIのおかげで短期間による開発が可能となった」と、北山氏は話す。ほかにも、画像認識の処理はクラウドサービスを用いて処理するなど、IT・Webの技術を最大限に活用している。
AlpacaSearch for kabu.com開発の平坦ではなかった道
ペアトレードの銘柄探しにおいて、大きな助けになりそうなAlpacaSearch for kabu.comだが、サービスリリースまでの道のりは、一筋縄ではいかない部分もあったという。
北山氏によれば、「もともとアルパカはチャートの解析は得意な分野としていて、特徴量の設計などは比較的早い段階から見通しを立てられていた」という。また、「サービスのスイートスポットは、ユーザーのことを知っていないと探れない。ユーザーに対して、どのような部分がささるかなどの目利き力というのは持っておらず、個人投資家とやりとりできなければ詰められないということもある」とも指摘した。
Photo: AlpacaSearch for kabu.comで活用しているテクノロジーについて語るアルパカの北山氏
他方で、人がいくつかのチャートについて「似ている」と認識するための要素や、約3,700にもおよぶ大量の銘柄を高速で分析しなければならない部分もネックだった。また、「金融分野で求められるサービスの水準を、スタートアップが満たそうとするところにも難しさがある」と北山氏は分析する。
AlpacaSearch for kabu.comのリリースは、こうした困難を、技術力やカブドットコム証券とアルパカの両社の協力で乗り越えた成果といえる。
伊藤氏は「特徴量をどのようなパラメータにすれば、ユーザーが似ていると感じられるチャートがアウトプットされるのか、一番似ているチャートの組み合わせを見つける閾値の調整には、北山さんとコミュニケーションを図り時間をかけた」と、サービスを開発する過程を振り返る。
他にも、伊藤氏は「AIにとっては似ているチャート同士でも、人の認知では似ていないとみなされる組み合わせもある。ユーザーが似ていると感じられるように、処理の粒度をあえて粗くしたりするといった工夫などもしている」と解説する。
また北山氏によれば、AlpacaSearch for kabu.comには、画像の分析処理を高速化する「ベクトル化」と呼ばれる手法を実装した。サーバ向けのCPUにおいて、効率的に画像の分析処理を行わせる方法だ。
Photo: MUFGのインキュベーション施設「The Garage」で語る北山・伊藤両氏
超アクティブトレーダーのAlpacaSearch for kabu.com利用に期待
AlpacaSearch for kabu.comが個人投資家の手元で動き始めるのは、5月11日だ。伊藤氏は、今後の展開にも期待を寄せ、以下のように語る。「今回のサービスは、カブドットコム証券の超アクティブトレーダーの約600人を対象にしたVIPプラン、プレミアムプランでリリースする。おそらく日本で最もリテラシーの高い、目利きの個人投資家に使ってもらうことになる。ユーザーからのフィードバックが楽しみだ」
北山氏は「当初は、画像認識技術を使ったサービスを一般ユーザー向けに提供することになるとは思っていなかった。今後、改善点のフィードバックを積極的に取り込んで行きたい」と、新サービスに対する思いを語った。
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AlpacaSearch for kabu.comはスタートアップが強みとする技術と、大手金融機関が培ってきたマーケットやユーザーに対する深い洞察が組み合わされ産まれたものと言える。両社がリードするサービスの今後の発展に期待したい。