資金調達できない人へソリューションを提供
代表者の鬼頭武嗣氏(36歳)は、東京大学で建築を学び、ボストン コンサルティンググループを経て、外資系銀行のメリルリンチに入行。同行の投資銀行部門に勤務していたときに、不動産を対象としたクラウドファンディングの可能性に注目し、2014年12月にクラウドリアルティを設立した。
起業した理由はこうだ。
日本の不動産市場は2,000兆円以上という強大な市場だが、そのなかで証券化されている不動産市場は、わずか30数兆円である。つまり、キャピタルマーケットから資金を調達できている不動産は全体の1%〜2%にすぎない。
そういう資金調達ができない人たちにソリューションを提供していきたいというのが、クラウドファンディング・サービスを始めたきっかけである。しかも、資金調達者も、出資者もお互いの顔が見えない従来のクラウドファンディングではなく、お互いの顔が見えるヒューマンなビジネスモデルを考えたのである。
日本では初というP2Pのビジネスモデル
不動産に特化した貸付型のクラウドファンディングを運営する他の企業と、クラウドリアルティがビジネスモデルとして決定的に違うところは、BtoCなのか、P2Pのビジネスモデルなのかということである。
一般的な貸付型のクラウドファンディングは、間接金融であるが故に基本的にはBtoCのビジネスモデルである。つまり、運営企業が貸金業者として中央集権的にお金を貸すために必要な資金を、オンラインで個人から集めてきて貸し付けを行うのが、既存のクラウドファンディングである。
しかし、クラウドリアルティは、お金を集めたい人と投資をしたい人の、両方をつなぐプラットフォームを提供するP2Pのビジネスモデルである。これが大きな違いだ。中央集権化をめざす発想と、クラウドリアルティのように非中央集権化をめざす発想とでは、ビジネスの世界観が全く異なってくるのだ。
P2Pの場合は、資金を調達するほうも、資金を拠出するほうも、お互いに相手の顔が見えて、そのプロジェクトの内容を理解した上で、投資家と資金調達希望者が契約を結ぶのが特徴である。しかも、不動産に特化したP2Pのクラウドファンディングは、日本では初めてのケースである。
グローバルにビジネスを展開
鬼頭社長のビジネスに対する考え方で特徴的なことは、常にグローバルにビジネスの展開を考えていることである。それを実証しているのが、エストニアでのクラウドファンディングである。同国に子会社を設立し、すでに2案件を手がけている。
なぜ、エストニアなのか。
エストニアはEUのなかでも金融立国を標ぼうする国であり、税制や規制などいろいろな面を検討した上で、非常に戦略的にビジネスを展開できると確信したからだ。エストニアのビジネスを展開するにあたり、鬼頭社長自ら単身で乗り込み、商談をまとめてきたと言う。
しかも、キャピタルマーケットとして巨大な市場であるアメリカやイギリス、中国、さらには、キャピタルマーケット市場が育っていない、中東やアフリカ、アジア諸国へもビジネスの視線を向けている。
「特に金融では、グローバルな世界のなかで唯一生き残っていけるのか、あるいは国内でガラパゴスのように細々とビジネスを展開していくのか、という2つの側面しかありません。私自身は、グローバルな世界で大きなビジネスをしていきたいと思っています」と、鬼頭社長は意気込む。
非中央集権型の金融システムを作りたいと語る鬼頭代表
利回りは年率8%
これまでクラウドリアルティが手がけているプロジェクトは5件だが、出資の基準は一口5万円から。出資の上限額は決めていないが、プロジェクトによっては、出資口数の上限を決めるケースもある。資金調達者の多くはできるだけ多くの人に出資をしてもらいたい、と希望することが多いからだ。それは、これから調達した不動産を元に始めるビジネスの行方を見守ってほしい、応援してほしいという気持ちが込められているからに他ならない。
さらに、出資者が気にするのは利回りである。もちろん、プロジェクトによって利回りは異なるが、最近手がけた、宿泊施設としてビジネスを展開するという京都馬町町家のプロジェクトの場合は、投資家への利回りは年率8%だ。J-REITの利回りが年率4%程度と考えると、かなり高い。そしてこの場合、クラウドリアルティの手数料は2%である。また、東京・渋谷の上原の手数料に至っては0.2%という低さである。
「利回りを年率で8%にしているのは、そのあたりが出資者の需要が最も高いとみているからです。さらに、当社の手数料が低いのは、業務の多くをシステムによって自動化し、できるだけ人の手をかけないようにしているからです」
すべての業務をできるだけオンラインで完結しているからこそ、手数料も低く抑えることができる。
グランプリを受賞して何が変わったか
MUFGアクセラレータ・プログラムでグランプリを受賞したのは、国内外を問わず、グローバルにP2Pのプラットフォーム展開を志向していることがその理由だそうだ。グランプリを受賞してから大きく変わったのは、今後のビジネスの道筋が大きく見えてきたことである。
一つは、三菱UFJフィナンシャル・グループ各社と協業体制を組めたことである。たとえば、三菱UFJリースとは、地方創生案件で協力し、地域で資金が循環する仕組みを構築するビジネスを検討している。さらに、カブドットコム証券とは投資家基盤の連携実現に向けて検討中である。
そして、グランプリを受賞して最も大きかったことは、社員のモチベーションが非常に高まったことである。「さらに」と鬼頭社長は続ける。
「アクセラレータ・プログラムでのメンターの存在も力になりました。いろいろな角度からさまざまな意見をいただき、非常に視野が広がった。いろいろな視点でモノゴトを考えることができました」
めざすはP2Pの非中央集権化の世界
「起業して思ったのは、自分のビジョンが実現する様を目のあたりにすると胸がワクワクするし、人を巻き込んでビジネス展開するというダイナミックさは言葉にできないものがあります。自分のお金と時間を好きなことにつぎ込めるなんて、こんなぜいたくなことはありません」と言う鬼頭社長だが、その一方では、証券化された不動産をはじめ、様々な金融商品が非中央集権化されたかたちで取引ができるような仕組みを作りたいという世界観を持っている。
証券会社や証券取引所等の役割がだんだん小さくなり、より低コストで、より見えやすい、シンプルな仕組みを思い描く。
ブロックチェーン技術の登場で、組織の在り方やサービス提供の在り方、通貨の在り方など、完全に非中央集権化された世界が生まれてきている。今後は、経済自体が非中央集権化されていくので、そこであるべき金融の仕組みを作りたいと言う。