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新たな金融商品「在庫ファイナンス」ビジネスに乗り出すシマント

資金調達の新しい取り組みとしての「在庫ファイナンス」を提唱するシマント代表取締役の和田怜氏

新たな金融商品「在庫ファイナンス」ビジネスに乗り出すシマント

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)による第2期「アクセラレータ・プログラム」の参加企業であり、マルチバリューデータベースのソリューション・プロバイダーとして知られるシマント(2014年8月設立)は、MUFGと協業で、新たな金融商品の開発に着手している。その新たな金融商品とは「在庫ファイナンス」であるが、「在庫ファイナンス」とはいったいどういう金融商品なのか。

資金調達方法として手つかず状態だった「在庫ファイナンス」

一般に、企業が資金を調達する方法はさまざまあるが、自社の資産を有効に活用して資金を調達する「動産担保融資(Asset-Based Lending、以下ABL)」のなかでも、これまで限定された対象商品しか取り扱われておらず、市場として手つかずの状態であった販売前の商品在庫を担保に資金を調達する方法が、「在庫ファイナンス」である。
「在庫ファイナンス」の開発を手がけることになった経緯について、シマント代表取締役の和田怜氏はこう語る。

「私は、2001年から銀行でキャリアをスタートさせたわけですが、銀行で働くなかで、日本の金融機関の地位が相対的に徐々に低下していきました。そこで、日本の金融機関、とりわけ銀行の地位を復権するためになにかバックアップできるプログラムができないかと思い、MUFGの第2期となるアクセラレータ・プログラムに応募しました。

そこで、本来間接金融が得意としていた、バランスシートをしっかりと評価したファイナンスに原点回帰すべきだと考え、その中でもまだマーケットとして成長の余地があるABL(動産担保融資)を攻めてみようと考えました。バランスシートの資産項目のなかで、固定資産や売掛債権の流動化は行われていますが、最後にほぼ手つかずのまま残っていたのが在庫です。これまで在庫を担保に資金調達するのが難しかった理由は、在庫のデータ量が膨大かつ取り扱いが非常に複雑であり、モノとデータが一体の情報としてなかなか紐付いていかないからでした。
そもそも、在庫が今いくらあるかを把握している企業は意外と少ないのではないかと思います。ですから、すべての商品が今、いくらあるかを把握しながら、その在庫の評価を自動的に、シームレスに繋げるプログラムができれば、『在庫ファイナンス』はビジネスとして成立する、と思いました。

『在庫ファイナンス』と言ってはいますが、その裏にあるのはサプライチェーン(原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、販売、配送までの製品の全体的な流れのこと)の情報を結合させていくことと同じで、そこにファイナンスの機能をくっつけたということです」

シマントが試算した上場企業の小売業の在庫市場は約5兆円。ファクタリング(企業の売掛債権を買い取り、債権回収〈債権の管理・回収〉を行う金融サービス)の市場は約2兆円だが、「在庫ファイナンス」の市場はそれよりも大きいとみている。
そして、「在庫ファイナンス」としては、メーカーから出荷した製品が小売店の店頭に並ぶまでの間に物流センターに中間在庫として納められるが、この中間在庫を金融機関が買い取るというかたちにしていきたい、と言う。つまり、在庫の所有権が小売企業から金融機関に移転するわけである。

この「在庫ファイナンス」のメリットはなにか。
金融機関にとってみれば、新しい融資のかたちができることである。一方、小売企業にしてみれば、在庫をオフバランス(資産・負債でありながらも、貸借対照表バランスシートに計上されないこと)するので会計上のリスクを排除することができ、企業の価値評価を高め、借入・金利負担を軽減し、資産利益率(ROA)を向上させる効果がある。また、資金効率(CCC)を高めることもできる。

中間在庫を買い取るリスク

金融機関が発売前の在庫品を買い取るのはいいが、その商品が思い通りに売れなくなったらどう対処するのか。和田氏もそこが難しいと言う。
「最初は比較的、商品として回転が早い日用雑貨品から『在庫ファイナンス』を始めていきたいと考えています。さらに、それらの商品の販売履歴を参考にして、在庫の価値判断をしたいと思っています」

シマントでは「SImount Box」を武器に、まずは金融機関と二人三脚で「在庫ビジネス」を大手小売企業に対して展開し、その後、さまざまな分野へ広げることを視野に入れている。
現在、シマントでは三菱UFJリース、日立キャピタルとサービスを構築中だ。

シマントでは、在庫のほかにも取り扱うデータの業種が広がっていると語る和田氏
シマントでは、在庫のほかにも取り扱うデータの業種が広がっていると語る和田氏

マルチバリューデータベース「SImount Box」の存在

シマントではマルチバリューデータベース「SImount Box」を武器に、物流会社の配送データや小売業側の受発注データをもとにリアルタイムな在庫データを把握。この情報を資産管理事業者に「在庫ファイナンスのための与信データ」としてフィードバックすることで、「在庫ファイナンス」を実現させる考えだ。

そこで、「在庫ファイナンス」の成立の鍵を握っているのが、シマントが開発したマルチバリューデータベース「SImount Box」である。これは、RDB(Relational Database、関係データベース)でいうところの集計項目キーなどに対する複数のレコードの集合体をあらかじめ物理的にひとかたまりにして扱うことができるというものだ。

企業の事業に関するデシジョン・メイキング(意思決定)に欠かせないのが、事業の結果を数値化し、統一の軸で分析した情報である。しかし、データを処理するシステムやフォーマットがバラバラであった場合には、データを一つにまとめるには相当な労力を要する。同一商品でも違うデータとして取り扱われるなど個別の事情により共通化できないことが多いのだ。たとえば、人間が見たら同じ商品でも、販売チャネルが違うことから別システムで業務処理されるなど、異なる商品管理番号が割り振られて、データ管理上は違う商品として扱われてしまうこともしばしばだ。
情報処理を新たにシステム化するとしても膨大な投資が必要であり、多くの場合、システム化を実質的に諦め、結局は手作業で対応するしかない。そうすると手間もコストもかかり、業務の遂行に大きな影響を及ぼすことになる。

ところが「SImount Box」は、テーブル設計を必要としないシマント独自の技術を活用しているので、どんなフォーマット(エクセルやCSV、PDFなど)でも、顧客が見たい軸に置き換えて収集・格納・分析を行うことができるのが、大きな特徴である。たとえば、社内に存在するすべてのデータ(営業や経理・販売・マーケティングなどの情報)を結合していく。そして、あらかじめ設定をしておけば、必要な情報を瞬時に取り出して、顧客軸や商品軸、時間軸などに置き換えて見ることができる。

特に、大手の小売業が扱う商品の点数は膨大な上に、販売チャネルも多岐にわたっている。複数のシステムが別々に稼働している中で取り扱われるデータも多い。システムや業務フローを変更せずに、販売データや在庫データを管理するのに、マルチバリューデータベース「SImount Box」は欠かせない存在となっているのだ。