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マイクロペイメントの実現へ 2nd Layerソリューションの開発に社運をかけるNayuta

革新的システム、ライトニング・ネットワーク開発を語るNayuta代表取締役の栗元憲一氏

マイクロペイメントの実現へ 2nd Layerソリューションの開発に社運をかけるNayuta

MUFGの第2期アクセラレータ・プログラムで準グランプリを獲得したNayuta。社名がサンスクリット語の「10の60乗」に由来するNayutaが現在、取り組んでいるのは、ブロックチェーンの基盤の上にペイメント専用のレイヤー(2nd Layerあるいはレイヤー2)を構築する試みである。

パブリック・ブロックチェーンの欠陥と課題

なぜ、こうした試みに取り組んでいるのかについて、Nayuta代表取締役の栗元憲一氏は次のように語る。
「ビットコインの2nd Layerの開発に今は注力しています。ビットコインはパブリック・ブロックチェーンを使って動いていますが、そこには課題があります。もともとビットコインは国や銀行に支配されない、誰でも使える通貨として開発されたのですが、実際は、あまり使われていません。投機目的で購入し、ため込んでいる人が多いのです。ビットコイン全体では数兆円の価値が生まれていますが、決済に使われているのはすごく少ないです。決済通貨としての存在感は全くなく、将来の値上がりを期待して保有している方が増えているという状況です。
その理由としては、一取引の確定まで10分かかることや、手数料が数十円はかかってしまうことがあげられます。また、そんなに頻繁に取引ができるわけではなく、世界中で1秒間に約7つの取引しか処理できません。対して、クレジットカード会社のVISAは1秒間で数千件、処理できると言われています。これらの要因から、現状ビットコインはあまり決済に使われていません。
この状況を解決するために、世界中で現在、マイクロペイメントをスムーズにするライトニング・ネットワークの技術開発が行われていて、当社もその開発に参加しています」

世界中が2nd Layerの開発に取り組んでいる

ライトニング・ネットワークは、ビットコインのブロックチェーン上にペイメント専用のネットワークをつくり、2nd Layerを利用することで、リアルタイムに処理ができる仕組みだ。そのため、支払ったほうも、支払われたほうもリスクが少なく、取引がすぐに完了する。現在、Blockstreamをはじめ、MIT Media Lab、ACINQ、Lightning Labなど、幾つかのチームが世界中で開発にしのぎを削っている。

その開発は現状、どうなっているのか、栗元氏はこう語る。
「現在、簡単な送金テストは完了しています。しかし本当に完璧な仕組みとするためには、何があっても止まらないで動くシステムにしなければならないので、引き続き大量のテストが必要です。たとえば、ソフトウエアにちょっとしたミスがあったら、そこをついて決済がうまくできなくなる可能性があります。そうした可能性を可能な限り取り除くためのテストですので、まだまだ完成までには時間がかかります」
現在、2nd Layerは、産業品として完成したものではなく、実装にはかなりの時間がかかる見通しだ。

Nayutaとしては、IoTをメイン事業に考えているため、IoTに適したライトニング・ネットワークシステムの検討も進めている。アプリケーションごとに必要なツールをパートナー企業と共同開発し、市場へ提供していく構想だ。このアプリケーションの共同開発とトランザクションによる手数料を収入源として考えており、現在、ファーストカスタマーとなるパートナー企業と交渉中である。


完成度の高いシステムにするため日夜、開発とテストを繰り返していると話す栗元氏

電源ソケットで、ワンシャン・グローバル・ブロックチェーン・チャレンジでも受賞

実は、Nayutaは最近、中国のコングロマリットのワンシャングループが主催する、ワンシャン・グローバル・ブロックチェーン・チャレンジでも入賞を果たしている。このワンシャングループは、5年間で数兆円をかけて、浙江省の省都である杭州市にスマートシティをつくる構想を掲げている。

また実は、ワンシャングループは以前から、ブロックチェーン技術の研究・開発に多くの資金をつぎ込んでおり、何人もの世界的に有名なブロックチェーン研究者がワンシャン・ブロックチェーン・ラボに所属している。

ワンシャングループがスマートシティにブロックチェーンを使ったアプリケーションを展開することから、Nayutaも応募したのである。
ワンシャングルーブから出された課題は、スマートシティ全体をローコストでローカーボンにするにはどうしたらいいのか、というものであった。そこで、Nayutaは、すでに自社開発を行っていたブロックチェーン技術を応用し、使用権をコントロール可能な「電源ソケット」のプロトタイプの発展型を提案した。

実際に提案した内容は、スマートシティの街中のすべてのカフェにNayutaが開発した電源コンセントを設置するというものだ。そして、マイクロペイメントによって電源コンセントの使用権を得たり、カフェによっては商品購入直後の30分だけ電源コンセントが使えたり、カフェが混雑しているときは高い電気代に設定するというものである。さらに、ビッグデータを使ってさまざまなデータを解析することで、需要予測やデマンドレスポンスもできることから、電力の需要が上がるときは電気代を下げて街全体の電力料金を下げるほか、値段が高くてもいいからユーザーが太陽光を使いたいとなれば、街としてはローカーボンになるという仕組みだ。街全体としてこの電源ソケットを使うことで、街全体の電力量を下げ、ローカーボンを実現するという提案である。

つまり、受益者に負担を強いることになるインフラづくりではあるものの、このような電源ソケットを設置できれば、社会インフラが充実した都市を市民参加型で作っていくことが可能になる。まさに、ワンシャングループが構想するスマートシティづくりに欠かせない社会インフラとして、その必要性が認められ、受賞につながったわけである。

「電源ソケット」の発展型技術をはじめ、ライトニング・ネットワーク開発など, Nayutaが取り組んでいる分野は、今後ますます注目されるはずだ。特に、IoTと関連する2nd Layerソリューションは、世界中で開発が進んでいる。それゆえに競争も激しくなることは必至だが、「革新力」を携えたNayutaが、世界のソフトウェアテクノロジー分野を変える日もそう遠くはないだろう。