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あのテンセントからも評価!「オーバーツーリズム」と「体験ロス」を解消する新サービスとは!?

JDD イノベーション・ラボの何 之冰(か しひょう)氏

あのテンセントからも評価!「オーバーツーリズム」と「体験ロス」を解消する新サービスとは!?

日本を訪れる中国人観光客が増える中で、観光客のニーズも多様になり、ガイドブックに載っていないスポットの訪問や文化体験を求める声が高まっている。こうした声にこたえるべくJapan Digital Design株式会社(以下、JDD)がリリースした動画投稿コミュニティ「第j站(jStation)」が注目を浴び始めている。

月間アクティブユーザー数10億人を誇る中国最大のSNS「WeChat」上で提供されているjStationは、訪日中国人観光客が新たな日本の文化や魅力を発見し、実際に体験することで旅の満足度を高められるサービスだ。さらに、そのニーズを取り込みたい地域の団体やパートナー企業の集客やオペレーションコストの低減といった課題につながることも期待されている。

開発・運営するのは三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)の連結子会社のJDDだ。今回は、プロジェクトリーダーである何 之冰(か しひょう)氏にjStationの概要と同社がサービスを提供する背景について伺った。

jStationの役割は「訪日中国人観光客が本当に知りたい情報を提供すること」

jStationは日本の観光スポットの魅力や文化的背景が分かる30秒の動画を投稿できるコミュニティだ。動画を撮影するのは一般WeChatユーザー。観光や居住で訪日中のユーザーが、中国人にあまり知られていないスポットや楽しみ方を見つけ、自らの体験を動画に記録しコミュニティにてシェアする。

jStationの特徴はこの「ユーザーが動画を直接投稿する」ところにある。コンテンツはプロが作るのではなく、ユーザーが作るのだ。

なぜプロが作る「PGC」(Professionally Generated Contents)ではなく、ユーザーによる「UGC」(User Generated Contents)としたのか。何氏は「PGCは、事業者の目線で同一な体験をユーザーに押し付ける情報になりがちです。特に若い訪日中国人観光客が求めている『私しかできない体験をしたい』というニーズにマッチした情報は、PGCでは生まれにくい」と説明する。
サービス開始は2018年7月下旬。まだ開始直後のため投稿件数は多くないが、日中両国文化に理解がある「アンバサダー(=インフルエンサーの役割を持つ一般投稿者)」の旅体験と投稿活動を呼びかけ・支援する等マーケティング施策を通じて、今後一気に投稿を増やす予定だ。
アンバサダーは動画コンテンツ制作のプロではないが日本文化を深く理解しており、視聴者であるユーザーに近い。そんなアンバサダーだからこそ、訪日中国人観光客が「行きたいスポット」「体験したいこと」を同じ目線で伝えられると考えられるのだ。

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日本を訪れる中国人観光客は年々増え続けている。2006−07年ごろには年間100万人弱だったが、2017年には700万人を突破するほどに増加。今後も伸び続けると予想されている。

数は増えているものの、その満足度は必ずしも高いとは言えないようだ。その原因についてリサーチを重ねた結果、2つの問題が明らかになったと何氏は指摘する。

「一つは観光地に中国人観光客が集中してしまう『オーバーツーリズム』の問題です。これは日本の情報がメジャーな観光スポットに限られていることが理由です。どこに行っても観光客ばかりで混雑していては、旅行の満足度も下がってしまうでしょう。もう一つは、せっかく日本に来ているにもかかわらず、その文化を体験しきれない『体験のロス(喪失)』です。たとえば、名古屋名物のひつまぶしも、日本人なら薬味を使って3種類の食べ方を楽しめますが、中国人はそれが分からないので、日本人と同じ体験ができない。こうしたロスが発生しているのです。これは訪日中国人観光客のニーズに応えられていないということです」

金融グループが訪日外国人観光客と接点を持つために

なぜMUFGの子会社であるJDDが訪日中国人観光客向けのサービスを手掛けるのだろうか。

その理由について何氏は、「今後成長する分野に参入することはMUFGにとってもテーマの一つ。特に訪日外国人向けの市場は約4兆円規模で、今後の成長継続も期待されるだけに参入したい分野でした」としたうえで、グループでどのようなサービスを提供できるか、1年以上前から議論を重ねてきたと明かす。

そして「従来の銀行業務の枠組みでは口座を持たないお客様にはアプローチできませんでした。そこでこの枠組みにとらわれず、外国人観光客との接点を作ることが重要だという結論にたどりつきました」と説明する。

訪日外国人観光客の中でも、中国人は韓国人と並んで数が多い。まずは訪日中国人観光客向けのサービスを提供できないか検討を重ねた。訪日中国人観光客の行動データなどが手に入れば、決済などさまざまなサービスの展開に利用でき、MUFGとしても大きな資産になる可能性がある。そのためにどのようなサービスを展開するのが良いかPoC(実証実験)を実施した。

しかし、PoCはことごとく失敗に終わる。その原因について、何氏はこのように振り返る。「昨年(2017年)までは、旅行中にサービスを使ってもらうことにフォーカスしていました。日本を訪れた中国人にアプリをスマホにダウンロードしてもらう必要がありました。しかし、旅行で日本にいる間しか使えないアプリを、ユーザーがダウンロードすることはほとんどありません。PoCを重ねる中で、一工夫必要だと感じました」

さまざまなトライ&エラーを繰り返して行きついたのが、旅行中だけでなく旅行前から旅後まで中国人生活者に継続的にアプローチし、日本地域とのリレーションシップをじっくりと育むという発想だった。「自分しかできない体験をしたいと考える中国人は、訪日前から積極的に情報を収集します。日本だけでなく、中国にいても使えるサービスを開発すれば、利用してもらえる可能性が高まります。この考えがjStationを構想するきっかけになりました」

アジャイルでサービスを4ヵ月で開発、テンセントからも高評価

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テンセント社との連携が、このサービスの最大の強みを生み出している。

旅行前の中国人に日本の情報を届けようとしても、JDD単独ではほぼ不可能だった。

なぜなら中国のインターネット規制が非常に厳しく、日本から直接にサービスを展開しても、中国にいるユーザーに届けることは困難だからだ。そこでJDDはパートナーとして、中国最大のSNS・WeChatを運営するテンセントに話を持ちかけた。WeChatのスキームを使えば、専用アプリを新たにダウンロードする必要がなく、訪日前から中国にいるユーザーにリーチすることができる。

テンセントは今や世界でも有数の企業であり、数多くの企業からビジネスの協業依頼を受けている。テンセントがJDDを選んだのはなぜなのだろうか。何氏がテンセントにその理由を訊ねたところ、「紙だけでなく、実際にスピーディーにプロダクトを作って持ってきたところ」が評価されたことが分かった。

「jStationの構想を提案してから4ヵ月ほどでプロダクトを作り、「これはいい!」と納得していただくことができました」

サービスを開発する際は、日中を跨いだアジャイル開発にもチャレンジ。その取り組みを通じて何氏は数多くのノウハウも蓄積できたと手応えを口にする。仕様検討から開発が完了するまで約4ヵ月。要件定義を行い、バックログリストを作って、1週間ごとにレビューを行なった。レビューはJDDだけでなく、テンセント担当者やユーザー候補者の協力を得て実施したという。

何氏は「毎日のように仕様検討と検証作業が続きましたが、予算と期間が限られている中で良いチャレンジができ、MUFGとしても貴重なノウハウを蓄積できたと思います」と振り返る。

サービスの価値を高めるために自治体やパートナー企業とも連携を進める

PoCや知見がなかったアジャイル開発へのチャレンジなどさまざまな試行錯誤の末、誕生したjStation。当面は、良質な動画コンテンツを安定的に供給し、多くのユーザーに使ってもらい、サービスの価値を高めることに注力するという。「サービスの価値を高めることでさらにユーザーが増えるというサイクルを作りたい。広告収入などによるマネタイズはその先の話だ。」と何氏はいう。

同時に、自治体やパートナー企業との連携、動画を投稿するアンバサダーの発掘も進める。何氏は「インバウンド向け商品・サービスを提供し、その課題解決に役立つ情報発信を行いたい企業・団体の皆さんに活用していただきたい」と期待を寄せる。2018年7月20日のプレスリリースによると、既に京都市やアニメツーリズム協会、福井銀行等とともにコンテンツの拡充に取り組んでいる。

また、コンテンツを補助する役割として、その他旅体験を高める機能についても外部パートナーとともに展開。第一弾の取り組みとして、株式会社Paykeからは、商品のバーコードを読み取るとその情報を中国語で表示できるサービスが提供されている。

中国人観光客にとっての魅力的なスポットや文化体験の中には、日本で暮らす私たちにとっても新たな発見をもたらすかもしれない。興味のある方はまずWeChatをダウンロードして、WeChatのQRコードリーダーを利用し、下のQRコードを読み込んで使ってみてはいかがだろうか。

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