独自の暗号技術によるセキュアな多要素認証技術が武器
AndGoは、仮想通貨のハードウェアウォレットの開発を手掛けている。ハードウェアウォレットは、仮想通貨の所有権と同義である秘密鍵をオンラインではなく、オフラインで管理するのが特徴であり、一般的に安全性が高いといわれている。仮想通貨を送金するためには、この秘密鍵による処理が必要となる。秘密鍵をインターネット越しに直接アクセスされないところに保管することで、ハッキングリスクを下げているのだ。一方、原氏によると、「既存のハードウェアウォレットは、操作間違いによる誤送金やパスワード管理の煩わしさなどの課題を抱えており、仮想通貨ホルダーからあまり好まれてこなかった」という。
当社のプロダクトは、多要素認証機能を搭載する。ユーザーのスマートフォンとハードウェアウォレットを独自の紐付け技術により1対1でペアリングし、両方のデバイスが揃った時のみウォレットとして機能するという仕組みだ。デバイス間の認証は非接触、入出金はQRコードで行うことができ、毎回アドレスやパスワードを入力する必要がない。ユーザーインターフェースをスマートフォンにしているため、優れた操作性を備えている。ユーザーはよりセキュアで簡単に、自身の仮想通貨資産を自分で管理できるようになるというのだ。「それを支えるのは独自の暗号技術だ」と原氏は胸を張る。
原氏はもともと遺伝情報学の数理面を専門とする研究者だ。「ゲノム情報解読も、その配列の意味を読み解くという意味では暗号のしくみの探求に近い。そのため、自然と暗号技術そのものも研究対象となっていった」と原氏。
原氏が仮想通貨に強い興味を持ち始めたのは2017年の初頭だ。仮想通貨はブロックチェーンと呼ばれる技術が支えている。このブロックチェーンは暗号技術を高度に組合せた最先端のしくみである。ブロックチェーンの技術的な面白さについて知人と議論する中で、「最先端の暗号技術が世の中に実装される現場として魅了された」という。同時に、ブロックチェーンには必ず鍵管理の問題が伴い、そこが課題になるであろうことも見抜いていたという。
「実際、取引所で仮想通貨が盗まれたり、個人で仮想通貨に投資している人もハードウェアウォレットのパスワードを忘れたりなど、安全な管理ができているとは言い難い状況。この問題の解決なくして仮想通貨やブロックチェーンは社会に根付かないと考えるようになった」と原氏。
AndGoが開発する仮想通貨用のハードウェアウォレット
MUFG Digital アクセラレータに参加へ!4ヵ月間で試作機が完成
仮想通貨の調査を進めていくなかで、原氏はある企業の存在を知ることになる。株式会社Nayutaである。日本発のLightning Networkソフトウェアなどを開発するNayutaは「仮想通貨の技術について調べていれば必ず行きつく企業」だという。
Nayutaは、第2期のアクセラレータに参加したスタートアップでもある。原氏は、第3期のアクセラレータの説明会に、Nayutaの代表取締役を務める栗元憲一氏がゲストで登壇すると知り、説明会に参加した。「栗本さんには、その場で個別に相談にのってもらえたほか、アクセラレータに参加した感想をきくことができた」と当時を振り返る。そして、プログラムに参加するメリットを理解し、応募を決意したという。
アクセラレータに参加して驚いたのは、メンター陣の熱意とMUFGのネットワークだという。当社のチームは、株式会社東京大学エッジキャピタルの坂本教晃氏、インクルージョン・ジャパン株式会社の吉沢康弘氏がプロメンターを担当し、株式会社ペイジェントがMUFGメンターを担当した。
「キックオフでチームアップしてから、ほぼ毎週メンタリングセッションを行っていただいた。特にプロメンターには、プロダクトやビジネスモデルの検証や課題の整理など、ビジネス化に向け、プロの目線で強力にサポートいただいた。また、彼らの人脈を通じ、今後につながるいい出会いもあった」と語る。中でも、「ハードウェアを製作してくれる企業と接点を持てたことは試作機の製作に大きな弾みとなり、アクセラレータのDEMO DAYで完成した試作機を披露することができた」という。
AndGoが売りにするセキュリティ技術については、MUFGの各社と議論を重ねた。「(一般に厳しいと言われる)金融機関のセキュリティレベルに触れることができたのは貴重な機会だった」と、プログラムを通じ様々な企業とディスカッションの場を得ることもできたという。
カブドットコム証券とディスカッションを継続、 アクセラレータで成果を得るために必要なこととは
アクセラレータのDEMO DAYでは、自社のブースに展示した試作機に注目が集まったAndGo。MUFGとの関係はアクセラレータ後も続く。DEMO DAYでは、カブドットコム証券株式会社と技術開発の議論を継続すると発表。「カブドットコム証券様は、AML(=Anti Money Laundering:マネーロンダリング対策)やKYC(=Know Your Customer:顧客確認)などコンプライアンスに強い関心を持っており、弊社の技術がどこまで役立つか議論を深めていく」
ハードウェアウォレットについても製品化の見込みが立った。「2018年12月から予約販売を開始、ユーザーの手元に届くのは2019年3月か4月を予定する。まずは数千台、いずれは数十万台の販売をめざしたい」
その先の展望として、「将来的には、ウォレットに個人間の送金機能や決済機能を実装したいと考えている。ウォレットを起点として、仮想通貨さらには価値を媒介するトークンが価値交換の手段として使用される世界を導きたい」と語った。
「価値交換を民主化する」とのビジョンを掲げるAndGo。原氏は、第4期参加をめざすスタートアップに自身の体験をもとにアドバイスを送る。「まずは説明会に参加し、アクセラレータの実情を把握し、どれくらいのリソースをかけられるか検討するといいでしょう。また、MUFGのアクセラレータは、グループ内外のネットワークが充実しており、金融に関する幅広い知見があるので、弊社のように仮想通貨向けのビジネスを展開したい企業にもおすすめですね」
近年、注目を集める仮想通貨。一方で、取り巻く環境はまだ十分に整備されているとは言い難い。セキュリティの規格も今後検討が重ねられるだろう。そんな時代を見越して、AndGoは今日も自社の技術に磨きをかける。