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MUFG Investor Servicesが「MUFG IS Tech Global Meetup#1」を開催~テクノロジーが金融業界に与えるインパクトと日本のフィンテック開発の行方を探る

MUFG Investor Servicesが「MUFG IS Tech Global Meetup#1」を開催~テクノロジーが金融業界に与えるインパクトと日本のフィンテック開発の行方を探る

2019年9月12日、三菱UFJフィナンシャルグループ(以下、MUFG)の一社、MUFG Investor Services(三菱UFJ信託銀行インベスターサービス、以下、MUFGインベスターサービス)の主催で「MUFG IS Tech Global Meetup#1」が開催された。

資産管理事業のIT化で注目の集まるPython

MUFGは、総資産が約2.7兆ドル(約288兆円)の世界有数の金融グループの1つであり、50か国以上に2,300を超えるオフィスを擁するグローバルネットワークだ。グループには約150,000人の従業員と300近い事業体があり、商業銀行、信託銀行、証券、クレジットカード、消費者金融、資産管理、リースなど2,400を超えるファンドの管理サービスを提供。運用資産総額は5,000億ドル(約53兆円)を超える。

MUFGの2018年度から3年間の中期経営計画において、受託財産事業本部がめざす姿として掲げている「国内で圧倒的なNo.1+グローバルにも存在感のあるプレイヤー」をめざすべく、MUFGインベスターサービスが中核となって推進しているのが資産管理事業の強化だ。

MUFGインベスターサービスは、グローバルにビジネスを展開するクライアントに対し、市場の深い専門知識と業界をリードするテクノロジーを活用して、資金管理、保管、証券代行からFX、預託、証券貸付、銀行サービスなど幅広いソリューションを提供している。

この事業領域において、特にアセットマネジメント会社や機関投資家のクライアントに向けてさまざまなソリューションを提供すべく、ヘッジファンド、プライベート・エクイティファンド等の資産管理事業へ参入した。そして、同社が事業拡大のための不可欠な要件として着目しているのがITの活用だ。

昨今、インベスターサービス領域においては、業務の効率化・高度化を目的としたIT戦略を推進する中、特にプログラミング言語であるPythonの活用に注目が集まっている。

同社でも昨年9月と本年3月にPythonコミュニティの発展、社内外への教育・技術普及を目的に、IT勉強会を開催している。今回は、そのIT勉強会の第3弾として、Pythonによるシステム開発に強みを持つPoint Nine Limited(以下、P9社)の経営陣をはじめ、金融、IT領域の講師を招いて、株式会社LIFULL本社にて開催された。総合司会は、Plug and Play Japanの江原伸悟氏が行った。

Point Nine Limited(P9社)とは?

P9社は、2002年設立のキプロスに本社を置く海外資産管理会社で、アセットマネジメント会社向けミドル・バックオフィス業務のアウトソーシング受託を主要業務とし、主にPythonを用いた金融取引に係るデータ管理や、当局宛レポート作成等のミドル・バックオフィス業務に関するシステム開発に強みを持っている。現在、ヘッジファンド、アセットマネージャー、ブローカー、銀行など、世界中の70以上のクライアントにテクノロジーと管理サービスを提供している。

なお、MUFGインベスターサービスは、2018年2月よりP9社とパートナーシップを結んでいたが、本年10月には三菱UFJ信託銀行により同社の買収を完了した。P9社では、今後の業務拡張のために新たな人材の募集も始めている。
※P9社は、買収後はMUFG Investor Services FinTech Limitedに社名変更している。

トークセッション

過去2回のイベントでもPythonに焦点を当ててきたが、今回はグローバルな金融およびテクノロジー企業で働く経営層が登壇した。まず、アマゾンウェブサービスジャパンの飯田哲夫氏が「Impact of technology on the financial services industry(金融サービス業界に与えるテクノロジーの影響)」と題してトークセッションを行なった。

同氏は、「アマゾンの企業理念は、”地球上で最もお客さま中心の会社であること”であり、その使命は”お客さまの生活をより楽にする”こと。決して、テクノロジーありきではないことに留意いただきたい」と前置きした上で、アマゾンがどのようにイノベーションを起こし続けているのか、その秘訣を紹介した。


(アマゾンウェブサービスジャパン 飯田哲夫氏)

飯田哲夫氏:
アマゾンは数々のイノベーションを世にもたらし、人々の生活や企業に対し大きな影響を与え続けています。現在もクラウドサービスと金融を繋げ、さらにサービスを拡大しているところです。

どのイノベーションにおいてもその起点とするところは「お客さまとバックヤード」です。お客さまの、特にそのバックヤード作業をいかに簡易化するかを、時間をかけて深く考え、失敗を恐れず、ときに誤解されることも厭わず開発していくことで、イノベーションが実を結んできました。

そして、現在も、その手法で様々なイノベーションの種を育てているところだが、そのためにはチーム編成が大事であるとし、アマゾンでは「二つのピザ」と称してチームは少人数で編成する形をとっていることを披露した。

同氏は、今後もアマゾンは、お客さま目線を軸に、金融業界にITテクノロジーのイノベーションを起こして行くと述べた。

続いて、P9社のMarc-André Lemburg氏が、「The story behind the new MUFG Investor Services Portal - Using a modern Python based web stack to run an investment portal for thousands of users(新しいMUFGインベスターサービスポータルの背景 ー Webスタックをベースにした最新のPythonを利用した数千人規模のユーザー向け投資ポータル運営)」と題してトークセッションを行った。

同氏はP9社のCTOであり、ヨーロッパPython協会の会長職を務めるかたわら、Pythonソフトウェア財団フェローでもある。Pythonに1994年から携わっている経験を活かし、コンサルタント・トレーナーの顔も併せ持つ。


(Point Nine Limited Marc-André Lemburg氏)

Marc-André Lemburg氏:
当社は、三菱UFJ信託銀行による買収後、新しいMUFGインベスターポータルの構築を行う予定です。このポータルによって、容易にデータにアクセスできるなど、お客さまにとって使いやすいサービスとなります。

ポータルサイトは大きく分けて、お客さまが直接操作するブラウザ上の窓口と、投入されたデータを管理する中間部、そして蓄積されたデータをシステム解析する深部と、複数の層によって構成されており、それぞれの層ごとに適切な開発が必要になります。

窓口にあたる部分はクラウドサービスを使用しつつ、中間部と深部はPythonを活用し、データ解析結果等の提供のみならず、文書の提出・提供といったポータルサイトとしての利便性・安全性の高いシステムを開発します。

このポータルサイトは、2019年からお客さまごとに段階的に公開し、2022年には新MUFGインベスターサービスポータルサイトとして最終形を完成させる予定だ。

なお、当社はこの開発に際して人材を募集しており、特にアジア・アメリカの開発サポートチーム、ビジネスアナリスト、そしてプロジェクトマネージャーを募集中である。

パネルディスカッション


その後、休憩を挟み、以下の登壇者が日本のフィンテック開発についてのパネルディスカッションを行った。

●柴田 誠氏(FINOVATORS Founder)
●Pavlos Christoforou氏(P9社CEO)
●John Sergides氏(MUFGインベスター・サービスCEO)
●上原 玄之氏(Symphony APAC戦略・企画統括部長)
●林 佑樹氏(アルパカ共同ファウンダー/CTO)
●モデレーター:谷本有香氏(フォーブス ジャパン副編集長)

—日本のフィンテックの状況をどう見ていますか?

柴田 誠氏:
経済ITシステムが成長し、非銀行系企業もフィンテックに参入している現在、技術面においてもサービスの質に重点が置かれるような次のレベルに入ったと言えます。香港の発展スピードなどを考慮すれば、片時も目が離せません。一つの企業で長く働くようなことも、もはや前提とはならなくなって来ました。

John Sergides氏:
金融業にIT技術を取り入れる時には「信頼」が欠かせません。取り扱うデータも多いので、多少価格が高くなっても安全・信用が重視される面があります。フィンテックは技術開発の速度が速く、面白くてたまらないですね。

—日本のフィンテック開発は遅れているのでしょうか?

柴田 誠氏:
そんなに、遅れているとは認識していません。(他のパネリストも同意)
開発に着手する時期は2?3年遅かったかもしれませんが、日本には高度なIT会社も存在しており、技術面で遅れているということはありません。

上原 玄之氏:
AI開発において、金融機関はデータベンダーとしてすでに重要な役割を担っています。

—エンジニアにはプログラミングのようなエンジニアとしての技術の他に、コミュニケーションスキルやファイナンスの知識も必要でしょうか?

林 佑樹氏:
コミュニケーションスキルは重要でしょう。開発チームが多国籍のメンバーで構成されることもあるので、特に英語でのコミュニケーションを取らざるを得ないことがあります。

柴田 誠氏:
好奇心があると良いですね。自身の技術開発にはいつも学びが必要ですから。ちょっと前までは、金融とITは互いにちょっと古めかしい、敷居の高いものでしたが、Python等の登場で潮目が変わりました。一つのもの、例えばプログラミング言語などを真に理解することが重要ですね。ファイナンスに対する真の理解と、IT技術に対する真の理解が交わることで、価値の高いものができる可能性が高いです。

上原 玄之氏:
「質問力」が必要ですね。分らないことは聞かないと先に進みませんので。

—グローバルIT企業で働くエンジニアの働くコツというものはありますか?また、日本のエンジニアはあまりグローバルに出て行かないようにも見えますが、その点はいかがでしょうか?

Pavlos Christoforou氏:
(グローバルに出て行かないというのは)日本の市場の規模がある程度大きく、技術力も高いためだと思います。海外に出ていくことはそんなに難しくはありません。チームワークのあり方は色々ありますね。

柴田 誠氏:
AWSのお話にもありましたが、チームで働くので、特に小さいチームは、「自分の分担はここまで」といったバリアを解く必要がありますね。教育面でも、文系・理系という枠組みはもう不要なのではないでしょうか。

上原 玄之氏:
解放された経済市場として、日本は世界第2位の規模なので、(日本にいても技術が集まるという点では)物理的にグローバルにこだわらなくても良いのかもしれません。

続いて、参加者からの質問に各パネリストが答えた。

—フィンテックが日本に与える影響とは何でしょうか?

柴田 誠氏:
お客さまサービスがどんどん進化するのに合わせて、中高年になっても新しい技術への理解や学習が必要になってくるでしょうね。

John Sergides氏:
人口や経済環境が変わる中で、いい機会をつかむためにも技術がより重要になるでしょう。

—日本のフィンテックの環境は、今後、よりソフトウェアエンジニアの活躍の場が増えそうですが、新しいフィンテック・エンジニアにとって機会や成長といった面ではどうなっていくと思いますか?

Pavlos Christoforou氏:
日本ではますますフィンテックが重要になりますし、エンジニアが活躍する範囲が増えて行きます。トークセッションでもお話しましたように、P9社は新MUFGインベスターサービスポータルサイトを開発するために技術者を求めています。Pythonを中心に、AWSの技術なども利用しながら、新しいものを一緒に作っていきましょう。

John Sergides氏:
フィンテックは、アウトソーシングという面でも将来性のある業務であり、かつ、技術革新が大きい領域です。今後も革新性の高い技術が現れる可能性が十分にあるビジネスです。

最後に、各パネリストからエンジニアに期待する熱いメッセージが送られて「MUFG IS Tech Global Meetup#1」は終了した。

いまや金融とITの融合は必然であり、フィンテック業界の技術的進歩は日進月歩だ。ぬかりなくトレンドを捉え、怠りなく業務改善を行うことがビジネスの成否を分けるのは明白だろう。それだけに、これからの金融業界にどれほどのインパクトを与えるか、日本のフィンテック開発にも期待がかかるところだ。

(為替レート:2019年10月4日現在)