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第4期「MUFG Digitalアクセラレータ」、グランプリGINKANがプログラム参加で得た成果

第4期「MUFG Digitalアクセラレータ」、グランプリGINKANがプログラム参加で得た成果

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)は、2015年から、アクセラレータプログラム「MUFG Digitalアクセラレータ」を主催し、世界に変革をもたらす熱意を持つスタートアップを対象に、リソース提供など、ビジネスを加速させるためのサポートを展開している。2020年3月から募集開始する第5期を前に、第4期プログラム最後のDEMO DAYでグランプリに輝いたGINKANの神谷社長が、プログラム期間中の熱気に溢れた日々を振り返った。

明確なビジョンを持って応募し、グランプリに輝く

GINKANはグルメSNSアプリ「SynchroLife(シンクロライフ)」の開発、運営を手がける2016年創業のスタートアップ。他のSNSとの最大の違いは、良質なレビューの投稿者に、暗号通貨で報酬を付与していることにある。2018年8月にベータ版を公開して以来、約20万件のレビューを蓄積してきた。2019年4月からは、アプリを起動すると、ユーザーの位置情報を基にオススメの飲食店を表示する機能を搭載し、使い続けるほどにそのユーザーの嗜好を学習するAI機能を強化している。現在、同社は「検索エンジンに依存することなく、美味しい飲食店を探せるアプリ」をめざし、プロダクトの改善に邁進している。

2019年3月、GINKANは、100社を超える応募を勝ち抜き、第4回「MUFG Digitalアクセラレータプログラム」に採択された。同プログラムは、MUFGが2015年から実施しているもの。第4期はGINKANを含むスタートアップ8社が、4カ月間にわたり、各社の事業の立ち上げに必要なサポートを集中的に受けた。同年7月、GINKANはプログラム成果を報告するDEMO DAYに臨み、見事グランプリに輝いた。DEMO DAYとは、各企業が7分の持ち時間で自社の事業内容とプログラムでの成果を発表するもの。GINKANは、プログラム期間中に国内最大級のクレジットカード会社である三菱UFJニコスと協業を進め、三菱UFJニコスの社員を対象に同社加盟店の飲食店で実証実験を行い、その結果は高く評価された。

GINKANがこのプログラムに応募した動機は明確である。「三菱UFJニコスと協業するためには、このプログラムに採択されることが最も早いと考えたため」とGINKAN 代表取締役の神谷氏は語る。アクセラレータプログラムは、ビジネスモデルとプレゼンスキルで競うピッチコンテストとは異なり、期間内に他の事業会社とどれだけのシナジーを作れるかについても問われる。加えて、プログラムに参加している期間中も、投資家から事業成長が求められるハードな環境だ。

神谷氏は、第4期の説明会の場で、名古屋出身で同世代という共通点を持つ起業家の一人で、第2期のグランプリ受賞者でもある、クラウドリアルティの鬼頭武嗣氏(代表取締役)の体験談を聞いている。その後の鬼頭氏との食事の場での対話で、「プログラムはハードだが、得られる成果が多い」と知り、応募の決意を固めたという。神谷氏は、第4期のファイナリストに採択後、その言葉を実感することになる。

アクセラレータプログラムは密度の高い「修行部屋」


(株式会社GINKAN 代表取締役 神谷知愛氏)

神谷氏は4カ月間の日々を振り返り、MUFGアクセラレータプログラムの内容を、漫画『ドラゴンボール』に出てくる「精神と時の部屋」での修行に喩える。漫画の設定では、部屋の中の1日が外界の1年に相当する。このプログラムのファイナリストになることで得られるサポートは、スタートアップにとって魅力的だ。MUFG側はこのプログラムに参加するメリットとして、「起業の専門家や投資家から構成されるメンター陣からのアドバイス」「MUFGグループ会社とのビジネスマッチング」「一定の要件を満たした場合の出資」「無償でのワーキングスペースの提供」「MUFGグループ社員によるアドバイス」「MUFGグループ各社が提供するオープンAPIの活用支援」の6つを提供していることを挙げる。「ここで出会った人と4カ月間ずっと一緒に過ごすので、通常であればまず身を置くことが難しい環境だと思います」と神谷氏は述べ、このプログラムが実りあるものであったことを強調した。

GINKANが設定したゴールは、「プログラム期間中に、三菱UFJニコスとの実証実験を実施すること」であった。プログラム参加当初から、ビジネスマッチングの相手を強く意識し、協業によるビジネスプランのブラッシュアップを目的に活動を進めてきた格好だ。そのためには、4カ月間を、実証実験の発表準備に費やすことなく、実施して成果を得ることを重視する必要があった。

「僕たちには、クレジットカード会社と共に解決したいと考えるビジネス課題があったからです」(神谷氏)

その課題とは、飲食店での決済時に発生するオペレーションの効率化だという。SynchroLifeのユーザーは、同アプリの加盟店で飲食をすると、合計金額の1?5%相当の暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」を受け取ることができる。通常、代金決済時に店舗が発行するQRコードを読み取ると、アプリ内のウォレットのデータが更新される仕組みだが、支払いとQRコードの読み取りという二段階のオペレーションが必要になる。これをクレジットカードでの支払いだけにできれば、飲食店側は、暗号通貨を発行するまでのオペレーションを簡単にできる。さらに、暗号通貨だけではなく、クレジットカードのポイントも貯められるので、ユーザー体験も向上。そして、クレジットカード会社にとってはクレジットカードの利用促進にもつながるわけだ。国内では、飲食店の支払いは、現金がいまだに5割以上を占める。神谷氏は「クレジットカードを楽しく使う動機を作れば、もっと使ってくれるようになると考えました」と話す。

この仕組みを実現するために、GINKANはクレジットカード会社との協業を強く望み、プログラムの中で三菱UFJニコスへの引き合わせが実現した。実証実験では、ユーザーが対象店舗で飲食代金をクレジットカード決済すると、クレジットカード利用明細データに基づき利用金額の一部を暗号通貨「シンクロコイン(SYC)」として還元する仕組みを構築した。

アクセラレータプログラムの熱量


(三菱UFJニコス株式会社 経営企画本部 デジタル企画部 デジタル企画グループ 上席調査役 山田英俊氏)

プログラム期間中は、クレジットカード決済の仕組みなどを確認し、できることとできないことの見極めを三菱UFJニコスと共に進めたという。その対話を通して、三菱UFJニコス側も、GINKANが実現したいと考える仕組みを理解し、GINKANとのビジネス共創に手応えを感じるようになった。GINKANと共に実証実験を行った三菱UFJニコスの山田英俊氏は、SynchroLifeをダウンロードし、レビューを投稿することから始めたと振り返る。「最初は『神谷さんがくれたラブコールに応えたい』『支援したい』という思いでしたが、いつしか『自分たちも一緒にやりたい』という気持ちに変わりました」と、共創を進める過程で心境の変化があったと語る。

大企業、それもMUFGグループが属する金融業界に対し、飲食店業界をビジネスドメインとするスタートアップのGINKANとの活動は、三菱UFJニコス側にとって視野を広げてくれる体験だったようだ。

実証実験の構想自体は応募前からあったとは言え、実験スキームをブラッシュアップすることは簡単ではなかった。山田氏は「協業の検討もさることながら、クレジットカード決済に関する基本的な知識やセキュリティなどに対する考え方を共有することに時間を使いました。その知識は神谷さんたちがこれから他社との協業を進める上でも参考になると思います」とアドバイスする。

神谷氏が協業で重要と考えるのがビジネス価値観の一致である。スタートアップは大企業と組みたい。大企業もスタートアップを応援したい。だが、どちらかに負担があるような関係は健全ではない。実際、MUFGアクセラレータプログラムのような恵まれた環境に身を置くことができても、全ての取り組みが成功するわけではない。うまくいかない典型例が、スタートアップとMUFGどちらかが受け身となってしまうケースだが、GINKANと三菱UFJニコスの場合は、両社ともに熱量を高いままに維持できたことがグランプリを獲得する決め手の一つになったようだ。

「MUFGのアクセラレータプログラムに参加するなら、やりたいことがはっきりしていないと時間がもったいないと思います」と神谷氏は断言する。神谷氏の場合、プログラムに参加している企業のロゴを見て、どんなことができそうかを検討したという。もちろん、本当に実現できるかは相手と話してみなければわからない。しかし、スタートアップにとって、アイデアを提案書にまとめて大企業に直接打診するやり方は現実的ではない。大企業の場合、提案書を見てもらえたとしても、意思決定がスムースに進むことが稀だからだ。これに対して、MUFGのアクセラレータプログラムでは、YesかNoかをお互いに納得できるところまで突き詰めることができる。この時間短縮のメリットは大きい。だからこそ、神谷氏は基本構想を明確にした上で応募することを勧めるわけだ。

プログラム期間中に受けた充実したサポート

DEMO DAYでグランプリを取るまで、GINKANはピッチの練習にも力を入れた。自分たちの事業の良さは、自分たちが最もよく分かっているという自負はあるが、果たして、オーディエンスがその価値をきちんと理解してくれるかは別の話だ。神谷氏は、プログラム終了後に説明をして、相手に「わかりやすい」と言ってもらえるようになったのは、専属メンターの建設的なフィードバックのおかげと感謝する。

プログラムでは、参加企業それぞれに専任のメンターが付く。メンターは、キックオフ時に行われる最初のピッチでの相互評価で決まるので、それぞれに最適な相手と4カ月間を過ごすことができる格好だ。「毎週、メンターを含む関係者が僕たちのオフィスに来てくれて、定例ミーティングを実施しました。ミーティングでは、協業の進捗の振り返りや、様々な相談に乗ってもらいました」(神谷氏)。

この他に、ワークショップも多数開催される。「資金調達」をテーマとするワークショップは非常に参考になったと神谷氏は評する。さらに、希望すれば弁護士との法務の相談も可能だ。GINKANでは、CTOの三田大志氏と神谷氏の二人が受けた各種サポートを、全社員に周知するようにした。

GINKANは今後の計画として、実証実験の対象範囲を、三菱UFJニコスのカード会員まで拡大することを視野に入れ、同社との協業の検討を続けると同時に、MUFGグループの他の会社との連携の可能性も模索するという。これから始まる第5期への応募を検討しているスタートアップに向け、「僕たちは、自分たちの描くビジョンを実現させることに自信があり、採択に至ったと思います。まだビジネスの方向性が定まらない場合を除き、実現したいビジョンを明確に持っている会社にとっては、挑戦する価値があるプログラムです」と、挑戦するスタートアップにエールを送った。