IoT電池で高齢者問題に新たな解決策を
同社は乾電池にソケットを装着することで新たな付加価値を生み出す、コネクティッドバッテリー「MaBeee(マビー)」を手がける企業だ。コネクティッドバッテリーとは、各種IoTデバイスが必要とするバッテリーとワイヤレス通信をドッキングしたものだと同社はいう。デジタルトランスフォーメーションが進む社会で、様々なシーンで機能を発揮するものとして期待されている。
現在の「MaBeee」の具体的な用途としては、「トイコントロール」「高齢者のみまもり」「プログラム教育」という3種に分類される。もともとはおもちゃに装着する「トイコントロール」からスタートし、2016年夏にプラレールやミニ四駆をコントロールできる「MaBeeeトイコントロールモデル」をリリース。現在はこれからニーズの拡大が見込める「MaBeeeみまもり電池」を注力製品として展開している。直近の動きとしては「MaBeeeみまもり電池」のソフトバンクOEMモデルの生産がスタートするかたわら、教育用プログラミングツールであるScratchと連携する「MaBeeeプログラム教育モデル」がリリースされたばかりだ。
岡部氏は出版社、ゲームメーカー、時計メーカーを経験し、ノバルスを設立した。「乾電池」というアイテムに着目し、コネクティッドバッテリーを製造することになった背景には、前職での苦い経験があった。時計メーカーでスマートウォッチ事業を手がけた際、時代のニーズが顕在化する前だったため、事業化は難航した。その経験が原体験となり、「電池」という人々の生活にすでに広く浸透し、グローバル規模で今なお生産が拡大しているツールに目をつけたという。
さらに前職の時計メーカーで過ごした時間は、岡部氏とノバルスにとって別の意味も持つ。というのも、「MaBeee」の事業はもともと、時計メーカーや他企業の社員が集まって自主的に活動する「部活動」のような場所でスタートしたものだと岡部氏は語る。同氏はそこで試行錯誤を行ったのち、形にした試作機を手に一念発起し、独立したのだった。
アクセラレータプログラムに期待したのは事業を凝縮・アップデートすること
オリエンテーションで感じた「本気度」
同社がMUFG Digital アクセラレータの存在を知ったのは、事業拡大に課題を感じていたタイミングだった。PoCでの開発・商品化プロジェクトが完了を見ない形で繰り返しプロジェクトが進行していく状況で、本気で事業化するための方法とつながりを求めていた。そんなとき、オリエンテーションで聞いた「本気と本気は、響き合う。」という第4期のキーメッセージ。運営サイドからの「本気度」が伝わってくるその言葉に、ひきつけられた。
大変な4ヶ月間、そして、多くのことを学べた4ヶ月間
4ヶ月間の支援プログラム期間を振り返り、まず「本当に大変でした」と答えた岡部氏。明るい声色のまま、「ですが、多くのことを学べました」と言葉を続けた。プログラムの本気度にひかれてMUFG Digital アクセラレータに応募し、参加企業8社の一角となった同社は一体何を経験したのか。岡部氏に、充実した支援体制について聞いた。
同社を支援したのはMUFGメンターである三菱UFJ信託銀行とファシリテーターの三菱UFJ銀行・三菱総合研究所、プロメンターであるセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表(取材当時)の浅田慎二氏だった。プログラム参加企業が「贅沢」と口をそろえる支援体制は、同社にとっても非常に価値あるものだったという。同社の場合は、三菱UFJ信託銀行が中心となり全体的な支援を担い、三菱UFJ銀行が各種検証・ヒアリングをサポート、三菱総合研究所が俯瞰したあるいは専門領域に特化した情報を提供するという万全のバックアップ体制のもとプログラムが進行した。
最も印象に残っているのは浅田氏の個別メンタリング
事業会社所属のメンター陣とのコミュニケーションについて、「最も印象に残っていることはなにか」という質問を投げかけた。岡部氏は「毎回毎回が……」と4ヶ月間を振り返りながら、「なかでも浅田氏の個別メンタリング。目線が高い」とかみしめるように答えた。
具体的には、「MaBeee」の事業をどのように展開していくかを悩んでいた時、浅田氏から「プラットフォームより、アプリケーションからやるべき」という助言をもらったという。アプリケーションを開発した後でもプラットフォームを整備することができるということを、他社事例もまじえて明瞭に説明された。その内容がすっと腹落ちし、これから事業を成長させていくために何をすべきなのかが非常に明確になった。岡部氏は浅田氏からの言葉を思い返し、「正しい選択のためのアドバイスをもらった。感謝しかない」と回想した。
同社の場合、プロメンターである浅田氏と顔を合わせるのはおおむね月に1、2回だった。毎回覚悟して臨むことで、「毎週事業をアップデートしていく実感が得られる」と、岡部氏はプログラムに対する印象を語った。
製品版完成への足がかりとなった4ヶ月のプログラム
プログラムの具体的な成果としては、どうだったのか。岡部氏は「製品版完成とデータを活用するというフェーズへの発展」が最も大きな成果だという。アクセラレータプログラムに参加する前、同社のMaBeeeは「テスト販売用のものができている」という状態だった。これからいよいよ製品化していくという段階でのプログラム参加は、MaBeeeをどのように製品版にしていくのか、そしてその後どう進化・展開させていくのかを考える足がかりとなった。
結果として、同社はプログラム終了から半年後に「MaBeeeみまもり電池」の製品版をリリースした。さらにプログラムを通じて「視野が広がった」という岡部氏は、みまもり電池をTVリモコンに使用した際に、リモコンの操作データを取得できるモデルの開発中だ。TVリモコンのどのボタンを押したかがわかることで、使用者の認知機能の変化や生活状況をより詳細に把握できる。既存の「使った/使っていない」だけがわかるみまもり電池よりもさらにグレードアップし、用途が広がる未来が見えている。
このような同社の製品は、これから日本がむかえる超高齢社会にとって、将来欠かせないものになるだろう。その期待感は、第4期MUFG Digital アクセラレータ DEMO DAYにて、「Microsoft Award」、「DEJIMA賞」をはじめとした複数のパートナー賞を受賞したことにも表れている。
「MaBeee入ってる」といわれるような存在に
今後の事業計画について、岡部氏は「認知症の早期発見やトレーニングまで対応できるよう機能を充実させていく」と語る。まずは高齢な親をもつ社会人に対して、みまもり機能を持つアイテムとして展開し、ゆくゆくは家族に迷惑をかけたくないと感じる高齢者本人に対する提案も視野に入れている。限定的な用途の専用機器ではなく、すでに一般的に広く使われている様々な機器を用いて高齢者の状態を計測できるようにすることで、認知機能の変化を早期に察知し認知症の親を持つ家族の負担を軽減したいという。認知症の高齢者を家族に持つ人は、1日のうち3時間を介護やみまもりに費やすといわれている。「MaBeee」が広く世の中に浸透すれば、このような問題が解決・緩和するきっかけになるかもしれない。
また、ノバルス株式会社は今後の事業展開としてみまもりを含むエイジング領域での協業推進と、みまもり以外の用途での製品展開を進めていきたい考えだ。エイジング領域での協業推進としては、すでにソフトバンク、中部電力、SOMPOホールディングス、LIXILとの協業が決定している。また、エイジング以外の用途での展開については、日東工業(設備機器大手)との資本提携が発表されたばかりだ。アクセラレータプログラムの勢いそのままに、次の展開に向け、同社はすでに動き出している。
世界で年間560億個といわれる乾電池市場、さらには数千億個ともいわれる二次電池市場に、付加価値を生み出す可能性を持つノバルス株式会社のコネクティッドバッテリー。岡部氏は製品の将来像として、「(PCに『インテル入ってる』のように)IoT製品にMaBeee入ってる」といわれるような存在をめざしたいという。
第5期MUFG Digital アクセラレータ始動
2020年3月11日に第5期プログラムのエントリー受付がスタートした。応募締め切りは5月22日。4月に予定されていた第5期説明会は新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、中止となった。5月日程は5月11日(月)17:30開始予定だ。現在の状況では5月説明の日程変更も考えられるため、最新の公式情報を定期的に確認していただきたい。
対象事業領域や選考フローについても公式ページにて詳しく説明されている。また、5月の説明会よりも前により詳細な情報を得たいという場合は、公式の問い合わせフォームから質問することも可能だ。第5期はイレギュラーな進行が予想されるが、プログラムの熱量は変わらない。チャレンジを検討している企業はチャンスを逃さないでほしい。