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日本の創薬・再生医療を支援。MUFGメディカルファンドが描くライフサイエンス市場の未来

日本の創薬・再生医療を支援。MUFGメディカルファンドが描くライフサイエンス市場の未来

2020年6月、株式会社三菱UFJ銀行(以下、三菱UFJ銀行)と三菱UFJキャピタル株式会社(以下、三菱UFJキャピタル)は、創薬・再生医療などに取組むスタートアップの支援を主目的とする総額100億円の「MUFGメディカルファンド」を設立した。

今回は、MUFGメディカルファンドを運営する三菱UFJキャピタル ライフサイエンス部 部長 長谷川 宏之氏と企画部 次長 酒井 徹 氏に、ファンド設立の背景や今後の展望などについて話を伺った。

プロジェクト発足の経緯

ライフサイエンス分野への継続投資として新たに100億円のファンドを設立

—MUFGメディカルファンド立ち上げの背景について教えてください。

長谷川氏:当社は、2009年にライフサイエンス室(2017年からはライフサイエンス部)を発足して以降、ライフサイエンス分野において60社以上の投資実績があり、すでにそのうち6社の上場が実現しています。また、この分野の経験・知見が豊富なメンバーが揃っていますので、資金供給だけではなく、一部の投資先に対しては社外取締役として経営に参画するなど、経営面におけるさまざまな支援も行ってきました。

MUFGメディカルファンドは、当社の「三菱UFJライフサイエンスファンド」の運営実績をもとに、3号ファンドとして設立されました。2017年に立ち上がった三菱UFJライフサイエンスファンドは、すでに同分野における国内最大規模の専門ファンドに成長しています。今回のMUFGメディカルファンドは、特に新型コロナウイルス(以下、COVID-19)のワクチン・治療薬開発に取り組む企業を含む、創薬・創薬基盤・再生医療・医療機器などのライフサイエンス分野のスタートアップへの支援を目的としています。


(三菱UFJキャピタル ライフサイエンス部 部長 長谷川 宏之 氏)

注力事業について

創薬エコシステムの確立に向けて、アカデミア創薬とカーブアウトの双方に注力

—スタートアップ支援の上で、特に注目する分野について教えてください。

長谷川氏: MUFGメディカルファンドの関わり方としては、大学発のスタートアップである「アカデミア創薬」と、製薬会社から特定技術や疾患領域の切り出しを行う「カーブアウト」の双方に対して積極的に取り組んでいくことがポイントになると思います。

アカデミア創薬においては、大学の研究は多くの場合、基礎的な範囲にとどまっているのが実情です。大学には上市(製品やサービスを市場に出すこと)を実現できる人材や機能が不足しがちである他、特許取得、非臨床試験パッケージの提供、製造/CMC、開発戦略、医療ニーズなど、大学だけでは解決できない課題も多くあります。そこで、当社では資金提供に加えてアドバイザリー機能も提供しています。投資先ごとに領域が異なり、かつ非常に専門性が高い分野のため、投資前の検討段階だけでなく投資後の経営支援においても、適材適所のアドバイスが重要となります。

カーブアウトに関しては、製薬会社が抱える開発品や技術・チームが組織改編などで外部に出る機会が増え、そこに投資家による資金供給が行われ始めたことで、従来の自前主義に代わり外部との提携によって新薬の開発をめざすスタートアップが現れ始めています。欧米ではこのような製薬会社発のスタートアップは増加傾向にあり、米国では新薬の約6割がスタートアップ発とも言われています。しかし、日本では成功事例はまだ少ないのが実情です。厚生労働省発表のレポートでは、その原因として「カネ」と「ヒト」の不足や、国による「規制」に課題があると指摘されています。

当社では、日本で創薬エコシステムを円滑に構築していくために重要なこの「アカデミア創薬」と「カーブアウト」にこれまでもさまざまな支援を行ってきました。アカデミア創薬では、例えば埼玉大学発の株式会社Epsilon Molecular Engineering(埼玉県さいたま市)に対して、2019年に三菱UFJライフサイエンスファンドから投資を行いました。同社は2020年5月、北里大学・花王株式会社 安全性科学研究所の研究グループとの協業で、COVID-19に対して感染抑制能(中和能)を有するVHH抗体の取得に成功しました。またカーブアウトの投資事例としては、武田薬品工業株式会社に所属していた癌領域創薬研究のメンバーが創業したChordia Therapeutics株式会社(神奈川県藤沢市)があります。


(画像出典:概念図三菱UFJキャピタルウェブサイト)

今後の展望

COVID-19の逆境をチャンスに変える投資の強化

—今後の投資戦略やビジョンについて教えてください。

酒井氏:MUFGメディカルファンドでは、すでに複数の投資候補先の選定を済ませており、合わせて20~30社程度の投資を予定しています。今回は、銀行系VC特有の少額分散投資のイメージを打ち破る強気な投資も視野に入れています。

日本の大学における基礎研究のレベルは非常に高く、それを活かした事業化を進めていくことが日本のライフサイエンス分野への注目につながっていくと思います。COVID-19の世界的なパンデミックの拡大によりバイオ市場への期待が急激に高まり、開発競争の激化や遠隔医療での規制緩和など、今後の5年、10年で日本の医療体系は大きく変わっていくと思います。逆境こそがチャンスだと思うので、そういった環境変化の中で、自分たちの開発する薬や医療機器を世の中の役に立てたいという熱い想いを持つパートナーとの出会いを期待しています。


(三菱UFJキャピタル 企画部 次長 酒井 徹 氏)