事業内容について
場の提供にとどまらないイノベーションプラットフォームとして
—MUIC Kansaiの概要と誕生の経緯を教えてください。
楠田 MUIC Kansaiは観光をテーマにした会員制のイノベーション創出拠点で、2021年2月に設立されました。関西における観光産業の課題解決に資する活動を展開することを通して、関西経済の活性化と2025年大阪万博の成功に貢献することを目的にしています。運営主体はMUFGと三菱UFJ銀行が設立した一般社団法人関西イノベーションセンターで、会員として多くの企業・組織にご参画いただいております。従来のイノベーション拠点は、偶発的な出会いの場や自社のイノベーション創出の場として提供されることが多かったと思います。しかしMUIC Kansaiは単なる場所ではなく、解決すべき社会課題の発掘とソリューションの実証実験、さらには社会実装まで一貫して行うプラットフォームであり、マッチングにとどまらず企業や組織の垣根を越えた共創によるイノベーションを創出するというところに大きな特徴があります。
(MUIC Kansaiマネージャー 楠田 武大)
林 コロナ禍もそのひとつですが、めまぐるしく社会が変化する中で、次々と新たな社会課題が浮かび上がっています。銀行としても、従来の預貯金や貸し出しというビジネスにとどまらず、社会課題解決に資する新規事業創出に積極的に関わっていこうと考えてたち上げたのがMUIC Kansaiです。
楠田 MUFGはスタートアップ事業を軌道に乗せるための支援やさまざまなマッチング機会の提供から、新たな成長産業を発掘してIPOへとつなげていくところまでさまざまなミッションを持っています。MUIC Kansaiでは、単なるアドバイスやマッチングではなく、実証実験を行って事業を形にしていくところまでを共に担うという点が、これまでの支援とは大きく異なる点だと思っています。
取り組みと成果
2025年大阪万博を視野に関西における新たな観光ビジネスの創出をめざす
—これまでどのような活動をしてきたのですか。
林 まず活動のフィールドとなる産業分野を絞ることから始めました。分野を限定すれば共通の課題を見つけやすく、同じ課題意識を持っている人も集まりやすくなります。その中で有望な候補として浮かび上がってきたのが観光でした。観光事業は政府も重点分野として力を入れており、コロナ禍で停滞しているとはいえインバウンドの拡大基調は変わりません。さらに関西圏は世界遺産も多く、2025年の大阪万博、IRの誘致・開設、うめきた2期地区開発プロジェクトなど観光の起爆剤となるイベントも数多く控えています。また観光産業は裾野が広く、移動や宿泊、飲食、物販などへの波及力も大きい。こうしたことから関西地区における観光振興をテーマに据えました。その上で有識者や、新しい技術やサービスを持ったスタートアップ、観光関連企業にヒアリングをしながら、課題は何か、解決のために必要なものは何かということについて会員企業との間で議論を深めています。すでに40件ほどのプロジェクトを具体的に検討し、うち10件超は実証実験として具体的に取り組み始めており、事業としてリリースしているものもあります。
—リモート観光もそのひとつですね。
楠田 はい。リモート観光は当初コロナ禍で観光を楽しめないことからマス向けのコンテンツとして実証を行いましたが、アンケートなどを通じて行動制限が明けた場合にはリアル観光にシフトし、オンラインツアーにお金を払ってまで参加する人は多くないということがわかりました。逆に“観光に行きたくても行けない(または多くの負担がかかる)”方々には継続して一定のニーズがあることもわかり、高齢者の方々向け事業としてピボットしました。このリモート観光を皮切りに、実績を一つひとつ積み重ねながら、MUIC Kansaiを活用することで何ができるのかということを具体的に示していきたいと思っています。
林 MUIC Kansaiで実装した事業が、関西に限らず全国に広がる取り組みにできればいいと思いますし、サステナブルツーリズムといった周辺の領域に波及させていける取り組みもありそうです。また、中期的にはプロジェクト同士を連携させていくということも考えられます。万博の来場者に使ってもらうサービスがMUIC Kansai起点で実現できればおもしろいと思いますね。
(MUIC Kansaiマネージャー 林 勇太)
今後の展望
地域の課題解決を“当事者”に近い位置で担っていく
—これからの展望を聞かせてください。
楠田 “マッチングして、あとはお任せします”ではなく、“事業化までハンズオンでしっかり関与していく”というところがMUIC Kansaiの特徴です。それを活かして、社会課題の解決につながる新規事業をどんどんつくっていきたいですね。関心はあるが実際にうまくいくかどうかわからない、この技術を使ってみたいが社内で新しく始めるにはハードルが高いといった場合に、MUIC Kansaiというプラットフォームを活用していただいて、KPIとしてここまで達成できれば次のフェーズに進むというプロセス設定をした上で、各フェーズにおけるKPIの達成をめざしつつ形にしていく。その延長線上に事業化があると思います。
林 私たちはバジェットを持っています。実証実験に予算を付けるのは、単に“お金は出します。あとはよろしく”ということではなくて、事業化のプロセスに“当事者”というとおこがましいかもしれませんが、それに近い立ち位置で携わっているということです。それによって私たち自身も、より事業化のプロセスを深く知ることができ、スタートアップとのお付き合いも従来以上に踏み込んだものになり、成長プロセスに深く関わることもできます。会員の大手企業とも、銀行では普段接点が多くない事業部署や新規事業担当部署の方々とのネットワークをつくることもできる。ぜひこうした環境を活かしてイノベーションの創出につなげていきたいと思っています。
楠田 今までMUFGが新規事業をやるとなれば、当然最終的にMUFGにどのようなベネフィットがあるかが重視されていました。しかし、MUIC Kansaiがより大切にしているのは観光産業や地域であり、会員企業の事業であり、ひいては日本社会です。MUFGを主語にしないというのは、今までのMUFGの取り組みとは大きく違うところです。
林 私たちは観光産業のメインプレーヤーではなくて、外から入ってきた存在です。しかし、その立ち位置にこそ意味があると思っています。今までメインプレーヤーが考えてきたけれども実際にはマネタイズの問題や、1社単独であることなどから事業として成り立たなかったということがある。そのときにMUIC Kansaiがハブになることで大企業やスタートアップ、自治体など、いろいろな人たちをつなげ、その結果として新たにつくり出せる事業があると考えています。
楠田 新しい事業を生み出す触媒としてMUIC Kansaiのような存在があるというのは、社会的にも大きな意味のあることだと思いますね。