協業の経緯
便利さや利得、堅固なセキュリティを実現するアライアンス
—プロジェクトはどのようにして始まったのでしょうか。
雨宮:スタートは 2020年頃です。当時私たちは銀行として持っている金融機能を事業会社のニーズに基づいて提供していくというBaaS戦略を具体的に展開しようとしていました。そのとき、ドコモ社が銀行口座の提供を含めた金融サービスの強化を検討されていると伺って、お手伝いできることがあるのではないかと思いました。
山田氏:当社ではドコモユーザーに銀行口座というサービスの提供ができていないことに課題感を持っており社内で議論を重ねていました。端的に言えば、自社で銀行業を始めるかどうかです。実際、競合会社では銀行を持たれているところも少なくありません。しかし銀行業務を始めるためにはシステム面、業務面で大規模な投資が必要です。三菱UFJ銀行からBaaSの話をいただいたときに、これを活用すればドコモのオリジナリティのある銀行口座をつくりつつライトな形でサービス提供が始められるのではないかと思いました。私たちが必要としていたのはお客さまのためのデジタル銀行口座であり、銀行業そのものを営むことではありません。協業が最善の選択だと思いました。
雨宮:ドコモ社は全国に8,300万人もの契約者を持っています。そのお客さまに新たに当行の口座をご案内し、金融サービスをお客さまに身近な生活シーンの中でお届けできることは私たちにとっても大きな価値があることだと思いました。
(株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー ウォレットサービス部 柏原 一貴氏)
協業の主な内容と成果
「ドコモ経済圏」に初のデジタル銀行口座が誕生
—新しく生まれたdスマートバンクとはどのようなものですか。
柏原氏:ドコモが提供する専用アプリと三菱UFJ銀行の預金口座の二つで構成される金融サービスです。お客さまは専用アプリを通じて簡単に三菱UFJ銀行の口座を開設でき、すでに口座をお持ちであれば、専用アプリを「dアカウント」とひも付けるだけで、その口座番号のまますぐに利用することができます。提供するサービスの特長は「利便性」「利得性」「安心・安全」の三つです。利便性については、アプリから口座残高や入出金明細の確認ができるのはもちろん、口座残高を生活資金用途の「おサイフ」と貯蓄用途の「貯金箱」に分けて管理することで手軽に貯蓄を始めたり、ドコモ独自の資産運用サービスと連携する「はたらく貯金箱」にお金を移して資産形成にトライすることもできます。利得性としては、口座利用によってdポイントがたまり、各種手数料が優遇されます。さらに安心・安全については、両社のシステム開発やサービス運用の厳しい基準を厳格に適用することで不正利用や金融犯罪を防ぐセキュアな環境を実現しました。
中賀:利便性のところでは、私たちが持っている機能をそのまま提供するだけではユーザーからみたときの使いやすさは実現しません。申し込みの段階でどういう機能があればスムーズに実際の利用に至るのか、銀行として持っている機能をいくつか切り出し、それらをうまくつなげていくことで、何回も認証を重ねることなく新規口座開設や、お持ちの口座を活用していただけるように工夫しました。
—プロジェクトとしては規模も大きく、苦労された点もあったのではないでしょうか。
山田氏:当然、ドコモとしてつくりたいと考えているアプリの世界観があります。特に今回は金融サービスに親しみの薄い若年層を意識しています。汎用的なBaaSの機能を連携させるときに、その世界観のもとで違和感なくつくり上げていくというところには難しさもありました。少なくとも同じ赤色の会社なので色味は苦労しませんでしたが(笑)、一方に三菱UFJ銀行が提供してくれるBaaSのコンセプトがあり、他方それを利用するドコモとしても打ち出したいテイストがあります。それを丁寧にすり合わせていくことが必要でした。また、三菱UFJ銀行のBaaSを導入する初めてのケースでもあったので、ルールづくりや業務運用面の細かい調整をさせていただいたところもあります。
(株式会社NTTドコモ スマートライフカンパニー ウォレットサービス部 山田 世雲氏)
中賀:両社の開発スタイルも違いました。今回ドコモ社はアジャイルという開発手法を選択されました。その都度エラーを修正し、取り込んで先に進めていく。一方で私たちは、ある程度目標を決め込んで線を引いて、それに向けて一つひとつ潰し込んでいくウォーターフォールという開発スタイルです。
山田氏:確かにアジャイル開発では柔軟性を重んじて、どんどんスプリントでつくっていってしまう。直前になるまででき上がるものが決まらないということもあります。
中賀:ドコモ社のスケジュールでは先まで決まらないものが、私たちの感覚では「今この要件を詰めないままで大丈夫ですか」と不安になるんです。最初はその違いに戸惑いました。
しかしプロジェクトが進んでお互いのスタイルがわかってくると、今はこういうサポートをするといいんだなという気づきがありました。
山田氏:今回のプロジェクトでは、銀行口座ならではのセキュリティの担保が非常に重要で、この点はドコモにとって新しいチャレンジであり、他方、これまでの仕組みをBaaS化するという点では三菱UFJ銀行にとっての新しい取り組みだったと思います。両社ともに新たなチャレンジがあり、得られたものも大きかったと思います。
柏原氏:しかもこのプロジェクトはコロナ禍で対面の打ち合わせができない時期にぴったり重なっているんです。大きなプロジェクトでありながら、ほぼリモートで完遂できたのは画期的だったと思います。
(写真左から 三菱UFJ銀行デジタルサービス推進部 企画Gr 中賀 優、同じく 雨宮 正尚)
協業の今後の展望
バンキングアプリとしてさらに魅力を高めていく
—今後は協業をどのように進めていきますか。
雨宮:今回のプロジェクトは直接的な関係者だけで両社で100名を超えるという大型の取り組みでした。業務提携時に設定した2022年12月という当初のゴールを守ってローンチできたことは、お互いにとって大きな財産になったと思います。今後もドコモ社の世界観の中における金融サービスの拡充に向けて機能強化やほかの金融機能との連携を進め、dスマートバンクの利用者を全国に拡大したいと思っています。
山田氏:これだけ規模の大きなアライアンスで、当初の予定通りサービス提供が始められたことは大きな意義があると思います。ただしプロダクトはまだ発展途上です。「ドコモのユーザーだったら圧倒的にこれだ」というものを、プロダクトベースで継続的につくっていかなくてはいけないと思っています。もう一つ、これからのチャレンジだなと思っているのは、ドコモならではのバンキングアプリとして貯蓄・資産形成の支援の機能を強化していくことです。そこをしっかり磨き上げて、銀行とは違った切り口のプロダクトをつくって、三菱UFJ銀行のアプリも使いながら私たちのアプリも使うという両方のアプローチができるようになるとおもしろいと思っています。それが今回のBaaS活用の本質でもあり、一つのサービスが両方の顧客接点をつくり上げていくところがこのプロジェクトの大きなポイントではないかと思っています。
(dスマートバンクプロジェクトメンバー)