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スタートアップと共に、金融サービスの変革に挑戦し続ける ―― MUIP Innovation Day 2026 レポート

スタートアップと共に、金融サービスの変革に挑戦し続ける
―― MUIP Innovation Day 2026 レポート

2026年3月4日、大手町三井ホールにおいて「MUIP Innovation Day 2026」が開催された。イベントを主催したのは、MUFGのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)である三菱UFJイノベーション・パートナーズ(以下、MUIP)。MUFGのオープンイノベーション戦略を担い、国内外のスタートアップとMUFG各社の協業推進と、スタートアップへの戦略出資を目的に活動している。現在、グローバルファンド3本と東南アジアファンド合計で約800億円の預かり資産残高を有し、出資先は国内外約60社に上る。
本記事では、開催3回目を迎えたMUIP Innovation Day 2026の全容に迫る。

関連リンク
各セッションの詳細記事はMUIPウェブサイト内、「Insight」に順次掲載
Insight
MUIP Innovation Day 2023開催

イノベーションの原動力としての、MUIPの挑戦

支援先スタートアップと、MUFGのオープンイノベーション推進をめざす

三菱UFJイノベーション・パートナーズ 代表取締役社長 鈴木 伸武
(三菱UFJイノベーション・パートナーズ 代表取締役社長 鈴木 伸武)

本イベントの開催は、単なるスタートアップの技術紹介に留まらない。MUFGとスタートアップの協業を強力に推進し、共に金融サービスの変革に挑戦することこそがその真髄である。
今年は「生成AI × 金融 × グローバル」をテーマに、国内外の第一線で活躍するプレイヤーが集結した。オフライン限定で、さらにMUFGグループ社員およびMUIPの支援先スタートアップに限定した開催形式にこだわった本イベントでは、ここでしか聞けない本質的な議論を求める参加者の熱気に包まれた。

生成AI × デジタル証券 × ステーブルコイン。
国内外のトッププレイヤーが語る、次世代金融インフラの「実装」

AIはバブルではない
――Transformer共同考案者が語る、AIの真価と次なるブレイクスルー

SakanaAI株式会社 Co-founder 兼 CTO Llion Jones氏
(SakanaAI株式会社 Co-founder 兼 CTO Llion Jones氏)

冒頭の基調セッションには、Sakana AI株式会社のCo-founder 兼 CTOであり、Transformerの共同考案者であるLlion Jones氏が登壇した。
Llion氏は、現在のAIブームについて、決して実体のない「バブル」ではないと話した。その根拠は、凄まじいまでの開発の加速度にある。わずか1年前には数ヵ月を要した開発が、今や週末の短時間でプロトタイプを製作できるほどに進化しているのだ。

一方でLlion氏は、現在のAIが抱えるデータ効率や汎化能力の限界についても率直に指摘した。AIへの関心が高まり大きな資金が流入するなかで今は加速しているイノベーションだが、いずれ頭打ちになる可能性もあるという。同氏は、計画に縛られない自由な研究開発環境こそが次なるブレイクスルーの源泉であり、それが長期的には金融機関にも価値をもたらすはずだと述べた。

AIエージェントとの協働が「当たり前」になる日。
Relcuが描く金融コミュニケーションの未来

左から:MUIP Deputy CIO Mayank Shiromani、 Relcu, Inc. CEO Abhijat Thakur氏、 Commerce Ventures, LLC Founder & General Partner Dan Rosen氏とPartner Ysbrant Marcelis氏
(左から:MUIP Deputy CIO Mayank Shiromani、 Relcu, Inc.
CEO Abhijat Thakur氏、 Commerce Ventures, LLC Founder &
General Partner
Dan Rosen氏とPartner Ysbrant Marcelis氏)

第2セッションでは、金融とAIが融合する実装最前線の姿が描かれた。フィンテック専門VC、Commerce Ventures, LLCのDan Rosen氏は、ゼロからAI前提で構築される「AIネイティブな次世代金融機関」の台頭を予見した。
その具体的な実装例を示したのが、Relcu, Inc.のCEO Abhijat Thakur氏によるライブデモである。披露されたAIエージェントは、顧客対応から最適なアクションの提案までをリアルタイムで実行し、精度はすでにシニアオペレーターに匹敵する段階にある。「AIに仕事を奪われることはないが、AIを使いこなす人には奪われる」――Llion氏が引用した言葉を裏付けるように、AIを高度なパートナーとして活用する時代の到来が示された。

グローバル決済のインフラは、ステーブルコインでどう書き換えられるか。
USDCとデジタル証券が拓く新境地

AlpacaDB, Inc. Co-founder&CPO 原田 均氏
(AlpacaDB, Inc. Co-founder&CPO 原田 均氏)

最終セッションでは、「金融 × ブロックチェーン」をキーワードに、インフラの再定義が議論された。AlpacaDB, Inc.の原田均氏は、米国でユニコーン企業へと成長した自社の軌跡を踏まえ、少額取引やリアルタイム性に強みを持つデジタル証券の潜在力を説いた。米国株のトークン化証券について、Alpacaが発行体向けのカストディアンとしてかなりのシェアを獲得しており、トークン化証券の流動性を高めるインフラも提供している。
トークン化の利点として、少額投資や24時間取引以上に、国境を超えた取引やさまざまな資産アセットをオンチェーンという一つのインフラで取引できるようになるという点があげられる。UAEでの不動産トークン化やトルコでの小切手トークン化など、世界各地で進む社会実装の事例は、ブロックチェーンがもはや実験の域を超えていることを物語っている。
また、米ドル連動型ステーブルコイン「USDC」を発行するCircle Internet Financial, Inc.の榊原健太氏は、同通貨が185カ国で利用されるグローバル決済インフラへと進化したことを報告した。特に注目を集めたのは、「AIエージェントとステーブルコインの融合」である。AI同士が自律的に話し合って取引を実行し、ステーブルコインで即時に決済を完了させる。そんなSFのような世界観を、彼らはすでにハッカソンを通じて現実のものにしようとしている。

AIと共に歩み、スタートアップに選ばれ続ける組織へ

MUFGグループCEO亀澤 宏規
(MUFGグループCEO亀澤 宏規)

閉会の挨拶に立ったMUFGグループCEOの亀澤宏規は、AIを全員の底上げをする「イコライザー」の側面もあるが、AIの本質は使いこなす者とそうでない者の差を広げる「ディバイダー」にあると述べた。
MUFGはAIを単なるツールではなく、特定の役割を担う「ロール」として組織に取り込み、「AIネイティブ企業」へと変貌を遂げる決意を表明した。「我々はスタートアップの皆さまに選んでいただかなければならない立場にいる」という謙虚かつ力強いメッセージは、MUFGグループとMUIPが、イノベーションと真正面から向き合い続ける覚悟を改めて示すものであった。
セッション終了後の懇親会では、支援先スタートアップ7社のブース出展に加えて、三菱UFJ銀行のAI・データ推進グループもブースを出展した。独自に開発した「バーチャルAI次長」のデモなどを通じ、参加者とスタートアップが垣根を超えて語り合う姿が見られた。

MUIPはこれからも、スタートアップと共に、金融サービスの未来を切り拓く挑戦を続けていく。