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「プログラムを徹底的に使い倒せ!」経験豊富なベンチャーキャピタリストが語る、MUFG主催アクセラレータプログラム

(写真左)ベンチャーキャピタリストであるアーキタイプ株式会社の中嶋淳氏。MUFG Digital アクセラレータプログラムには第1期からメンターとして参加している。
(右)同じく第1期からメンターとして参加している電通ベンチャーズの笹本康太郎氏。電通ベンチャーズとしての強み・独自性をフルに活かしたメンタリングを行なっている。

「プログラムを徹底的に使い倒せ!」経験豊富なベンチャーキャピタリストが語る、MUFG主催アクセラレータプログラム

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)が開催する、MUFG Digital アクセラレータプログラム。2018年度には第3期を迎えるとともに対象事業領域を広げ、過去2回の開催を超える盛況ぶりが期待されている。そして、このプログラムの盛り上がりに欠かせないのが、参加企業を支援するメンター陣の存在だ。各メンターが、自らの強み・独自性をフルに活かしメンタリングを行なっている。

そこで、今回はそのメンター陣のインタビューをお届けする。登場していただくのは、アーキタイプ株式会社(以下、アーキタイプ)・中嶋惇氏と電通ベンチャーズ・笹本康太郎氏だ。お二人がどのようなメンタリングを行なっているか、そして今後のプログラムに対する期待、どのような企業に参加してほしいのかなど、話をお聞きした。まずは、中嶋氏のインタビューからお届けしよう。

一貫してB2BのIT系スタートアップの支援を行う、
アーキタイプ・中嶋氏の投資方針

アクセラレータプログラムの話を進める前に、中嶋淳氏本人についてまずは紹介しよう。中嶋氏は大学卒業後、株式会社電通に入社。外資系企業を含む多数の企業や長野オリンピック招致などのプロジェクトを担当。「先進的な取り組みを進めたい」というクライアントの要望に応えるため、90年代のインターネット黎明期からインターネットに携わり、IT企業の動向を注視してきた。その後、投資会社を経て、2006年スタートアップ企業への投資育成を行うインキュベーターアーキタイプ株式会社を設立。2013年には新たにVCを設立してベンチャーキャピタリストとなる。現在はその豊富な経験と知見、国内外のネットワークを活かしてスタートアップの支援にあたっている。

アーキタイプ株式会社の投資スタイルを示す、一つの事例がある。それは株式会社HACOBU(読み:ハコブ)が手がける、物流の効率化を図る「MOVO」というサービスへの支援だ。MOVOは、IoTによってトラックの位置情報を取得して、その情報をクラウドで管理する。荷主はその情報を見て、運送をより効率的に依頼することができるという仕組みである。中嶋氏は「中小の物流業者がこのサービスを利用することで、荷主となる企業とのマッチングを容易にして、トラックの積載率が改善するようになっている」と語る。アーキタイプは、支援企業の価値向上にこだわるのはもちろん、その周辺プレイヤーなども巻き込んでコラボレーションを起こし、ITによって生産性の向上を実現している。

アーキタイプは、一貫してインターネット分野におけるB2B(Business to Business)、もしくはB2B2C(Business to Business to Consumer)のスタートアップ企業を支援している。
その理由を中嶋氏は、「現在の会社を設立したとき、ユーザー同士がつながるB2C(Business to to Consumer)サービスへの投資はすでに行われていましたが、私にとっては、当時の時流から取り残されていたB2Bドメインへの投資のほうが急務に思えました。」また、「創業以来、大企業とスタートアップ企業との連携を主軸にしていたので、B2Bドメインのスタートアップの方が親和性が高かったこともあります。」とした。そして「ここ数年はAI分野への投資が増え、ポートフォリオのバランスも良くなってきたように思います」と語っている。

中嶋氏流アクセラレータプログラムのメンタリングは
「スタートアップが持つ強み・リソースをどのように活かすか」がカギ

前述したような経歴を持つ中嶋氏は、MUFG Digital アクセラレータプログラムでメンタリングするときに気を付けていることがある。それは、起業家のやり方を尊重するアドバイスをすることだそうだ。「アクセラレータプログラムにおいては、私はあくまでメンターです。戦略レベルの話は固まっている場合が多く、そこをひっくり返したり考えを押し付けたりのではなく、若いスタートアップの経営者が、戦術レベルでどうしたらリソース・強みを活かせるか、企業戦略が実現できるかを彼らの目線でメンタリングするようにしています」と話す。

的確なメンタリングができるよう、最先端のテクノロジー、ビジネスドメインなどの情報だけでなく、プロダクト/都市デザインなど多様な分野から発想を得るようにしているという。

「新しいサービスが成功するかどうかは、タイミングの問題もあります。そのタイミングがいつなのか、過去のIT業界のトレンドを追うだけでなく、他業界のベストプラクティスや失敗事例も参考にしながら判断するようにしています」と語る。


メンターとして、「戦術レベルでどうしたらリソース・強みを活かして、企業戦略が実現できるかメンタリングするようにしています」と語る中嶋氏。

オープンイノベーションを実現したい大企業が、
アクセラレータプログラムを成功させる条件も冷静に分析

現在、さまざまな企業で開催されているアクセラレータプログラム。中嶋氏はメンターとして、大企業が開催するアクセラレータプログラムが成功する2つの条件もあげる。一つは、大企業とスタートアップが対等な立場でパートナーシップを組むことだという。

大企業が、スタートアップをただの業者や下請けと見なすようになると、対等な関係が築けず、Win-Win になることが難しい。そのため、「スタートアップ的な仕事の仕方、考え方を、大企業で今後中核を担ってゆく若い人にインストールできればいい」と中嶋氏は話す。

そしてもう一つが、開催する企業側のアクセラレータプログラムへのコミットだ。
「新規事業を成功させたい」、「オープンイノベーションを実現したい」ならば、自社のリソースをどこまで提供するのか。また、アクセラレータプログラムの成果を、経営層にどのようにアピールするかも重要なポイントだという。さらに、プログラムに参加するメンター陣の充実度も重要だ。そこにも、企業側のコミットが表れると話す。

プログラムについて中嶋氏は、「今の大企業は、すぐに成果を求めたがります。だからアクセラレータプログラムも、2、3期と続ける企業が少ないのが現状です。でも、すぐに成果が出たら、世界中の新規事業コンサルがいらなくなります。今は成果がなくても、5年後に何か起こるかもしれないという期待や感覚を持ってやれるかどうかが重要だと思います」と説明する。

さらに中嶋氏は、大企業側でアクセラレータプログラムに関わるであろう、オープンイノベーションを担う中核人材について「できるなら、外の世界を知っている人が望ましいと思います。中途入社者や一度退職した再入社、出向経験者なども適任かもしれませんね」と指摘した。

MUFGアクセラレータプログラムの次のステージとは

最後に、中嶋氏にMUFG Digital アクセラレータプログラムに対する要望を聞いた。
「現在は、MUFG内にとどまっていますが、これを三菱グループ全体に広げて、金融機関以外の企業とも連携が図られるようになってほしいですね」。

そして本プログラムがメンター陣の充実度や企業側のコミットなど、日本でも有数のものだとした上で、次のように続けた。「1社に対して、メンター陣が数名以上付くなんていう状況はそうそうあるものではありません。また、MUFGグループと連携を図れるようになれるのも、MUFG Digital アクセラレータプログラムに参加したスタートアップ企業にとっては大きなメリットです。ただ、『三菱』というさらに大きなグループ全体に視野を広げれば、金融機関以外にもさまざまな業種の企業があります。今後、そういった企業とのコラボレーションが起こるようなアクセラレータプログラムになれば、さらに面白いのではないでしょうか」

中嶋氏もメンター陣として加わる第3期MUFG Digital アクセラレータプログラム。回を重ねるごとにプログラムは進化しているが、それを支えるメンター陣も、より具体的なメンタリングをするために支援の方法を探っていることが、中嶋氏のインタビューからうかがえた。

一方で、コーポレートベンチャーキャピタルというバックグランドを持ち、その視点からメンタリングを行うメンターもいる。それが、電通ベンチャーズ・笹本康太郎氏だ。

「マーケティング」「コミュニケーションデザイン」
電通グループが持つ強みでスタートアップを支援

電通ベンチャーズは、2015年4月に設立。電通グループのリソースを活かし、スタートアップを支援するハンズオン型のCVC(Corporate Venture Capital、コーポレートベンチャーキャピタル)だ。これまでVR/AR領域やヘルステック分野をはじめ、さまざまなIT企業へ投資を実施。フィンテックや電通グループとのシナジーが期待される新興メディア企業等にも注目しながら、オープンイノベーションを推進している。

電通ベンチャーズの特色は、どのようなところにあるのだろうか。それを笹本康太郎氏は、「電通グループが培ってきたマーケティングサービスや、一般消費者に対するコミュニケーションデザインを考えて支援できることです。また、電通グループと取引がある多くの業界や企業とのマッチング及び協業推進を深くサポートできることも強みの一つです」と語る。

電通ベンチャーズの投資案件には、大きな特徴がある。それは、投資先のほとんどがアメリカのスタートアップだということだ。電通本体の売上の半分以上が海外になっているなか、日本の企業には基本的に投資しない方針なのだろうか。笹本氏にお聞きしたところ、その点は否定し、次のように語った。

アメリカと歴然とした差がある
「日本のスタートアップを取り巻くエコシステム」

「基本的に、国内外問わずフラットな目で見ています。ただ、VC投資を通じて新しいテクノロジーやビジネスモデルを開発する、という目的に照らすと、結果としてスタートアップの層が厚いアメリカへの投資というのが効果・効率面で勝り、投資が集中してしまうのです」

スタートアップの層の厚さが違う。この原因について、笹本氏は以下のように説明する。

「アメリカと日本では、スタートアップを支えるエコシステムに大きな違いがあります。スタートアップを支えるベンチャーキャピタル(Venture Capital)の充実度、そのベンチャーキャピタルに投資する機関投資家の存在、失敗しても再チャレンジができる文化、M&Aを行いエグジット先となる大企業の存在など、アメリカはスタートアップを支えるエコシステムが優れています」

その中でも、笹本氏が特に大きな違いとしてあげたのは、「積極的にM&Aをする大企業」の存在だ。「アメリカでは、スタートアップのエグジットとして、ビジネスを大企業へ売却するという選択肢が一般的になっています。しかし、徐々に増えてきているとはいえ、日本にはその文化はまだ根付いていません。そのため、スタートアップが取りうる戦略オプションが限定され、大企業も含めたエコシステム全体での機動的かつ最適なリソース配分が実現しにくい状況です。」

そして、笹本氏はその結果として「日本とアメリカでは、スタートアップの層の厚さに歴然とした差が生まれてしまうのです」と指摘する。しかしだからこそ、「その課題を解決するために、大企業のコーポレートベンチャーキャピタルができることがあると思いますし、MUFGのような大企業が行うアクセラレータプログラムは貴重です」と言葉を継いだ。


日本とアメリカでは、スタートアップの層の厚さに歴然とした差があると指摘する笹本氏。
しかし、その課題を解決するためにも、MUFGのような大企業が行うアクセラレータプログラムは貴重だと語る。

「“質”の向上を」笹本氏が望むアクセラレータプログラムのあり方

笹本氏は、本プログラムのメンター陣の一人であるアーキタイプ株式会社の中嶋淳氏からの紹介で、第1期からメンターとして関わっている。参加企業にアドバイスを送るとき、どのようなことに気を付けているのだろうか。

「どうすれば電通ベンチャーズならではのユニークな貢献ができるかを考えています。MUFGのメンター陣はすごい方が揃っていて、横で聞いていて勉強になる内容もあります。その中でもマーケティングの部分など、電通ベンチャーズとして独自性のあるアドバイスをするように心がけています」

特に笹本氏が意識していることが、「エンドユーザー視点」に基づいたアドバイスだ。「エンドユーザーがどのように製品を使って、それを通じてどのような体験をするか。この視点を持ち、それに基づいたアドバイスができるのは、電通ならではの独自性だと考えています」

一方で笹本氏は、現在さまざまな企業で開催されているアクセラレータプログラムに対して、こんな思いを抱いているという。「アクセラレータプログラムを、単なるPRの材料に留めるのはもったいないと思います。主催者がきちんとアセットを提供し、プログラムが終了してからのフォローアップもしっかり行うことで、より本質的な価値創造ができるはずです。アクセラレータプログラム自体、今後は“質”の向上が求められてくるのではないでしょうか」

「大企業のリソース、メンター陣を使い倒す」
笹本氏が期待する野心的スタートアップの参加

第3期MUFG Digital アクセラレータプログラムでは、対象事業領域がフィンテックだけでなく、不動産テック、ロボティクス、デジタルマーケティングなどにも広げられ、次のステージに向かおうとしている。

第1期から見てきた笹本氏に、MUFG Digital アクセラレータプログラムに今後期待することをうかがった。「スタートアップやメンター同士の横のつながりをより強化するような仕組みがあるといいですね。あとは長期的にアセットをどこまで提供できるかがカギになるのではないでしょうか。プログラムそのものはとてもよくできたものだと思います」

笹本氏も大きな期待を寄せる本プログラム。最後に、今後どのような企業に参加してほしいか聞いてみた。「とにかく野心的なスタートアップに参加してほしいですね。大企業や、アクセラレータプログラムに関わるメンター陣のリソースを徹底的に使い倒す!それくらいの野心を持ってチャレンジしてほしいです」

インタビューに同席したMUFGの藤井達人氏も「野心的な人、ウェルカムです」と同意する。MUFGのリソースを徹底的に使う、そんな野望を持ったスタートアップの経営者はプログラムに挑戦するべきだろう。そして、中嶋氏、笹本氏の両名を含むメンター陣とともに、ビジネスを加速してほしい。

第3期を迎えるMUFG Digital アクセラレータプログラムの申し込みは、2018年1月14日までプログラム公式Webサイトで募集中だ。

プログラム公式Webサイト:
https://www.mufg.jp/profile/strategy/dx/accelerator/