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ブロックチェーンで貿易金融取引を刷新する「komgo」、その導入の背景とビジョン

ブロックチェーンで貿易金融取引を刷新する「komgo」、その導入の背景とビジョン

2019年12月、株式会社三菱UFJ銀行(以下、三菱UFJ銀行)は行内初のブロックチェーン実装案件として「komgo」を導入した。komgoは、三菱UFJ銀行を含む海外の大手金融機関、石油メジャー、コモディティ商社など、15社の株主によって2018年8月に設立されたKomGo SA(以下、Komgo社)が開発した貿易金融プラットフォームで、現時点ではコモディティファイナンス(石油、鉱物、穀物等のコモディティの商流に関連する短期のファイナンス、外為取引など)に特化して取引のデジタル化に貢献している。今回はKomgo社への出資及び協業の背景について、三菱UFJ銀行 ロンドン支店 欧州投資銀行部 貿易金融グループ 調査役の宮原 幸作氏に話を伺った。

KomGo SA

設立:2018年
本社所在地:スイス ジュネーブ
事業内容:デジタル貿易事業
コモディティファイナンスを軸とした、デジタル貿易プラットフォームを提供。
https://www.komgo.io/

協業の経緯

貿易金融の主要プレイヤーが集結し、複雑な貿易取引の課題解決に挑む

—Komgo社への出資及び協業の背景について教えてください。

宮原氏:これまで貿易取引においては、取引の透明性の確保や不正リスクの回避、そして事務処理の負荷軽減が大きな課題となってきました。一説によると、1回のコモディティの輸出入取引に際し、36の原本書類、240ものPDF書類が、27にも及ぶ関係者の間を行き来すると言われています。関係者も多岐にわたり、輸出入者のほか、輸出入者双方の金融機関、運送業者、保険会社などが関わる複雑な業務フローの中で、信用状、船荷証券、インボイスなど多くの書類のやり取りが必要となります。その中で発生する書類の突合・確認作業や、郵送による紙書類の授受は、貿易取引が長期化する要因のひとつとなっています。

貿易取引におけるデジタル化の取り組みは、以前からPoCを中心に行われていたものの、貿易実務における規則や慣習が国ごと、業界や企業ごとに異なるため、データ連携やルールの統一が難しく、実用化・商業化に至らないケースがほとんどでした。

こうした長年の課題の解決をめざして設立されたのがKomgo社です。2017年にABNアムロ銀行、コモディティ商社のマキュリアなどが中心となって、貿易金融のデジタライゼーションに関するPoCがスタートし、その後、新会社の設立と商業化が決定しました。本プラットフォームの将来性を感じ取った当行も、新会社の設立時に参画しました。現在のボードメンバーは出資元の15社から選抜されたメンバーで構成され、当行からも1名が参画しています。

同社の大きな特徴のひとつは、コモディティファイナンスに関係する各分野の主要プレイヤーが株主である点です。ビジネスの豊富な実績を有し、実務にも精通するこれらのプレイヤーが力を合わせて、コモディティファイナンス業界のデジタル化を推し進めています。

同社が提供するkomgoには現在、「konsole」「market」「check」「trakk」という4つのプロダクトがあり、信用状、スタンドバイ信用状、売掛債権の買取を含め、多岐にわたる貿易金融商品のデジタル化を実現しています。既存のデジタル貿易金融プラットフォームは、1つか2つの商品しか提供していないものが多いだけに、大半の貿易金融のニーズに一気通貫で対応できる点はkomgoの大きな強みだと思います。また、本人確認(KYC)手続き専用のデータルームや、取引書類の認証・追跡といった機能も提供しており、データや情報は全て暗号化され、セキュリティの向上も実現しています。


(画像出典:Komgo社ウェブサイト)

この中で「trakk」は、デジタル書類の登録、閲覧に加えて、書類の受け手は確認、承認、支払い済などのステータスや署名を追加することが可能になっています。また、trakk上に登録された書類と取引履歴は、ブロックチェーン技術の活用によって改ざんすることができません。ペーパーレスで利便性が高くスピーディーに取引ができるだけでなく、ブロックチェーンの技術がデジタル書類の信憑性を担保し、二重融資や不正リスクを回避することで、取引の透明性が格段に上がります。

さらに、trakkは実務に即したユーザーフレンドリーな操作性も強みです。出資企業がテストを行い、現場の声をサービスに反映しながら、システムのブラッシュアップを繰り返しました。
当行においても、2020年7月にMercuria Energy TradingがGunvor Groupから原油を購入した際の取引でtrakkを利用しました。

参考:First MUFG trade using blockchain to mitigate fraud for commodity trade finance transactions

プロジェクトの成果

ブロックチェーンを使った日本の金融機関初となるデジタル信用状の発行

—komgo導入後の実績について教えてください。

宮原氏:komgoは、Komgo社設立から2年の間で、すでに世界各国の金融機関24社、事業会社140社以上に導入されている実績があります(2020年10月末時点)。当行では、2018年から行内への導入検討をスタートし、2019年12月には日本の金融機関では初となる同サービスを利用したデジタル信用状の発行を行いました。これは行内初のブロックチェーンの実装案件にもなりました。

—導入に至るまでに障壁はありましたか?

宮原氏:導入が決定するまでには約1年間の時間を要し、行内の15部署以上を巻き込む大掛かりなものでした。前例のない中でブロックチェーン技術の導入を進めるためには、この技術の深い知識が必要だと感じ、私も約4ヶ月かけてオンライン受講プログラムを履修しました。

欧州企業のシステム導入のスピードは日系企業よりも早いです。世界中のお客さまにいち早く価値を提供するためには、当行もさらにスピードアップが必要で、デジタルとビジネスの両方を深く理解した人材が、当行としても業界としても求められていると思います。

今後の展望

業界のスタンダードとして、アジア圏を皮切りにグローバルへの展開をめざす

—Komgo社における三菱UFJ銀行の役割と、今後のビジョンについて教えてください。

宮原氏:当行はKomgo社の株主として、提供するサービスへの企画段階から参画しています。komgoを業界のスタンダードとしスムーズな取引を実現すべく、テスト運用の段階から現場の声を届け、サービスのブラッシュアップをしています。例えば、本人確認のシステムであるcheckは、我々の声が強く反映されています。

また、当行はKomgo社の出資企業の中で唯一のアジア系企業であり、komgoのアジア圏での利用拡大においても重要な責務を担っています。ロンドン支店では既に導入済ですが、今後はシンガポール支店を足がかりに、在アジア企業への導入支援や国内の大手商社などへの声がけによってマーケット拡大をめざしながら、北米市場への本格的な進出も視野に入れています。

komgoを通じて行内のデジタライゼーションを加速させるとともに、Kogmo社のアジア展開、そしてグローバル展開を積極的に支援していきたいと考えています。


(三菱UFJ銀行 ロンドン支店 欧州投資銀行部 調査役 宮原 幸作氏)