協業の経緯
従来のビジネスモデルを超えたAIスタートアップとの協業
—AISeedの外販化における、3社の協業の背景について教えてください。
岡田氏:これまで当社では、マーケティング、コンサルティング、資産運用の3つの領域でAI活用に取り組んでいました。マーケティングではお客さまのニーズに最適な金融商品の提案を、コンサルティングでは精度の高いデータ分析による付加価値の提供、資産運用では最新のデータに基づいた知見の提供を、それぞれめざしています。
その中で、2018年8月に樋口さんが資産運用部でAISeedの前身である汎用型AIを発明し、2019年9月から全社展開のためのシステム化を検討、2020年の秋からは外販化に向けた議論がスタートしました。この間、以前から面識のあったMUSKの伊豆さん、AVILEN社の代表取締役の高橋さんにもお声かけをして、プロジェクトが立ち上がりました。
発案者である樋口さんはアドバイザー、AI・クラウドなどの技術に精通している伊豆さんは開発プロジェクトのまとめ役、私はシステムの企画・推進全般を担当しました。AVILEN社には、AISeedの機械学習アルゴリズムやデータ可視化機能の高度化を担当していただきました。同社とは以前から取引があり、高い技術力を備えたパートナーとして他のメンバーも高く評価していました。
(三菱UFJ信託銀行 経営企画部 上級調査役 岡田 拓郎氏)
伊豆氏:AISeedの前身である汎用型AIは、社員が普段の業務で利用している標準端末上で稼働していたので、ソフトウェアの配布・導入の負荷、端末のスペック不足など機能制限の課題がありました。現場での利用を促進するには、クラウド化、AIアルゴリズムの強化、機能追加が容易な言語での再開発などの全面的な刷新が必要で、核となる機械学習モデルの作成機能の開発には、短時間で高精度な機械学習モデルを作成するための深い知見が必要でした。
AVILEN社のAI技術力の高さは、過去にデータ分析案件をご一緒させていただいたときから認識していました。また、高い技術力に加えて、顧客企業が抱えている課題を解決するために尽力してくださる姿勢にも魅力を感じています。
(MUSK ITイノベーション推進部 グループマネージャ 伊豆 峻昭氏)
樋口氏:それぞれ得意分野が異なるメンバーが適材適所で力を発揮することで、要件定義は1カ月(合計4~5回程度のミーティング)で完了し、コロナ禍の制約もある中で試作品は4か月で完成しました。これまでの組織の枠組みを超えて、理想的なチームワークで仕事をすると、こんなにも早く成果を手にできるのだと実感しました。
プロジェクトのねらい
スタートアップ企業と大手金融機関の協業を通じた新たな市場開拓
—AVILEN社のようなスタートアップと協業するメリットをどのようにお考えですか?
岡田氏:高度なテクノロジーを強みとする企業が次々と金融ビジネスに新規参入してくる中で、こうした企業と競合するよりも、協業を通じて新たな市場を開拓していくほうが重要だと考えました。
樋口氏:時代の変化に応じて、銀行という組織も変わりつつあります。新規参入してくるテクノロジー企業は、敵ではなく、むしろ積極的に協業し、新たな金融ビジネスを一緒に模索すべき仲間だと私も考えています。そのためには協業先の技術を理解し、こちら側のノウハウを伝えていく橋渡し役のような人材が金融業界には必要なのかもしれません。
—AVILEN社では、三菱UFJ信託銀行のような大手金融機関との協業にどのような価値を見出していますか?
高橋氏:AISeedの話を聞いたときは、私たちのようなテック企業では発想できないものだと感じました。多くのビジネスパーソンが慣れ親しんでいるExcelを操作画面とするのも、現場の業務を深く理解しているからこその考え方だと思います。
私たちのようなスタートアップがエンドユーザー向けの商品を開発しても、実際にはなかなか成功しません。開発に必要な最初の資金集めが大変ですし、アイデアは出せるのですが、作っても本当に需要があるかどうかが判断できないからです。しかし、大手企業であれば多くの従業員がいますから、一定規模の仮説検証を内部で実施できます。これによってゼロから商品を生み出すリスクを回避できるのは、極めて大きなポイントです。
また、金融業界に限らずトップ企業とのパートナーシップには、業界のスタンダードになり得る可能性を秘めているという点で大きな価値があります。そうしたプロジェクトに関わることで、当社が得られるメリットは計り知れません。
(AVILEN社 代表取締役 高橋 光太郎氏)
今後の展望
高度なリテラシー教育も含めたAISeedのさらなる普及
—今後、AISeedを多くの企業に提供していくにあたり、どのような拡張をお考えでしょうか?
樋口氏:直近のテーマとしては自然言語処理にもう少し力を入れたいと思っています。マーケットでは「噂で買って事実で売る」といった格言がありますが、噂レベルの動きを捉えて数値化しAISeedにも取り込むことで、さらなる精度向上を図りたいと考えています。
伊豆氏:AISeedの開発では、分析結果の説明のしやすさを重視したため、分析結果の説明が難しいディープラーニングの機能は除外しています。ただ、ディープラーニングは精度向上や販売促進にもつながるので、将来的に組み込めないか検討しています。
岡田氏:ツールだけあってもデータが整備されていなければ、AIはその価値を発揮できません。そして、データ整備には高度なリテラシーが必要です。そのため、AISeedの販売では、データ活用のための人材教育とコンサルティングを合わせた提供を考えています。
樋口氏:将来的には、我々の業務の中でさらに多くのテクノロジーを応用し、世界中で低コストかつ効率的に運用できる体制が実現できれば良いなと、私個人としては考えています。そのためには多くのハードルがありますが、今回のプロジェクトメンバーのようなチームがグループの中で増え、適材適所で力を発揮できれば、乗り越えられると信じています。
(三菱UFJ信託銀行 資産運用部 チーフファンドマネージャー 樋口 裕之氏)