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持続可能な地域社会の実現をめざす実証フィールド提供型アクセラレータ「LEAP OVER」

持続可能な地域社会の実現をめざす実証フィールド提供型アクセラレータ「LEAP OVER」

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)の総合シンクタンクである三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(以下、MURC)が運営する、スタートアップ企業、大企業、自治体の三者によるアクセラレータプログラム「LEAP OVER」は、2021年12月23日まで第5期のエントリーを受け付けている。「持続可能な地域社会の実現」をコンセプトとして、PoC(Proof of Concept:概念実証)の成果に重点を置いた本プログラムは、スタートアップ企業が大きく歩みを進めるきっかけになっている。
LEAP OVERの取り組みについて、MURCのソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 杉原美智子と尾仲啓祐の二人に話を聞いた。

(写真左から)
●三菱UFJリサーチ&コンサルティング ソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 シニアマネージャー 尾仲啓祐
●三菱UFJリサーチ&コンサルティング ソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 LEAP OVER事業統括 杉原美智子

プログラム内容について

マッチングを超えたオープンイノベーション・プログラム

—LEAP OVER事務局の活動内容を教えてください。

杉原:持続可能な地域社会の実現には、さまざまな社会課題の解決が必要で、発想力や技術力、スピード感を持つスタートアップ企業とリソースやノウハウを持つ大企業・地域中核企業、課題や実証フィールドの提供ができる自治体、これら三者の共創が欠かせません。私たちはそれを実現するためのオープンイノベーションの場を提供し、三つの機能を担っています。一つ目がゴールの共有や共通認識の形成に向けた勉強会の開催、二つ目がPoCを実践するためのアクセラレータプログラムの提供、三つ目がプログラムでの成果の対外発信です。

—スタートアップ向けのアクセラレータプログラムとして、LEAP OVERはどんな特徴がありますか?

尾仲:まずMUFG内で同じくスタートアップを対象としているプログラムである「MUFG Digitalアクセラレータ」と「Rise Up Festa」との違いについてお話しします。MUFG Digitalアクセラレータは、MUFGとの協業を意識したスタートアップの事業支援が目的です。Rise Up Festaは次世代産業を見つけ育てていくことが主な目的です。LEAP OVERは、いかに持続可能な社会をビジネスで実現していくか、その課題解決に目標を定めています。

杉原:LEAP OVERの最大の特徴は「実証フィールド提供型」という点です。世の中で開催されているアクセラレータプログラムの多くは、スタートアップと投資家のマッチングがゴールです。しかし私たちは、マッチング後のステップであるPoCの実施と、そこで成果を出すことをゴールにしています。オープンイノベーションの成功の鍵は、PoCを通してアイデアの実現可能性や有効性、解決すべき課題などを見極めることです。そのためには実証フィールドが欠かせません。資金調達の方法は多様化してきましたが、実証フィールドの確保には依然として課題があると思っており、すばらしい技術や熱意を持ちながらも実証フィールドが得られないために芽を出すことができなかったというスタートアップも少なくありません。


(MURC ソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 LEAP OVER事業統括 杉原美智子)

取り組みと成果

実証フィールドの提供と独自の伴走プログラムが可能にする、成果につながるPoC

—実証フィールドの提供について、どのような例がありますか?

杉原:第3期の例ですが、あるスタートアップが自社開発のソフトウェアを建設機械に搭載し遠隔操作を行う、という技術を開発しました。しかし、建設機械を借りて実際に操作する機会を確保するのは簡単ではありません。そこに、LEAP OVERを通じて、自治体職員の皆さんが毎年行っている除雪作業を自動化したいという課題(ニーズ)を持つ岩手県滝沢市が実証フィールドとして同市役所の駐車場を提供してくださいました。さらにパートナー企業である三菱電機株式会社(以下、三菱電機)が重機保管場所を手配してくださり、実際の作業環境を用意したことで、作業に必要な技術精度の向上に向けた開発を促進することができました。

LEAP OVERは、持続可能な地域社会の実現に向けて不可逆なトレンドをテーマに設定しており、多くの自治体に共感していただき、協力自治体の数は日本最大級となっています。だからこそ、スタートアップにもさまざまな実証フィールドを提供することができるんです。

—4ヵ月間のプログラム内容を教えてください。

尾仲:1ヵ月目はPoC計画書の策定とブラッシュアップ、2ヵ月目はその実施と結果の分析、3ヵ月目はPivot(方向転換)ないしPoCの深化を行い、4ヵ月目には成果発表として最終プレゼンテーションを行うLEAP DAYがあります。月ごとにマイルストーンを設定し、スケジュールに落とし込み、定期的なメンタリングによるフォローアップをすることで、スタートアップがぶれずに、かつ着実に前に進めるよう伴走しています。

PoCの成果を出すためにもう一つこだわっているポイントとしては、パートナー企業や協力自治体が解決したい課題の明確化と、それをLEAP OVERでどう実現するかの議論を、プログラム開始前に2ヵ月ほどかけて深く行っていることです。

第4期では、エントリー数は数百社にのぼり、採択企業6社のうち5社がPoCを実施しました。短期間で成果につなげることを重視したこのプログラムは、パートナー企業として参加している大企業にも高い評価をいただいています。


(MURC ソーシャルインパクト・パートナーシップ事業部 シニアマネージャー 尾仲啓祐)

今後の展望

2021年12月にエントリー締め切りが迫る第5期は最大規模の体制で臨む

—第5期はどういう内容になりますか?

尾仲:第5期の募集テーマは「グリーンテック」「既存産業DX」「ライフ・ワーク改革」です。パートナー企業としては三菱電機と三谷産業株式会社(以下、三谷産業)ケミカル事業部に加えて、株式会社ウエストホールディングス(以下、ウエストHD)に新たに参画いただきました。三菱電機が総合電機メーカーならではの強みとスタートアップが持つ事業アイデアの掛け合わせによる社会課題解決に幅広く取り組まれる一方、三谷産業は環境ビジネスや化学品サプライチェーン、ウエストHDは再生可能エネルギー開発や省エネ事業におけるイノベーションを目標にされています。

審査のポイントとしては、経営者の魅力度、ターゲットとしている市場の魅力度、PoCにつながる可能性を特に見ています。スタートアップの方々には、次のステップに進むためにぜひLEAP OVERを活用していただきたいと思っています。

—オープンイノベーションとしてほかにどのような取り組みをしていますか?

尾仲:スタートアップが国内のビジネスコンテストや自治体の支援プログラムへエントリーする際の負荷を軽減する「STARTUP ENTRY(STAEN)」というWebサービスを新たに提供しています。スタートアップにとって、ビジネスコンテストやアクセラレータプログラムはビジネスの可能性を広げる重要な機会ですが、書式の異なるエントリーシートをその都度作成しなくてはならず、また、自社にとっての最適なプログラムがわかりにくい状況にあります。STAENに一度登録すると、ボタンを一つクリックするだけで最適なプログラムに応募できます。また、プログラムの開催主体である自治体にとっても、スタートアップを効率良く募集できるので、参加者集めより、本来の目的であるプログラム内容の高度化に注力できます。

杉原:ほかにも2021年7月から一般社団法人スマートシティ・インスティテュートと協働でオンラインイベント「Monthly Pitch “7 minutes”~五方よしスタートアップが持続可能な日本をつくる!~」を開催しています。これは、スタートアップと、スタートアップ支援に取り組む全国の熱い自治体職員(STA-Mem47)とのマッチングをサポートするものです。スタートアップのピッチ後、「Let’s Connect!」の札を挙げたSTA-Mem47と連絡先の交換をしていただき、事業化に向けた一歩を踏み出せる仕掛けです。より踏み込んだ支援が必要な場合は、LEAP OVER で取り組んでいきます。

こうした取り組みを通して、社会課題解決型のスタートアップの皆さんと共にこれからも持続可能な地域社会の実現のために努力していきたいと思っています。