[ ここから本文です ]

  • SHARE
MUFGのコーポレートベンチャーキャピタルが生み出す、スタートアップとの共創

MUFGのコーポレートベンチャーキャピタルが生み出す、スタートアップとの共創

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)のコーポレートベンチャーキャピタルである株式会社三菱UFJイノベーション・パートナーズ(以下、MUIP)は、イスラエルのFinTech企業Liquidity Capital M.C. Ltd.(以下、Liquidity Capital社)に出資を行い、同社と株式会社三菱UFJ銀行(以下、三菱UFJ銀行)の合弁会社の設立を支援した。本提携のきっかけや意義について、MUIP代表取締役社長である鈴木伸武とLiquidity Capital社CEOのロン・ダニエル氏の両名に話を伺った。

(写真左から)
●三菱UFJイノベーション・パートナーズ 代表取締役社長 鈴木 伸武
●Liquidity Capital社 CEO ロン・ダニエル氏

Liquidity Capital M.C. Ltd.ロゴ

Liquidity Capital M.C. Ltd.

設立:2018年
本社所在地:イスラエル テルアビブ
事業内容:スタートアップ向けファイナンス事業
独自のAI技術を駆使した将来キャッシュフロー予測とスコアリングモデルをベースに、主に成長過程にあるスタートアップ向けにファイナンス事業を展開。
http://www.liquidity-capital.com/

事業内容について

Liquidity Capital社との出会いと出資の決断

—MUIPとLiquidity Capital社が出会ったきっかけを教えてください。

鈴木:FinTech関連のスタートアップを国内外問わず広く見ていく中で、Liquidity Capital社を知りました。同社は、SaaSやeコマースなどのビジネスを展開するスタートアップに対して独自の与信モデルによる金融サービスを展開しています。このモデルは、与信先企業の銀行口座や業務システムなどとAPIで連携して、日々変動するデータを動態的に把握し、将来の収益やキャシュフローを予測して与信を行うというものです。決算書に基づく従来の銀行の与信モデルとはまったく異なる画期的なものだと感じました。自動車の運転に例えれば、従来の銀行のモデルは、過去の決算書情報、つまりバックミラーを見て前に進もうとしています。一方、Liquidity Capital社のモデルは、将来のキャッシュフロー、つまり道路の前方の状況を見ながら運転しようというものです。私はイスラエルに行きCEOのロンさんに直接話を聞いて、出資を決断しました。

ロン氏:当時私たちは、アジアで事業展開したいと考えており、株主として戦略面でもシナジーのある良い投資家を探していました。鈴木さんをはじめとするMUIPのチームは、私たちの期待をはるかに超えて、わが社のDNAやビジョンにおいても重要な役割を担う仲間になってくれました。

その後、MUIPからの紹介で、三菱UFJ銀行とパートナーバンクの方々にプレゼンをする機会をいただきました。マネジメントを含めて私たちのモデルに非常に興味を持ってくださり、当初はバンキング関連のサービスでの機能連携を考えていましたが、結果として合弁会社の設立という、それを上回る成果を得ることができました。MUIPや三菱UFJ銀行とのコミュニケーションはとても生産的かつスピーディーで、私たちが思っていた以上のスピードで会社をスケールアップさせる手助けをしてくれました。MUFGは生涯にわたって共に事業の成功を分かち合える真のパートナーだと確信しました。

三菱UFJイノベーション・パートナーズ 代表取締役社長 鈴木 伸武
三菱UFJイノベーション・パートナーズ 代表取締役社長 鈴木 伸武)

提携事業について

前例なきことへの挑戦

—Mars Growth Capitalの設立は何を目指したものですか?

鈴木:銀行の伝統的な与信モデルと担保によってリスクをマネージする融資スタイルでは、スタートアップに資金を供給することは非常に難しくなります。彼らは決算上赤字である場合が多く、不動産や工場といった有形の資産も持っていません。しかし、融資をためらえば、有望なスタートアップを支援することはできません。そこで、私たちMUIPは合弁会社の設立を提案しました。三菱UFJ銀行が設立間もないスタートアップと合弁会社を立ち上げるのは過去に例のないことでしたが、双方の強みを活かして事業モデルをさらに磨き上げていくためには、この形が最善だと思いました。

ロン氏:合弁会社であるMars Growth Capital(以下、MGC)は、スタートアップの成長資金の調達方法を一変させ、迅速で低コストかつ手間をかけずに運転資金を確保することを可能にします。また、MGCの経験は、Liquidity Capital社と三菱UFJ銀行の双方にとって、ビジネスの発展・拡大につながるものとなるでしょう。

Liquidity Capital社 CEO ロン・ダニエル氏
(Liquidity Capital社 CEO ロン・ダニエル氏)

協業の経緯・成果

異なるカルチャーの融合が、人と事業を成長させる

—企業文化の違いが障壁になることはありませんでしたか?

鈴木:確かに両社の歴史や規模、文化は大きく異なっています。その溝を埋め、シナジーが最大限発揮されるように支援するのは、私たちの役割の一つでした。例えば、組織のレイヤーでいうと三菱UFJ銀行は何層にもわたっていますが、Liquidity Capital社は非常にシンプルで、その分意思決定も早く、時間の感覚が大企業とスタートアップでは大きく異なります。「ドッグイヤー」の例えでいえば、大企業における1年は、スタートアップの7年に相当します。サービスや商品の品質や完成度についても、Liquidity Capital社は8割方の状態でリリースし、市場の反応を見ながら改善を重ねていくという考え方です。一方、三菱UFJ銀行にとって安全性の担保は非常に重要であり、100%、できれば120%の完成度を求めます。この溝をどう埋めるか。三菱UFJ銀行の意思決定をスピードアップするために情報提供の仕方を工夫し、他方Liquidity Capital社に対しては、三菱UFJ銀行が社会的な信用を基盤に事業を展開していることへの理解を求めました。

ロン氏:当然誰もが、イスラエルと日本のカルチャーギャップは大きく、戦略的なパートナーシップを築くのは難しいと考えるでしょう。しかし実際は、まったく逆でした。それぞれのカルチャーの良いところを持ち寄り、お互いに尊敬しながらも本音で話す、という関係を築くことができました。ときどき仕事の進め方が異なることもありましたが、それぞれがどういう文化や考え方を持っているのか、背景を確認するということを大切にしていました。誠実さやまじめさなど、実はよく似たカルチャーを持っているということは嬉しい発見でした。

今後の展望

MGCの発展から、さらなる変革と創造へ

—これから目指すものはなんですか?

鈴木:MUIPの大きな役割の一つは、金融市場における新たなビジネスのシーズを見つけ出し、MUFGの新規事業として芽が出るよう、出資先とMUFG各部門との協業を促進することにあります。その意味で今回の合弁会社設立は大きな成功例になりつつあります。MGCにはアジアのエコシステムの中でデットファンドの担い手としてさらに確固たる存在に育ってほしいと思います。

ロン氏:MGCは、グローバルなファイナンス市場において創造的破壊と変革をもたらすと信じています。Liquidity Capital社の技術とユニークで挑戦的なカルチャーが、今後もMUFGのさまざまな部門にとって良い刺激となり、お互いのビジョンを実現するためのパートナーとして歩んでいけることを願っています。