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顧客起点でつくりあげた新たな資産形成プラットフォーム「Money Canvas」

顧客起点でつくりあげた新たな資産形成プラットフォーム「Money Canvas」

株式会社三菱UFJ銀行(以下、三菱UFJ銀行)が2021年12月に個人のお客さまの中長期的な資産形成を総合的に支援するプラットフォームとしてリリースした「Money Canvas」。本サービスはスマートフォン上で完結する形で、幅広い金融商品の中から自分に合ったものを選んで組み合わせることができることに加え、資産形成に役立つ情報提供も行う。スピードを重視した開発体制を敷き、開発期間はわずか8ヵ月。開発のコンセプトとした「顧客起点のユーザー体験の提供」に徹底して取り組んだ。この挑戦的なプロジェクトに挑んだのが、三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部の田中誉俊をリーダーとした若手のチームだった。共に開発を担った星佳菜子と野村祐気の三人に、プロジェクト参加への思いや成果について話を聞いた。

(写真左から)
●三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部企画Gr 次長 田中 誉俊
●三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部企画Gr  星 佳菜子
●三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部企画Gr 野村 祐気

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・Money Canvasのサービス内容や開発の経緯については下記記事参照
「デジタル戦略担当役員が語る、『Money Canvas』で変える資産運用の文化」

プロジェクトへの思い

提供者目線をいかに脱し、お客さま起点に徹するか

—Money Canvasの開発にどのような想いで取り組まれていましたか。

田中:お客さまの資産形成をいかにサポートしていくかを考えたとき、真っ先に思い浮かんだのは、私が銀行員でなかったら、資産形成の相談のためにわざわざ銀行には行かないだろう、ということでした。銀行はATMでお金を入出金するところではあっても、資産形成の相談先としてはまだまだ浸透していません。情報が欲しいときはWebで調べて、投資の体験談やコラムを参考にすることが多いと思います。まずはこうした銀行とお客さまとの距離をいかに縮めるかということを、考えなければならないと思いました。

星:実際に以前、家計簿アプリ「Mable」の開発担当者としてお客さまへインタビューをしたことがありますが、資産運用のことで銀行に話を聞きに行くのは怖い、敷居が高い、という声は非常に多かったです。

野村:私も今回の開発のポイントは、私たち自身が、いかに“お客さま目線”を持ち続けることができるかだと感じていました。そもそも金融機関側の人間は、自分たちのコミュニケーションのとり方が独特で、お客さまに違和感をもたれていることに気づいていないことが多いです。

田中:例えばインターネットバンキングもそうですね。オンライン上で金融商品を購入する場合には、セキュリティの確保やリスクの説明など、欠かせないものがあるため、ECサイトで商品を購入するときほど容易ではありません。しかしこれまでは、必要だからしょうがないと済ませていた面があるのではないか、工夫次第でもっと簡略化できるはずだ、と思っていました。

野村:画面のつくり方でも、クリックするボタンが小さい、見つけにくいといったこともあり、これらの積み重ねによって親近感がもてない画面になっていると感じていました。

—プロジェクトの本格的なスタートは2021年4月のことですね。

田中:2020年秋ごろから、どういうことができるかという検討は少しずつ進めていました。ただ、当行で新規プロジェクトを立ち上げ、推進するのは、かなりタフな精神力と体力が要ります(笑)。伝統や信頼が重んじられる組織の中で前例のないことに挑むわけですから当然です。その中で、自分たちが提供するサービスをより良くしていこうという志をもち、変えるべきものは変えていくんだという情熱と挑戦する心をもつ若手を中心にチームをつくりたいと思いました。星さんはその一人です。さらに多様性のあるチームにしたかったので、異業種よりご出向の野村さんにも声を掛けました。異なる価値観をぶつけ合って、新しいものを生み出していきたいと考えていたんです。


(三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部企画Gr 次長 田中 誉俊)

取り組みと成果

「体験設計」でスマホユーザーが使いやすいものにする

—スマートフォンの小さな画面上でサービスを提供するのは難しかったのではないですか。

田中:従来のサービス提供の仕方そのものから考え直すことが必要でした。これまでの金融商品の販売フローは、とにかく正確を期して説明に説明を重ねるスタイルになっていますが、これではスマホにはなじみません。まずはいかに重複を排除してシンプルに、わかりやすいものにするか、ということが課題でした。

星:パソコンであれば一定の情報量が確保できるため、投資信託の目論見書のようなものでも、読んでいただけるかもしれません。しかしスマホでは困難です。販売フローとして絶対守るべきものを守りながらも、お客さまが確認できたというプロセスをしっかりつくることを大事にしました。

田中:まさに必要だったのは、スティーブ・ジョブズの「体験設計」の思想だったと思います。快適な顧客体験をどうデザインするかですね。

野村:確かに、スマホの5インチくらいの画面の中で、お客さまとのコミュニケーションを成立させるというのは、すごく挑戦的なことでした。この実現には提供者目線を脱して新たな発想で考えることが重要でした。

星:私は情報コンテンツの領域を担当したのですが、グループ各社がもっている情報コンテンツは豊富にあるため、これも大事だから入れておきたいと、詰め込んでしまいがちです。そのため、これから資産形成を始めてみようという人にまずどういう情報が必要か、その視点から余分なものは思い切って捨てて、顧客体験に合わせて必要な情報が届くように流れを考えて再構成しました。

田中:画面のつくりは、今までにない発想で根本的に変えているので、そこは皆さんにぜひ体感してほしいです。それから体験設計の良いところは、われわれが意図した動きをお客さまがしてくれなかったときに、どこを直せば調整できるのかがすぐわかるということです。ただ一方的な提供だけをしていたら、どこでコミュニケーションの齟齬が発生しているのかわからないですからね。ここはリリース後の改修にも大いに役立つと思っています。


(三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部企画Gr  星 佳菜子)

今後の展望

—プロジェクトを振り返って、どんな成果や学びがありましたか。

田中:Money Canvasの開発中に、「それでどれだけ儲かるの?」と聞かれたことがあります。プロジェクトチーム内でも、常にこの件は議論していましたが「じゃあ、儲からないからやらないんですか?」という気持ちでした。ただでさえ銀行は資産形成の相談相手として浸透していないのに、儲かるものしかやらないというスタンスでいたら、ますますお客さまは遠のきます。儲からないかもしれないけれど、資産形成のお手伝いをすることは非常に重要な銀行の仕事です。MUFGは「世界が進むチカラになる。」とパーパスを定義したのですから、お客さまが前に進むチカラにならなければいけない。Money Canvasというかたちで、それがひとつ表現できたことは大きな成果だと思っています。

星: 8ヵ月という開発期間は異例の短さだったので、途中でこれは難しいんじゃないかと感じるときもありました。しかし、メンバーの一人ひとりに、今までにない新しいものをつくる、という強い気持ちがあったからこそできたのだと思います。いよいよサービスが始まったので、お客さまがどのようにサイト内を回遊されるのか、それを分析しながら、より的確なレコメンドができるものに進化させていきたいと思っています。

野村:私は外部企業とのアライアンスを担当して、同じ金融機関内でもさまざまな人と出会いました。これからつくるサービスの話ですから、取り組みの背景や、何をめざしているのかといった価値観の共有から始めていきましたが、そこでしっかり一致して提携関係をつくることができたのは大きな成果だと思います。また、スタートアップ企業のスピード感に負けないように田中さんにも即断即決してもらいながらコミュニケーションをとっていったことも勉強になりました。

田中:今回のプロジェクトでは、MUFGの枠組みにとらわれず、スタートアップ企業から老舗企業まで多くの外部企業と関係を築くことができたことも、大きな成果だと思います。お客さまに今後もより良いサービスを提供できるよう、今回携わってくれた若手のメンバーが、学びや体験を糧に新たなプロジェクトでも活躍してほしいと思っています。


(三菱UFJ銀行デジタルサービス企画部企画Gr 野村 祐気)