プロジェクトへの思い
“電子化最難関”といわれたプロジェクトに挑む
—残高確認書発行業務の電子化は長く懸案だったそうですね。
七尾:監査法人による残高確認書の依頼というのは、被監査会社の財務諸表記載の預金や債権・債務などの内容が正しいかどうかを監査法人が被監査会社の取引先の金融機関などに直接問い合わせ、文書による回答を得て、被監査会社の作成した財務諸表の内容を検証するために行うものです。もう半世紀以上も続いている会計監査上の重要な手続きで、当行にもさまざまな確認依頼があります。確認書上の限られた情報(社名・代表者肩書・代表者名・住所・印鑑)のみで顧客特定するのは非常に負荷が高く、また、確認内容によって所管部署が多岐にわたり、しかもほとんどが手対応で属人性の高い業務になっています。さらにピーク性という問題もありました。年間約4万件の依頼のうちの7割が企業の決算が行われる翌月の4月に集中します。手対応ということは出社が必要で、確認書の管理や保管、発送の手間もあり、その点でも非常に負荷の大きい業務でした。
私は現在の部署に4年前に着任しましたが、前任者もこの残高確認書の電子化に取り組んでいて、検討は非常に長く続いていたんです。
鈴木:残高確認書発行業務は半世紀以上も続いていることで、手作業としてそれなりに極められてしまったところもあります。その点でも電子化は難しくなっていましたね。
七尾:銀行事務の電子化の中でも最難関といわれていました。
—電子化に向けてどのような取り組みをされたのですか?
七尾:残高確認書の作成にあたって現在行われている事務を詳細に、そして正確に知ることから始めました。確認書の種類によって所管が異なり、それぞれ多くの部署が連携しています。どこまでさかのぼれば書類が完成するのか、非常に複雑になっているんです。まずそれを解きほぐし、この工程はシステム化できるとか、こことここをつなげば簡素化できる、ここは既存システムが使える、ここはRPA (Robotic Process Automation)が組み込める、というように一つひとつ検討し、電子化の大きな見取り図をつくり、それに沿ってシステム開発を進めていきました。歴代の開発担当者がここまではできたが、ここはこういう理由で難しいといったことを克明に残してくれていて、かつ、業務のシステム化がいろいろな場面で進んできているという外部環境にも助けられて比較的順調に開発を進めることができました。
(三菱UFJ銀行 事務企画部 七尾 采子)
—Balance Gatewayとの接続は、どのように実現したのですか。
鈴木:もともと、いわゆる4大監査法人が会計監査確認センターをつくり、残高確認業務の電子化を行おうとしているということは耳に入っていました。ただ、いつどのような形でリリースされるのかわからなかったので、当行内の残高確認書発行業務の電子化は、それとは別に進めていました。
七尾:外の電子化ができたらそこにつなげよう、まずは行内の電子化を実現しようという考え方でした。
鈴木:その会計監査確認センターが、2019年の終わりに残高確認手続きの包括的なプラットフォームサービスとしてBalance Gatewayを立ち上げたんです。被監査会社と監査人、そして当行のような監査人の依頼に基づき書類を作成する取引先会社の三者間のやりとりをすべて電子化するプラットフォームです。スタート当初の取引先会社には銀行などの金融機関は含まれていなかったのですが、いずれは銀行ともつないで利便性を高めたいというお話がありました。当行としても内部だけ電子化できても外とのやりとりが紙のままでは、紙をデータ化してシステムに乗せ、作成した電子データを再び紙にするという手間が発生するので非効率です。できれば行内も外もend-to-endで電子化したい。そこで行内業務の電子化の推進と同時に、会計監査確認センターとの共同案件としてBalance Gatewayと行内のシステムをつなぐというプロジェクトをスタートさせ、DX室が会計監査確認センターとの調整役になりました。当初、会計監査確認センター側からこういうフォーマットでつなぎたいというお話があったのですが、実はこの情報だけでは銀行として受け付けられない、というものだったんです。Balance Gatewayが当初、確認書作成依頼先として想定していたのは債権・債務に関する取引会社で、銀行などの金融機関は含まれていませんでした。そのため当行宛ての依頼を電子化するときに、どういう情報が必要になるか、その点で認識の相違があり細かい打ち合わせが必要でした。
七尾:紙であれば被監査会社の当行への届出印が押してあればよかったのですが、電子の場合には自動で顧客特定するため、その会社に関する情報(科目・口座番号など)を入力していただく必要があるのです。
鈴木:連携にあたっての打ち合わせを経て、2021年の10月くらいから実際のシステム上で連携のテストを進め、12月に正式に当行での受付を始めました。銀行としては初のケースとなりましたが、事務企画部の行内手続きの電子化が進んでいたので、内外の連携もスムーズにできました。
導入の成果
ピーク時受付の3割を電子化。業務負荷を大幅に削減
—導入の成果はいかがでしたか
七尾:Balance Gateway との連携の初年度であった2022年のピーク時に、約7,500件の依頼を受け付け、最短3営業日での回答を実現しました。行内のシステムも問題なく稼働しています。現物の授受がいっさいなく、もちろん発送業務もありません。「いつの間にか確認書の受付と返送の業務が終わっている」「すごく楽になった」という声をいただいています。今後Balance Gatewayを通した依頼が増えてくることは間違いないので、業務負荷低減の効果は大きくなっていくと思います。
鈴木:会計監査確認センターとしても初めて銀行とつなぐことを試みて、銀行特有の事情を踏まえたシステムにブラッシュアップし、問題なく稼働しました。さらに他行などに広げていくきっかけになったのではないかと思います。
(三菱UFJ銀行 デジタルサービス企画部DX室 鈴木 美咲)
今後の展望
システムの改善を進め、電子化の比率を高めていく
—今後はどういう展開を考えていますか。
七尾:二つのことを考えています。一つは、今回つくった確認書業務電子化システムをさらにバージョンアップしていくこと。すべてが電子化できているわけではありませんし、紙受付もまだ大きなボリュームで残っているので、それをどう効率化するかは大きな課題です。改善点やさらに電子化を進める点についてはすでに絞り込んでいるので、それを進めていきます。二つ目は、被監査会社、監査法人、そして当行などの確認回答者、この三者のいずれにおいてもBalance Gatewayの利用を増やしていくということです。当行だけが先行しても、ほかの場面で紙の作業が残ればここは電子、ここは紙という使い分けが必要になり、電子化の恩恵が十分に発揮できません。当行単独では難しいことですが、Balance Gatewayの利用者を増やしていきたいですね。
鈴木:監査法人確認書業務は、最終的には電子化一本にしたいと思います。当行としても、どのように行内業務を電子化したかということをほかの金融機関に紹介して、電子受付ができる金融機関を増やしていきたい、そのための普及活動をDX室として進めていきたいと思っています。また、参加金融機関が増えれば、金融機関が監査法人から受け取る情報の標準化ということがテーマになってくると思います。監査法人が確認書を求める金融機関は一社ではありません。もし金融機関ごとに異なる依頼様式になってしまったら事務が繁雑になり、普及の足かせになってしまいます。Balance Gatewayを運用する会計監査確認センターへも、対金融機関の依頼の標準化をお願いしたいと思っていますし、金融機関としてもそれに協力していきたいと思います。