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MUFG版「ChatGPT」の開発秘話 DX化を加速させる新たなオープンイノベーション

(左から デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 谷川 島野 峰島)

MUFG版「ChatGPT」の開発秘話
DX化を加速させる新たなオープンイノベーション

2022年11月、OpenAI社がリリースした人工知能チャットボットサービス「ChatGPT」が世界に与えた衝撃は記憶に新しい。リリース後、追随する形でChatGPTに付随したサービスが各社から発表される中、MUFGでもDX化推進の一環としてMUFG版「ChatGPT」の開発が早々に開始された。今回は、その開発メンバーであるデジタルサービス企画部DX室の島野氏、峰島氏、谷川氏の3名に話を聞いた。開発過程での課題とそれを乗り越えた方法、サービスに込めた想いなど、様々な観点から本サービスについて語ってもらった。

安全な環境下で行内のあらゆるユースケースに対応

デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 谷川 綾
(デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 谷川 綾)

Q.MUFG版「ChatGPT」の主な内容について教えてください。

谷川氏
当行ですでに導入済みのマイクロソフト社のAzureの基盤上に、Azure OpenAI Serviceと連携したアプリを構築することで、安全な環境でChatGPTと同等のサービスを利用できるようになっています。一般に公開されているChatGPTの場合、入力したデータがOpenAI社の学習に利用されるという情報漏洩の危険性があるのに対し、MUFG版「ChatGPT」ではAzureの基盤上で環境を構築したことによって、入力データがOpenAI社側に学習されずセキュアな環境下で行内利用ができるため、セキュリティ面でも問題なく利用可能です。

Q.実際に想定される利用方法や行員への導入方法について教えてください。

谷川氏
2023年6月27日に開催された、日本マイクロソフト株式会社主催のMicrosoft Build Japanで発表したように、稟議書の作成アシストや金融レポートの要約、行内手続き照会など、すでに110以上のユースケースが集まっており、MUFG版「ChatGPT」には様々な利用方法が考えられます。
また、全行リリースに向け行内環境でアクセスでき、立ち上げられるような環境を整えています。

Q.MUFG各社での情報や技術の共有はどのようにしているのでしょうか?

谷川氏
「MUFG内の情報連携を密にし、MUFG全体でChatGPT等の生成系AIの導入・利活用を効果的かつ効率的に行う」という目的で、CDTO(Chief Digital Transformation Officer)の山本常務筆頭に「ChatGPT業態横断PT」を立ち上げました。ここでは、推進分科会とリスク分科会を設けており、各社の取り組みの共有を行っています。推進分科会では、推進状況や課題と解決方法等について、リスク分科会では、生成系AIのリスク管理についての対応状況や情報等を共有しています。全体共有の場として会議体は月に1回開催していますが、他のPTと比べても参加者が非常に多く、MUFG各社がChatGPTに関心を持っており、積極的に推進していきたい、という姿勢が伺えます。

行員にいち早くサービスを届けるため、スピード感を意識

デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 島野 浩平
(デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 島野 浩平)

Q.本サービスが導入に至った経緯を教えてください。

島野氏
ChatGPT以前も自然言語処理の分野では様々なサービスが出ていたものの、精度や能力といった機能面が不足していました。しかし、OpenAI社のChatGPTは機能面が非常に優れていたため、銀行内でも導入したいという声が挙がっていました。当初はセキュリティ面に不安があったものの、前述の通りマイクロソフト社のAzureでの環境が整ったのを皮切りに、役員を中心に話し合いが行われ、急遽体制を整えて開発を開始することになり、2023年4月にキックオフしました。他のメガバンクも急ピッチで体制を整えていたこともあり、当行でも通常とは異なるプロセスで、様々な手続きを同時進行させることで、銀行のプロジェクトとしては異例のスピード感で進んでいきました。
役員向けに生成系AIに関する勉強会を実施し、稟議書の作成、事務手続き照会、ウェルスマネジメント領域でのお客さまへの提案書作成、といった3大優先ユースケースの提示も受けるなど、銀行内でもトップ案件として優先的に進められました。

Q.本プロジェクトをどのような想いで進めていきましたか?

島野氏
まずは何よりもスピード感を持って開発を進めたい、という想いが第一でした。というのも、プロジェクトがキックオフしたあたりからデジタルリテラシーが高い行員や部署から「(生成系AIで)こういうサービス・機能が使いたい」という声が多数寄せられました。今までも我々のチームにはAI利用に関する質問や要望がポツポツと寄せられていたのですが、今回ChatGPTに関してはそれがポツポツというレベルではなく殺到したんです。そのこともあり、いち早く行員の皆さんにサービスを提供したい、という想いで取り組んできました。もちろん、様々なリスクヘッジを行いながら慎重に進めているのですが、それでも年内には全行員が使えるように環境を準備している状況です。

Q.スピード感を持って進めるうえで行内のサポート環境はいかがでしたか?

島野氏
役員レベルでデジタル関連に理解があり、スピード感を持って取り組めるようにサポートしてくれた点は当行ならではの環境だと感じています。「なんでこれをやるの?」ではなく、「もっと早く導入するには何がネックでどのように解消すれば良いか?」といった具合で、推進を全面的に支援してもらっています。私は中途採用で入行し、銀行という組織の性質上、意思決定や開発は比較的遅いというイメージが入行前にはありましたが、今回のケースでそのイメージは大幅に変わりました。

元々のセキュリティ感度の高さを活かしたスピーディーな開発

デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 峰島 裕
(デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 峰島 裕)

Q.プロジェクトを進めるにあたって発生した課題を教えてください。また、それをどのように乗り越えたのでしょうか?

峰島氏
生成系AI独自のリスクへの対応と、マイクロソフトのAzure基盤上での開発に関する知見を短期間でキャッチアップする必要があった、というのが大きな課題でした。また、開発にあたって必要となる予算を行内で確保する、ということも挙げられます。
生成系AI独自のリスクに関しては、元々DX室にAIのリスクを管理するメンバーが在籍していたこともあり、その知見を著作権や誤情報といった生成系AI独自のリスクにも転用することで対処できました。一方、Azureの開発環境については行内では知見が足りなかったため、マイクロソフト社をはじめ、マイクロソフト製品を扱っているベンダーにもご協力いただきました。また、予算面の課題に関しては、行内でも役員レベルが力を入れるトップ案件ということもあり、マネジメント層からも予算確保を後押ししてもらいました。
CDTO含む役員宛への報告はシステム企画部とDX室から週一回メールで行うなど、トップと密に連携をしています。

Q.上記の他に、課題を解決する上で活きたMUFG独自の強みはありますか?

峰島氏
やはり、行員全員の元々の情報セキュリティ意識が高いということはMUFG独自の強みだと思います。他企業の場合、「どこまでが公開していい情報なのか」という定義から検討している一方、MUFGでは情報ごとのセキュリティレベルの区分やセキュリティポリシーなどがすでに行員全体に浸透した状態で開発を始められました。

業務を効率化しお客さまとの対話に充てられる時間を増やす

デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 島野 浩平
(デジタルサービス企画部 DX室 新事業Gr 島野 浩平)

Q.想定している行内でのサービス展開の仕方はありますか?

島野氏
まずは、先ほども申し上げた通り、年内に全行員が利用できる環境を整えることが目標となります。そのためには、より安全なセキュリティ環境の用意も必要ですし、ネットワークの改善なども必要になってきます。
ただ、それ以上に「全員が使いこなせるようにする」ということを大切にしたいと考えています。というのも、ChatGPTはその性質上、抽象度の高い質問を投げかけてしまうと精度の低い回答が返ってくるなど、使う側のリテラシーや工夫が非常に求められます。そのため、いきなり全員に「ただ利用できるようになっただけ」の状態で公開したとしても、すぐに飽きられてあまりいい結果が得られない、というのが我々の意見です。現在、チーム内で「このように質問をしたらいい結果が得られる」といったようなノウハウを溜めていて、これをガイドライン化して皆さんに展開することで、最短で成果が得られると考えています。

Q.今後の展望について教えてください。

島野氏
マイクロソフト社では「co-pilot」という表現が使われているのですが、これは「副操縦士であって自分で操縦してくれる訳ではない」という意味です。我々も同じ認識を持っていて、ChatGPTは銀行員に置き換わるものではなく、一人ひとりにつくアシスタントのようなものだと考えています。
ChatGPTは非常に優秀で、「あなたは銀行員です」というように役割を与えたり、「あるテーマについて論点を5つ挙げてください」といったように自分のアイデアの壁打ち相手としても利用できたりします。このように便利に正しく使いこなせるよう、パターン別の質問の定型文などを作成中のガイドラインに掲載することで、ChatGPTの便利さを行内全体に広めていきたいですね。
パワーポイントを作る作業やメールのドラフトを作る作業、海外とのやりとりで英語翻訳をする作業などの業務が効率化され、増えた可処分時間をお客さまとの対話や会議といったアナログな業務に使えるようになれば良いなと思います。