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開発担当者が語る決済ブランド「COIN+」の軌跡 外から見たMUFGの強みとは

開発担当者が語る決済ブランド「COIN+」の軌跡
外から見たMUFGの強みとは

2021年12月、株式会社リクルートと株式会社三菱UFJ銀行が共同出資した子会社「株式会社リクルートMUFGビジネス」は、新たな金融インフラの構築として決済ブランド「COIN+」をスタート。加盟店における決済手数料は0.99%(税別)と、他のキャッシュレス決済サービスに比べて負担を抑えられる点が注目された。
今回は、決済企画部でCOIN+の運営にも関わり、現在は法人決済商品の企画・管理を行っている小出俊介氏に話を聞いた。小出氏は、2014年4月にIT企業からMUFGに入行。COIN+発足の経緯に加えて、入行のきっかけや今後の展望についても語ってもらった。

開発の担い手からビジネスを創造するイノベーターへ

三菱UFJ銀行 決済企画部 商品戦略Gr 次長 小出 俊介

Q.現在のお仕事の内容を教えてください。

今は決済企画部の商品戦略グループに所属し、主に法人向けの決済商品の企画・開発・管理に携わっています。
例えば、PayPayには銀行口座から現金をチャージできる機能がありますが、その銀行口座からのチャージ機能を開発・提供しているのがこのグループです。

Q.転職された経緯を教えてください。

前職ではシステムインテグレーター(※1)の立場 で、決済系システムなどの新しい事業の開発を行っていました。事業会社に決済システムを導入するといった業務内容なので、ベンダーとしての意識が強く、自身でプロダクトをもっていないことから、エンドユーザーの顔が見えにくい立場でした。その仕事を続けていく中で、自らが新商品の組成やPMO(※2)など、よりエンドユーザーに近いところで仕事がしてみたいと思うようになり、さまざまな事業会社のフロントポジションにエントリーしていました。

※1…情報システムの企画、構築、運用などの業務をシステムのオーナーとなる顧客から一括して請け負う情報通信企業
※2…組織内のさまざまなプロジェクトを担当する部門・チーム

Q.MUFGを選ばれた決め手は何でしょうか?

バックグラウンドがシステムエンジニアだったので、どこの会社でも採用されるポジションはシステム開発部といった開発の担い手が多い状況でした。
そんな中、弊行では当時まだ事業会社ではあまり一般的ではなかった、ITをビジネスにするという部署のポジションを募集していました。
システム開発の担い手からビジネスをリードできる人材になっていきたい、ステップアップを図りたいという気持ちが強かったので、自分のやりたいことにマッチするポジションの募集があったのは大きな決め手となりましたね。
また、メガバンクで新しいことをやれば世間的にも大きなインパクトになるのでは、と考えたことも選んだ理由の一つです。実際に、入行してからこんなに報道されたりする機会があるんだ、と驚きました。

普段の生活における決済・送金を楽に行える、ユーザーに密接したサービス開発

三菱UFJ銀行 決済企画部 商品戦略Gr 次長 小出 俊介

Q.入行してからこれまでのご経験を教えてください。

行内での「MUFGコイン」開発
日常的な決済に使えるものをめざして「MUFGコイン」が開発されることになり、プロジェクトをリードする立場として数年携わりました。MUFGコインとは、MUFGで独自に開発していたデジタル通貨のことで、利用者が日々の決済や送金などをスムーズに行えることをめざしたサービスです。他の仮想通貨(デジタル通貨)とは異なり、1コイン=1円のレートで安定して運用され、専用アプリを通じたスムーズかつ低コストでの送金や、1円単位での少額決済(マイクロペイメント)の実現をめざしていました。
私は前職で電子マネーに関わる仕事をしていたのですが、当時はたくさんの電子マネーが開発され、結果、乱立したことにより使われなくなった電子マネーの現実を目の当たりにしてきました。その経験から、一金融機関が関発するMUFGコインも日本全国で使われるような、国民的決済システムにしていくことは難しいのではないか、と個人的に感じていました。
ユーザーに近いサービスを作りたいという私個人の目標が現実になった瞬間ではありましたが、いざその立場になると難しいことが想像以上に多くありました。ビジネスとしてどうやってスケールさせるか、弊行の口座をお持ちでない方々にどう使っていただくか、といった課題に何年もかけていた間に、圧倒的な販売戦略や、ユーザーとの接点が非常に強いQRコード決済(※3)事業者に先をいかれてしまいました。この時期は
「一金融機関でこの業界に参入していくのは難しいのだろうか?」
「そもそも戦略とは何なのか?」
と、さまざまな難しさを痛感し、大きな挫折を味わったと言っても良いタイミングでした。

※3…QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。

リクルート社と協働での「COIN+」の開発
MUFGコインの開発を進めていた頃から、株式会社リクルート(以下:リクルート社)とは何か一緒にできたら良いですね、という話はしていました。コンシューマーサービスに近いリクルート社とうまくコラボレーションできれば、より良いサービスができるのでは、と考えたのがきっかけです。お互いの良いところを取り入れた事業会社にするために、ジョイントベンチャー(株式会社リクルートMUFGビジネス)を立ち上げてサービスを展開していくことになり、そこで新たな決済ブランド「COIN+」が開発されました。
COIN+は全国の20万店舗を超えるお店で利用できる決済ブランドで、「エアウォレット(AirWALLET)」という専用のアプリを通じて簡単に決済や送金ができるサービスです。特徴としてはその安全性が挙げられ、2要素認証や専門チームによるモニタリングによってセキュリティを確保しています。また、「MUJI passport」や「ホットペッパービューティー」といった他サービスのアプリとも連携して利用が可能な点も特徴の一つです。
現在は弊行のメンバーに出向してもらっており、今は既に引き継いでいますが、当時、私はその会社の経営を銀行の立場から管理・サポートしていました。

Q.小出さんが考えるMUFGの強み・弱みを教えてください。

強みとしては、「メガバンクである」ということが挙げられます。弊行の取り組みがメディアの記事として報じられる機会が多いなど、弊行が社会に与えるインパクトの大きさも日々実感しています。
MUFGコインの検討を始めた時、金融庁・日銀含めて社内外問わずいろいろな方に興味を持たれ、声をかけられました。「MUFGが動いているということは、きっと何かがあるのだろう」「何かすごいことをやっているのだろう」という周囲からの大きな期待を感じていました。
そのおかげで、人脈を広げられるのもありがたいところです。MUFGコインの頃にできた繋がりが、今の仕事においても活きていることは多々あります。

一方で、弱みは「発散性の低さ」でしょうか。銀行は規制業種としてルールに則っており、そのルールの中でイノベーティブなことをしなくてはなりません。
法律は簡単に変えられるものではないので、制限がある中でいかにビジネスを作り出せるか・ダイナミックなことができるのかを考える必要があります。いかに柔軟なアイデアを生み出していくのか、というのは私の仕事の中でも課題であり、やりがいを感じることでもあります。
そういう意味では、リクルート社とのジョイントベンチャーは、我々が新しいことに挑戦するための一つの答えであったと思っています。
「規制があるから難しい」と立ち止まるのではなく、一歩踏み出して新しいことに挑戦してみようというマインドが醸成され、かつ実行できたのは一つの成果であると認識しています。

最近では「Spark X(※4)」や「チャレンジリーブ(※5)」、社内副業制度などといった新たな取り組みもあり、個人でやりたいことができるようになってきています。そういう取り組みを活かして、どんどんチャレンジしてほしいと思いますし、部下にもそう伝えています。

※4…Spark X:金融領域に限らず、MUFGの強みを活かせるすべての事業領域を対象に、新規ビジネスアイデアを募集するためのMUFGグループ横断の新規事業創出プログラム
※5…従業員が退職せずに起業や留学、資格取得などの新しいことに挑戦できる制度

誰もが挑戦できる環境作りに向けて

三菱UFJ銀行 決済企画部 商品戦略Gr 次長 小出 俊介

Q.今後の展望について教えてください。

イノベーションを起こそうとすることは、必ずしも数字に結びつけられるような、結果が約束されたものではありません。しかし、前職時代を含めれば20年近く決済領域に携わってきたので、引き続きこの分野で挑戦していきたいという想いです。そして、私自身が挑戦を続けるだけでなく、みんなが輝けるような職場作りのためにも、誰もが新しいことにチャレンジしやすい道を作れるような人になりたいと思っています。
また、最近は中途採用者も増えてきています。私が入行した当初は中途採用の前例が少なく、中途採用でマネジメント職をめざせるのかも、特定の領域で専門家をめざすことができるのかも分からない状況でした。どういうキャリアパスを描けばどんな仕事ができるのかがイメージできるような、そして中途採用者のロールモデルとして見てもらえるような人材になっていきたいです。

Profile

※所属・肩書は取材当時のものです。

三菱UFJ銀行 決済企画部 商品戦略Gr 次長

小出 俊介

SIerを経て2014年に入行後、決済企画部所属。COIN+等、多くの決済機能の開発を推進。現在は法人向けの決済商品の企画・開発・管理を担当。