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現場発のAI活用を促進。AIエージェント「Jinba」で実現するMUFGの市民開発

現場発のAI活用を促進。
AIエージェント「Jinba」で実現するMUFGの市民開発

「AI Native」な組織への変革をめざすMUFGでは、一問一答に応える対話型AIの活用にとどまらず、AIを業務プロセスに組み込み、仕事の進め方そのものを変える取り組みが始まっている。そのカギを握るのが2026年4月に導入されたAIエージェント開発基盤「Jinba(ジンバ)」だ。複数の処理や判断をつなぎ、一連の業務フローを構築できるほか、プログラミングの専門知識がなくても、日本語で指示をするだけで一連の業務フローを詳細かつ精度高く構築できるため、現場の担当者自身が開発に携われる点が特徴だ。
Jinbaは実際の業務でどのように活用され、現場にどのような変化をもたらしているのか。
今回は、Jinbaを現場へ導入・活用を支援するデジタル戦略統括部 コンサルティングGr の林田敦志、企画を担うデジタルソリューション部 AI・ソリューションGr の平林一輝、Jinbaを活用するトランザクションバンキング部の近江秀徳、市場企画部ポートフォリオ運用室の柴崎翔、ウェルスマネジメントコンサルティング部の坂本亜希香の5名にJinbaの導入プロセスや今後の可能性について話を聞いた。

(写真左から)

三菱UFJ銀行 デジタル戦略統括部 コンサルティングGr
林田 敦志

三菱UFJ銀行 デジタルソリューション部 AI・ソリューションGr
平林 一輝

三菱UFJ銀行 トランザクションバンキング部 キャッシュプロダクト推進Gr
近江 秀徳

三菱UFJ銀行 市場企画部 ポートフォリオ運用室
柴崎 翔

三菱UFJ銀行 ウェルスマネジメントコンサルティング部
坂本 亜希香

一問一答から業務フローの組み込みへ

三菱UFJ銀行 トランザクションバンキング部 キャッシュプロダクト推進Gr 近江 秀徳
(三菱UFJ銀行 トランザクションバンキング部 キャッシュプロダクト推進Gr 近江 秀徳)

Q. まずはJinbaを導入した背景や狙いを教えてください。

平林:銀行では2023年に対話型AI「AI-bow(アイボウ)」を導入しました。AI-bowはアイデア出しや文章の要約などに活用できる一方、複数の工程を連続して実行し、成果物の作成までを行うような複雑な業務には限界がありました。APIを使って実現する方法もありますが、それには専門的なスキルが必要です。定型業務の多い銀行では、現場の担当者自身がAIを活用し、業務改善に取り組める環境を整えることが必要だと考えました。そこで自然言語でワークフローを構築し、現場主導で業務改善に取り組める「市民開発」の基盤としてAIエージェントのノーコード開発基盤「Jinba」を導入しました。

林田:Jinbaの活用支援では、一度に大きな変革をめざすのではなく、まずは効果が見込める領域から取り組み、成果を積み重ねながら活用範囲を広げていく「クイックウィン」を重視しています。その中で、現場の伴走役であるカスタマーサクセスが大切にしていることは、特定のツールありきで進めないことです。まず業務プロセスや課題を整理し、AIを使うべき工程と、人が判断すべき工程を切り分けます。その上で、Jinbaが適している場合には、どの部分をワークフロー化すれば効果を発揮しやすいかを業務部門と一緒に具体化します。
初期のサンプルフローやプロンプト例はカスタマーサクセスが用意しますが、その後の検証や改善は業務部門に主体となって進めてもらいます。完成形を一方的に提供するのではなく、現場が自ら改善できる状態をつくることで、実際の業務に定着する仕組みになると考えています。

自然言語から計算式を組み立て、正確な処理を実現

三菱UFJ銀行 デジタル戦略統括部 コンサルティングGr 林田 敦志
(三菱UFJ銀行 デジタル戦略統括部 コンサルティングGr 林田 敦志)

Q. 実際の現場では、「Jinba」をどのように活用されていますか?

近江:トランザクションバンキング部が提供する大企業向け海外キャッシュマネジメント商品の一つにGlobal Payment Hub(以下、GPH)がございます。GPHはお客さまが利用するERP(基幹業務システム)やTMS(財務・資金管理システム)と当行システムを直接接続し、お客さま側で生成する送金データや入出金明細をHost to Hostでやり取りを可能にする商品です。お客さまのERPから直接受け取る送金データの形式がそれぞれ異なるため、当行システムで取り扱い可能な形式かどうかを事前に確認する必要があります。その確認作業の効率化にJinbaを活用しております。当初はチャット型AIの活用も検討していましたが、複数の異なる工程(送金データチェックとチェックレポート作成)の自動化ができず、実現には至りませんでした。
その後、Jinbaのリリースに伴い、デジタル戦略統括部より「チャット型AIでは難しかった複数の工程のワークフロー自動処理が可能かもしれない」と提案を受けたことが活用のきっかけです。現場の意見を出し合いながら、PoC(概念実証)で改善を重ねた結果、最初の2ヵ月ほどで業務適用の目途が立ちました。精度についても当初の目標だった80%を超え、90%近くまで高めることができ、PoC完了後にさらに実務での約4ヵ月の導入検証を経て正式に現場業務への導入を開始しました。自然言語により業務部門自身が改善を重ねることで、長年の課題であった作業負荷の重い業務の自動化ができたと実感しています。

坂本:「どうすれば実現できるか」を業務部門自身がJinbaに壁打ちできるのは大きな魅力ですよね。一方でプロンプトの工夫など、必要に応じてカスタマーサクセスにアドバイスをもらいながら進められる体制も心強いです。

近江:まさに今回の取り組みでは、デジタル戦略統括部がわれわれ業務部門の取り組みに伴走いただき、助言をいただけたのが非常に大きかったです。社内にさまざまなプラットフォームがあることは知っていましたが、それぞれの違いや実現可能性などは、私たちだけでは判断できませんでした。PoCもトライ&エラーの連続でしたが、不明点があればその都度、相談を重ねることで比較的短期間で実用化ができました。

坂本:ウェルスマネジメントコンサルティング部では、「各帳票を読み取り、情報を整理し、資料を作成する」という一連の工程を、Jinbaが一気通貫で行うワークフローとして構築しました。特に可能性を感じたのは、文章読解に基づく計算です。他のAIでは難しかったのですが、Jinbaは計算力が高く、毎回安定した結果を出せる点に魅力を感じました。正答結果をもとに行う後続作業の精度にも影響するため、業務に活用できると思いました。処理スピードも速く、従来は90分ほどかかっていた作業を15分程度まで短縮できています。

柴崎:ポートフォリオ運用室では、ローン担保証券(CLO)へ投資する際の条件交渉でJinbaを活用しています。CLOは目論見書にストラクチャーやリスク制限等に関する条件が定められており、案件ごとに都度、CLOの運用を担うマネージャー及びエクイティ投資家を相手に条件交渉を行います。CLOの目論見書は英文で数百ページに及び、また当行が独自に定めた交渉ポイントも300超あるため、条件交渉には多くの時間を要します。そこでJinbaを活用し、目論見書が当行の求める条件や基準を満たしているか、また過去案件から変更箇所があれば、その変更が当行にとって有利か不利か、さらに不利ならどのような修正案を交渉すべきかをAIに判断させることで、条件交渉の効率化と高度化を目指しています。

近江:条件によって処理が分岐し、その先の提案まで行うわけですね。そうした複雑な判断を組み込めるのでしょうか?

柴崎:フローの構築には、かなり試行錯誤しました。Jinbaは数値で示せる条件や基準はスムーズに処理できる一方、文章を伴うものは少し表現が変わるだけで、こちらの意図と異なる回答になることがあります。「どう書けばJinbaが当行の求める条件や基準を正しく理解できるか」を検証し、曖昧な表現等を見直した結果、当初40%程度だった精度を85%程度まで高めることができました。実務で安定的に使うために、さらに精度を高めることが今後の課題です。

坂本:「どう精度を高めるか」は共通のテーマですね。「処理する」「判断する」「結果に応じて次の処理へ進む」といった習慣化した工程も、分解すると複雑に連なっています。Jinbaとの壁打ちを通じて、業務そのものを掘り下げ、整理することで、精度が上がっていくのを体感しました。

近江:精度という意味では、どこまで追求するかも難しいですよね。
私たちは精度100%の実現にはさらに相応の時間が必要になると考え、実用化に耐え得る90%の水準でJinbaの現場導入を判断しました。チェックし切れない残り10%分は引き続き目視確認が必要となりますが、それでも確認工程の所要時間は半減以下に短縮できており確かな成果を感じています。引き続き精度100%に向けての機能改善も進めていくとともに、別の業務への横展開も検討を始めております。坂本さんは、どの段階で現場業務での利用開始に踏み切るかの判断で迷うことはありませんでしたか?

坂本:フローのつくり込み次第で精度が上がるのはわかっていても、どこまで開発に時間を割くか、その見極めは難しいですよね。小さな単位で「プチ開発」を重ね、実務で使えるフローを少しずつ増やして、組み合わせていきたいと考えています。銀行では新しい仕組みを導入する際にリスクや管理面の確認が不可欠ですが、Jinbaは用途を明確にした上でリスク評価を行い、段階的に開発できる点でも銀行業務と相性がいいと感じています。

業務効率化を通して「質」の向上にも貢献

三菱UFJ銀行 ウェルスマネジメントコンサルティング部 坂本 亜希香
(三菱UFJ銀行 ウェルスマネジメントコンサルティング部 坂本 亜希香)

Q. 今後、どのようにJinbaの活用を展開していきたいですか?

近江:理想は一つのワークフローでMUFGが展開する海外拠点網の全送金データに対応したいのですが、作成の難易度が高いことから現段階では出金口座の所在国別若しくは地域別でワークフロー作成を進めています。将来的には一つのワークフローで全世界の送金データに対応できるようにし、リードタイム短縮効果の最大化を目指しています。対応可能国の拡大により国内外の法人のお客さまからの契約社数が年々伸び続けている中で、業務量が拡大しても大幅な人員増に頼ることなく対応できる社内体制の構築に寄与するのではないかと考えております。

柴崎:ポートフォリオ運用室でも、現在は目論見書の受領から、CLOマネージャーやエクイティ投資家との交渉完了まで相当な時間を要しています。所要時間を短縮することができれば、単なる業務効率化にとどまらず、良質な投資機会へのアクセスを増やすことで、収益拡大にもつなげられます。また、 AIによって人が見落としていた観点を補うことや、担当者によるチェック品質のばらつきを抑えることも期待できます。精度やリスク管理の水準を維持しながら、業務全体の質を高めていきたいですね。

坂本:ウェルスマネジメントコンサルティング部では、お客さまからお預かりした情報を丁寧に読み解き、分析する工程が欠かせませんが、資料の読み込みや整理などAIが秘書役としてこうした事前準備をサポートすることで、よりじっくりと検討に力を注げます。Jinbaは当行の業務に合わせて必要な機能をアップデートできる点も心強く、「どう使いたいか」を発信しながら、活用範囲を広げていきたいですね。

事例を横展開し、AI Nativeな組織へ

三菱UFJ銀行 デジタルソリューション部 AI・ソリューションGr 平林 一輝
(三菱UFJ銀行 デジタルソリューション部 AI・ソリューションGr 平林 一輝)

Q. MUFG全体で市民開発を広げるためには、どのような取り組みが必要だと思いますか?

林田:行内にはAIで効率化できる業務がまだたくさんあると感じています。今回のような事例を発信し、「自分たちの業務にも使えるのでは」と気づいてもらうことで、新たなユースケースにつなげていきたいです。また、現場の課題やニーズを吸い上げ、プロダクト側へ還元することもカスタマーサクセスの重要な役割です。事例の横展開と相談窓口の認知拡大を通じて、現場発のAI活用をさらに広げていきたいです。

近江:トランザクションバンキング部内でも今回のわれわれの取り組みを共有し、他グループへの横展開の余地も検討しています。加えて、現在のユーザーは情報統制の制約などにより国内ユーザーに限定されていますが、将来的には海外拠点での利用も可能とできればグローバルでのサービス提供水準の向上に資すると期待しています。チェック結果レポートの自動作成も日本語版のみならず英語版の実用化に向けても準備を進めております。

柴崎:ポートフォリオ運用室でも今回の事例に限らず、様々な投資運用業務でAI活用を進めています。そうした事例を共有することで、これまで十分に対応できていなかった領域にも適用範囲を広げ、様々な業務の効率化と高度化につなげていきたいです。将来的には、同様の業務に従事するMUFGのグループ企業にも展開していきたいと考えています。

坂本:業務をよく知る自分たちが直接開発に取り組めると、変化も捉えやすく、高度化する業務へも対応しやすく、スピード感も出せます。業務フロー単位で共有する仕組みを使って、将来的には国内拠点にも広げていきたいと考えています。

平林:AIを本格的に活用するには、成果物の安定性が重要です。将来的には、自律型AIとワークフロー型AIを組み合わせることも検討しています。自律型AIは柔軟に対応できる一方、同じ指示でも回答が異なるなど、まだ精度や安定性に課題があります。その点、あらかじめルールや処理の流れを定めるワークフロー型のAIエージェントは、安定した成果を得やすく、実務との相性も良いと考えています。例えば、ユーザーの指示を自律型AIが受け取り、内容に応じて適切なワークフローを選択し、その結果をユーザーに返す。そうなれば、使う側は細かな処理を意識せず、AIに依頼するだけで安定した成果が得られるようになります。そうしたアップデートを追求し、AI Nativeな組織への変革をさらに推進していきたいと思います。

三菱UFJ銀行 市場企画部 ポートフォリオ運用室 柴崎 翔
(三菱UFJ銀行 市場企画部 ポートフォリオ運用室 柴崎 翔)

Profile

※所属・肩書は取材当時のものです。

三菱UFJ銀行 デジタルソリューション部 AI・ソリューションGr 平林 一輝

三菱UFJ銀行 デジタルソリューション部 AI・ソリューションGr

平林 一輝

大学卒業後、通信会社に約10年間勤務、前半の5年間はネットワーク運用保守、後半5年間はR&Dに携わる。2024年2月、三菱UFJ銀行入行。AI-bowの基盤拡張、およびAIを使った社内サービスの企画を担当。

三菱UFJ銀行 デジタル戦略統括部 コンサルティングGr  林田 敦志

三菱UFJ銀行 デジタル戦略統括部 コンサルティングGr

林田 敦志

大学卒業後、通信会社およびコンサルティングファームにて、一貫してデータ・AI活用領域に従事。2025年1月に三菱UFJ銀行へ入行。現在は、行内での生成AI活用の拡大に向け、各部門の業務課題を起点としたユースケースの創出やPoC推進、実装支援、定着化に取り組んでいる。

三菱UFJ銀行 トランザクションバンキング部 キャッシュプロダクト推進Gr 近江 秀徳

三菱UFJ銀行 トランザクションバンキング部 キャッシュプロダクト推進Gr

近江 秀徳

法人営業、トランザクションバンキング部、海外駐在2拠点などの勤務を経て2024年7月より現職。
キャッシュプロダクト商品のクライアントサービスや商品導入支援業務のチームリーダー。
長年の課題であった作業負荷の高い業務の効率化を目指して行内のAI活用業務支援の公募にエントリーしたことを契機に、今回のJinba導入プロジェクトを推進。

三菱UFJ銀行 ウェルスマネジメントコンサルティング部 坂本 亜希香

三菱UFJ銀行 ウェルスマネジメントコンサルティング部

坂本 亜希香

国内拠点・拠点部、信託銀行への出向などを経て現職。
WM業務におけるAI活用をめざし今回のJinba導入プロジェクトに参加。

三菱UFJ銀行 市場企画部 ポートフォリオ運用室 柴崎 翔

三菱UFJ銀行 市場企画部 ポートフォリオ運用室

柴崎 翔

2019年4月、三菱UFJ銀行入行。川崎支店で3年間中堅・中小企業営業を担当。2022年2月よりMUFG米州統括室/米州総合管理部米州統括室で米当局対応およびAI/DX活用推進を担当。社内公募制度を活用し2024年10月より現職。CLO投資の主担当として、戦略策定、案件選定、条件交渉、投資実行、モニタリングなどを担う。