[ ここから本文です ]

アセットマネージャーとしての気候変動/TCFDへの取り組み

アセットマネージャーとしての気候変動/TCFDへの取り組み

外部環境認識

気候変動対応の必要性

気候変動は、私たちの生活に多大な影響を及ぼす地球規模の喫緊の環境課題であるとともに、その他の環境や社会の問題にも関連するサステナビリティ課題です。そのため、お客さまや投資先における事業の継続、そして企業価値向上のためには、気候変動への取り組みが不可欠であると考えています。私たちはアセットマネージャーとして、気候変動のもたらす「リスク」と「機会」を適切に捉え、さまざまなステークホルダーと協力し合い、投資先との対話(エンゲージメント活動)等を通じ、脱炭素社会への円滑な移行、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

MUFG アセットマネジメントの取り組み

MUFG AMサステナブルインベストメントの立上げ

2023年4月にMUFGアセットマネジメント(注)は、MUFG AMサステナブルインベストメント(以下、MUFG AM Su)として活動を開始しました。サステナブルな未来の実現をめざし、長期的に運用資産への影響が大きい課題の解決に向けて優先的に取り組みを進めています。中でも資産運用における重大テーマとして気候変動を掲げており、対応の一つとして「Net Zero Asset Managers initiative」(以下、NZAM)への参画を通じてネットゼロ実現に取り組んでいくことを表明するとともに、サステナブル投資を通じた脱炭素社会への移行(トランジション)をめざしています。

  1. MUFG アセットマネジメント(以下、MUFG AM)は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下 MUFG)のアセットマネジメント会社である三菱UFJ信託銀行株式会社、およびその子会社である三菱UFJ国際投信株式会社、MU投資顧問株式会社、Mitsubishi UFJ Asset Management (UK) Ltd.、三菱UFJオルタナティブインベストメンツ株式会社から形成されるブランド名です。
MUFG AMサステナブルインベストメントの立上げ

MUFG AMによるエンゲージメントアプローチ

MUFG AMによるエンゲージメントアプローチ
MUFG AM Suでは3つのエンゲージメントアプローチ(テーマ別エンゲージメント、協働エンゲージメント、パブリックエンゲージメント)に沿って、エンゲージメントを行います。
<テーマ別エンゲージメント>
テーマ別エンゲージメントにおいては、豊富な運用経験をもつアナリストと、サステナビリティ領域に関する専門人材であるリサーチオフィサーが、MUFG AMの重点テーマである気候変動、生物多様性、人権、健康と安全の4つのテーマを中心にエンゲージメントを行います。まずは最優先テーマである気候変動に関して、企業のGHG排出量(Scope1+2)や投資額を勘案して選定したエンゲージメント対象50社に対し、建設的な対話を行います。
<協働エンゲージメント>
協働エンゲージメントにおいては、重点テーマに関連するイニシアティブへの参画を通じて、国内外の運用機関と協働・連携して投資先に対するエンゲージメントを実施します。具体的には、Climate Action 100+を中心として、IAST APAC、Access to Nutrition Initiative等の活動を推進します。
<パブリックエンゲージメント>
パブリックエンゲージメントにおいては、サステナビリティ課題の解決に向けて、政府機関および金融市場のステークホルダーに対する直接的・間接的な提言を行います。とりわけ、GFANZやPCAFでの活動を通じ、ダイナミックに変化するグローバル金融の潮流を捉え、変革を促すルールメイキングに積極的に関与していきます。

イニシアティブへの参加

気候変動テーマにおいては、PRI、Climate Action 100+、TCFD、CDP、AIGCC、NZAM等のイニシアティブに参画し、最新の国内外のサステナビリティ動向に関する情報収集、金融機関やステークホルダーとの関係構築、目標設定と情報開示、ルール提言等の活動を行います。GHG排出量計測においては、Science-Basedの目標設定の検討や、リスクや機会の分析の高度化を進めていきます。
イニシアティブへの参画

NZAM中間目標の設定

MUFG AMとして、2021年11月に資産運用会社によるグローバルなイニシアティブ「NZAM」に参画し、パリ協定で合意された1.5℃目標を達成するため、2050年までに投資先企業のネットゼロの実現に取り組んでいくことを表明しています。2030年の中間目標は、運用資産の55%を対象とし、その経済的原単位あたりのGHG排出量(絶対排出量(tCO2e)/運用資産残高)を2019年対比で50%削減するものです。2050年までのネットゼロ達成に向けて、MUFG AMの連携を一層強め、MUFG AM Suが中心となって横断的な取り組みを推進します。また、2050年までのネットゼロ達成に整合した投資商品の開発にも取り組み、気候変動問題の解決に資する投資を促進する方針です。加えて、今後、2年ごとに中間目標の見直しを行い、運用資産の100%をカバーするまで対象資産の割合を段階的に引き上げることを検討しています。

アセットマネージャーとしてのTCFD対応

MUFG AMは、アセットマネージャーとしてTCFDに賛同し、受託しているポートフォリオに対して気候変動のもたらす影響や、投資先の気候変動対応状況を分析・評価する取り組みを進めています。MUFG AMは、TCFDが推奨する、気候変動関連のリスクおよび機会に関する主要4要素(「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」)に沿って開示するとともに、投資意思決定への気候変動の影響の考慮や、投資先の気候変動対応を促すことで、気候変動問題の解決、持続可能な社会の発展に向けてアセットマネージャーとして貢献します。

 

<各社開示資料へのリンク>

● 三菱UFJ信託銀行株式会社 – 責任投資報告書

● 三菱UFJ国際投信株式会社 – サステナビリティレポート

● MU投資顧問株式会社 – TCFD提言への取り組み

気候変動に関するデータ

パリ協定への整合性

GHG排出量の測定にあたっては、S&P社を通じたデータ収集および分析手法により算出しています。ポートフォリオのGHG排出量について、パリ協定と整合する許容GHG排出量(カーボンバジェット)と2030年までのMUFG AMポートフォリオの排出量を分析した結果、当ポートフォリオはカーボンバジェットを下回り、1.5℃水準と整合的であることを確認しています。ポートフォリオのネットゼロ実現に向けて、投資先企業をモニタリングし、エンゲージメントを通じてGHG排出量の削減に向けて働きかけていきます。

GHG排出関連指標

GHG排出量に関する分析の結果、MUFG AMの統合ポートフォリオ(注)におけるGHG排出量は16.83百万t- CO2eであり、国内債券、国内株式、外国債券については当ポートフォリオの数値がベンチマークを下回ることが確認できました。外国株式がベンチマークを上回った要因は、業種配分において公益事業へのエクスポージャーが相対的に大きいことがあげられます。
MUFG AMの統合ポートフォリオにおけるGHG排出量
 

GHG総排出量

(Scope1~2:百万tCO2e)  

炭素強度(経済的原単位)

(tCO2e/百万米ドル)

加重平均炭素強度

(tCO2e/百万米ドル)

全体 16.83 70.38 115.31
GHG排出関連指標
  • GHG排出量(Total Carbon Emissions):ポートフォリオに関連したGHG総排出量
  • 炭素強度(経済的原単位):GHG総排出量を、ポートフォリオの時価で割った値
  • 加重平均炭素強度(WACI - weighted average carbon intensity):ポートフォリオの構成比率に応じて投資先企業の売上当たり原単位排出量を加重平均した値
MUFG AMの資産別ポートフォリオにおけるGHG排出量
 

GHG総排出量

(Scope1~2:百万tCO2e)  

BM

炭素強度(経済的原単位)

(tCO2e/百万米ドル)

BM

加重平均炭素強度

(tCO2e/百万米ドル)

BM

国内債券 1.51 89% 186.34 73% 284.43 74%
国内株式 11.78 91% 77.92 92% 90.60 96%
外国債券 0.11 45% 38.78 52% 120.32 54%
外国株式 4.10 117% 53.10 118% 146.03 108%
<ベンチマーク(BM)>国内債券:NOMURA-BPI(総合)のうち事業債のみ、国内株式:TOPIX配当込、外国債券:ブルームバーグ・グローバル(総合)のうち事業債のみ、外国株式:MSCI KOKUSAI
  1. 三菱UFJ信託銀行株式会社、およびその子会社である三菱UFJ国際投信株式会社、MU投資顧問株式会社、Mitsubishi UFJ Asset Management (UK) Ltd.

移行リスク

S&P社は、移行リスクの定量的評価としてカーボンアーニングスアットリスク分析(Carbon Earnings at Risk Analysis)を提供しています。これは、脱炭素化が予想される将来の炭素価格の変化が、企業に対してどの程度追加的なコスト(Unpriced Carbon Cost)をもたらすのか分析するモデルです。

ここでは、GHG総排出量の最も多い国内株式を対象にシナリオ分析(注)を行いました。グラフはMUFG AMの国内株式のポートフォリオと、ベンチマークを比較したものを表示しています。これによると、ポートフォリオ企業はどの時点においてもベンチマークよりも低い水準の影響にとどまることがわかります。

  1. パリ協定における2℃目標を達成するのに十分な政策が導入されることを想定したOECDおよびIEAの研究に基づいた推計シナリオ
時点別Unpriced Carbon Cost
時点別Unpriced Carbon Cost
業種別Unpriced Carbon Cost
業種別Unpriced Carbon Cost
またS&P社のツールを使用することで、ポートフォリオ構成企業のエネルギーミックスについて、パリ協定への整合性を評価することができます。以下のグラフは2023年3月末時点のポートフォリオ(国内株式)およびベンチマーク(TOPIX)のエネルギーミックスと、各時点におけるIEAが推計する2℃シナリオと整合的なエネルギーミックスを各時点で示しています。2050年に向けては、化石燃料の利用縮小と再生可能エネルギーの利用拡大が期待されています。MUFG AMでは、エンゲージメントを通じて、投資先企業のトランジションを支えていきます。
ポートフォリオのエネルギーミックスの現状
ポートフォリオのエネルギーミックスの現状

物理的リスク

S&P社では、気候変動がもたらす沿岸洪水、河川洪水、極端な猛暑、極端な寒冷、熱帯低気圧、森林火災、水ストレス、干ばつの8つの主要な物理的リスクを分析し、スコア化しています。以下のグラフ(注)はMUFG AMのポートフォリオにおいて最も多くのGHG排出量を占める国内株式がさらされる物理的リスクのスコアを業種別に比較したものであり、Utilities (公益事業)と Materials(素材)において特に物理的リスクが高いことを確認しました。
業種別物理的リスクスコア
業種別物理的リスクスコア
  1. IPCCのレポートで用いられるSSP5-8.5シナリオ(2075年までにGHG排出量が3倍となり、2100年までに気温が3.3-5.7℃程度上昇する低緩和シナリオ)を使用し、2050年代のリスク量を計測
それぞれの業種に対する物理的リスクについて、ポートフォリオへの影響度を確認するため、保有ウェイトを勘案して構成比を集計しました。資本財(Industrials)、一般消費財サービス(Consumer Discretionary)、情報技術(Information Technology)といった一部業種の物理的リスクが大きい結果となりました。
業種別物理的リスクスコアのポートフォリオ構成比
業種別物理スコアのポートフォリオ構成比
また物理的リスクスコアを構成する要素であるハザード別スコアにおいては、河川洪水による物理的リスクが最も高いことが確認できる一方で、ベンチマーク(TOPIX)と比較した場合に極端な乖離は見られませんでした。このように、MUFG AMは物理的リスクの把握に努め、アロケーションやエンゲージメントの参考としています。
ハザード別スコア比較
ハザード別スコア比較
上記分析の通り、移行リスク、物理的リスクによって、リスクの大きい業種に違いがある結果となりました。これらの結果からも、業種の違いに応じたリスク管理が重要であることがわかります。MUFG AMでは、こうした業種ごとに異なるリスク特性を勘案し、個々の企業のマテリアリティを特定することによるESG評価の算出、エンゲージメント活動を実施します。

分析上の今後の課題

分析上の課題として、GHG排出関連指標の計測およびシナリオ分析を行う際には、企業の開示データが活用されていますが、実際にはその大部分が開示データではなく、推計値に依存していることがあげられます。国内企業においては約7割のデータは推計値に依存していることから、個別企業の排出量の状況について十分に把握できていない状況にあり、投資先企業に対して開示データの充実化を積極的に働きかけます。
GHG排出量計算に使用したデータソース構成(国内株式)
GHG排出量計算に使用したデータソース構成(国内株式)
VoH(Value of Holdings):運用残高による構成比、Instruments:銘柄による構成比

気候変動に関連するリスクと機会

気候変動は社会に負の影響をもたらし、脱炭素化のために企業は多くの追加コストを負担する可能性があります。そのため一見すると気候変動によるマイナス面ばかり目立つ傾向にありますが、同時に企業においては、新たな技術開発や、事業ポートフォリオの見直しによるビジネス拡大等、企業自身が成長する機会であると考えています。引き続き、投資先企業に対してさらなる情報開示を求めるとともに、エンゲージメント活動を通じて企業の気候変動への対応を後押しします。
(2023年10月現在)