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Power to Inspire Story

挑戦し続けるアスリートたちの物語

Vol.1 Sean Fitzpatrick

スポーツには、人生を変え、世界を変える力があると信じている

Sean Fitzpatrick
ショーン・フィッツパトリック

ラグビー元ニュージーランド代表
主将 ローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミー会長


スポーツには、ただ競い合い、楽しむだけでなく、人々を成長させ、社会をも変える力がある。スポーツを通して挑戦を続け、多くの人を奮い立たせてきたアスリートたち。彼らは何を考えながら戦い、そしてどんなヴィジョンをその胸に秘めているのか。
長年ラグビー ニュージーランド代表「オールブラックス」のキャプテンをつとめ、現在はローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミーの会長であるショーン・フィッツパトリック氏がその熱い思いを語った。
Sean Fitzpatrick
いい人間といいチームを作れれば、結果はついてくる

オールブラックスの伝説的なキャプテンと聞いていたので、とんでもない大男が来るのではないかと、少し身構えていた。しかし目の前に現れたショーン・フィッツパトリックは、身長183cmの“普通の大男”。それでも56歳となったいまでも、胸まわりの発達した筋肉は隠しようがなく、ジャケットのボタンを留めるのもきつそうだ。

「現役時代は今の倍くらいあったんだよ」

そう言って見せる笑顔は、初対面でも思わず気を許してしまう愛嬌と人間的な大きさを感じさせる。
1987年から12年間オールブラックスのメンバーとして活躍し、92年から引退する97年まではキャプテンをつとめた。そして現在は、世界中のレジェンドアスリートたちが集まるローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミーの会長。サッカーのフランツ・ベッケンバウアーや香川真司、テニスのジョン・マッケンローや杉山愛、さらにはジャック・ニクラウス(ゴルフ)、セルゲイ・ブブカ(陸上)、ミカ・ハッキネン(F1)、内村航平(体操)など錚々たるメンバーが集うこの団体の目的は、「スポーツの力で社会貢献活動を行い、より良い世界を作っていく」ことだ。

「いい人間が集まり、いいチームを作れれば、素晴らしい結果がついてくる。私はそのことをオールブラックスから学びました。アカデミーのメンバーもいちばん重要な条件は、“いい人間”であること。そしてアカデミーの活動を積極的に支援したいと考えてくれること。どんなスーパースターでも、“いい人間”と思えないようなアスリートやアカデミーの活動に関心のないアスリートは、メンバーに選ばないようにしています」

ローレウスの活動としてよく知られているのは、2000年に始まった「ローレウス・ワールド・スポーツ・アワード」の授与だ。世界的に活躍したアスリートや団体に贈られるこの賞は、“スポーツ界のアカデミー賞”として、これまでタイガー・ウッズやロジャー・フェデラー、ウサイン・ボルトらが最優秀賞を受賞している。だが、こういったアスリートの華々しい活躍をたたえるのは、その真の活動を世に知らしめる意味合いが強い。ローレウスの真ん中にあるのは、世界の各地にいまも残るさまざまな問題に取り組む「ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団」の活動だ。
Sean Fitzpatrick
胸に秘めたネルソン・マンデラの言葉

「私は2005年に、内戦が終わったばかりのシエラレオネにラグビーボールを持って行きました。この国の子どもたちは、内戦の間は“人間の盾”になることもあった。だから私はまず彼らに言ったんです。『君たちには、遊ぶ権利がある。笑顔になる権利がある。夢を見る権利がある』。ボールを持って走り回れば、それだけで嫌なことを忘れられる。もしかしたら人生が変わる可能性もある。私はスポーツには、人生を変え、世界を変える力があると信じているんです」

現在、40カ国で170のプロジェクトを通じて若者たちを支援している「ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団」。ショーンが心に刻んでいる言葉があるという。それは人種差別と戦い続けた故ネルソン・マンデラ南アフリカ大統領の「スポーツはそれまで絶望しか存在しなかった場所に希望の光を灯す」という言葉だ。

「香港では犯罪行為を繰り返す子どもに『真面目にラグビーをするなら刑務所には行かなくていい』と伝え、スクールで食べものと着るものを与える活動を行ってきました。嬉しいことに、そのスクールで更生した卒業生が警察官になったりしているんです。スポーツが生きるモチベーションを与え、人生のレッスンをしてくれる。スポーツの力で犯罪率を減少させられるし、識字率も上げられる。紛争の解決や失業率の改善にもつながる。特に子どもたちにとって、スポーツは未来に向かうための大きな力になりうるのです」

努力が“次”の道を切りひらく

スポーツは、私たちにどんなことを教えてくれるのだろうか?

「私自身のことでいうと、ラグビーは私に常に誠実であるべきだと教えてくれ、人生にヴィジョンを与えてくれました。それから一生懸命にがんばりあきらめないことの大切さ、勝つことの歓びと負けることの悔しさを。ときに敗北は、勝利以上にいろいろなことを教えてくれます。相手に対するリスペクト、謙虚さ、成長への意志、仲間への思い、自分自身の責任……。グッドルーザー(良き敗者)であることは、勝利を得るための重要な過程なんです。もちろん私は勝つことが大好きですけどね(笑)」

では、勝利を得るために必要なことは?

「楽しむことは重要です。でもそれ以上に必要なのが、努力と犠牲です。努力を重ね、自信をつける。自信に満ちたプレーはときに傲慢にも見えるかもしれない。むしろそれくらいの努力をすべきなのかもしれません。もちろんその傲慢さはフィールドの中だけにするべきですが。もうひとつ、勝つためには大きな犠牲をともないます。私は12年間のオールブラックス時代、常にチームが最優先でした。その間、家族には我慢してもらわなければならなかった。素晴らしい妻のおかげでラグビーに専念することができたんです(笑)。もちろん犠牲を払い、最善の努力をしたとしても、それが成功や勝利を約束してくれるわけではありません。私はこの活動を通して出会った子どもたちにも言うんです。『どんなにがんばっても君たちの99%は、スポーツでは成功できないだろう』と。ただ懸命に努力することは、スポーツ以外の道を見つけることにもつながる。だからがんばることは、絶対に無駄にならないんだって」

ショーンと「ローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団」の“挑戦”はこれからも続く。

「現在もさまざまなテーマの新しいプロジェクトをスタートしています。たとえば“ダイバーシティ”。北インドでは、10歳くらいの幼い女の子が親から結婚を強いられています。彼女たちは教育を与えられないので、字を読むこともできず、スポーツをすることもありません。私たちはこの女の子たちにサッカーを教え、教育を与えるという活動を支援し、男性社会の伝統に縛られた彼女たちの解放を試みています。このプログラムで、当初は全く英語を話せず自信もなかった少女が、たった3年後には堂々と大勢の前で、英語でスピーチができるまでになった例もあります。時代は変わり、取り組むべき問題も変わっていきます。それでもスポーツの力がなくなることは、絶対にありません。これからもスポーツの力で世界を変えるために、仲間たちとともにがんばっていきます」
Sean Fitzpatrick

Sean Fitzpatrick

1963年、ニュージーランド・オークランド生まれ。86年、オールブラックスのメンバーとしてデビュー。87年、ラグビーワールドカップ™に初出場し優勝を飾る。92年から97年の引退までオールブラックスのキャプテンをつとめる。ニュージーランド代表通算92キャップ。ラグビー界への貢献によりニュージーランド・メリット勲章を授与。2016年5月、ローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミー会長に就任。
Sean Fitzpatrick
文・川上康介 写真・淺田 創
── 私たちは、スポーツの力を通じて次世代を担う子どもたちを支援しています ──
MUFGのCSRの取組みについて
https://www.mufg.jp/csr

ローレウス・ワールド・スポーツ・アカデミー ホームページ(英語)
https://www.laureus.com/