Vol.2 Shohei Ohtani
昨日までできなかったことをできるようになる
ロサンゼルス・エンゼルス
スポーツには、ただ競い合い、楽しむだけでなく、人々を成長させ、社会をも変える力がある。スポーツを通して挑戦を続け、多くの人の心を奮い立たせてきたアスリートたち。彼らは何を考えながら戦い、そしてどんなヴィジョンをその胸に秘めているのか。
昨シーズン故障に苦しんだ大谷翔平は、今シーズンに二刀流の完全復活をめざす。日本同様、二刀流の選手としてメジャーに挑戦した彼は、日々の“小さな挑戦”を大切にしてきたと語る。
僕が挑戦しているのは、昨日までできなかったことをできるようになること
メジャーリーグ3年目。右肘、左膝の手術を経て、今シーズン二刀流の完全復活をめざすロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手。その笑顔からはリハビリの順調ぶりがうかがえ、否が応にも期待が高まる。ピッチャーとバッターの両方で頂点をめざし、日本でもアメリカでも、自分が信じた道を進み続ける大谷選手だが、彼にとってそれは、「すべてが延長線上」の出来事だという。
「物心付いたときからボールとバットを握っていて、子どものときからピッチャーもバッターもやっていました。今もそれがずっと続いている感じです。日本でプロになるとき、自分ではピッチャーに専念することになるんだろうなと思っていたんですが、球団(北海道日本ハムファイターズ)から両方でやってほしいと言われて、面白いなと。だから僕にとっての野球は、ずっと変わっていない。高校野球も日本のプロ野球も、メジャーリーグも、めざすゴールや練習方法、指導法などは変わっていますが、根本は同じなんです」
もちろん、他の選手とは異なる方法=二刀流で野球界の頂点に挑んでいるという意識はある。
「人と違うことをやっているので、誰かと比べるようなことはない。僕が挑戦しているのは、昨日までできなかったことをできるようになること。毎日、うまくいかないことに小さな挑戦を重ねてここまできたという感じです。このことは、もしかすると勝利以上に大きいことかもしれません。目標を立てて、それを達成するために練習して工夫して、成長する。それを実感できる瞬間がすごく好きです」
投げては160km以上の速球を操り、打ってはまるでピンポン玉のようにメジャー投手のボールをスタンドまで運ぶ。そんな大谷選手でも「うまくいかない」ことは少なくないという。
「どんな球を投げても打たれることはあるし、絶好球を打ち損じることもある。長いシーズンの中には、そんなスランプ的なことが続くこともあります。でもそれも含めて自分の実力。悔しい思いをするから練習する。うまくいかなければ修正すればいいし、スランプが来るならそれに備えればいい。それだけの技術と体力をつけた選手になればいいと思っています」
彼は、その野球一筋の人生から様々なことを学んでいるようだ。
子どもたちには、まず自分の好きなことを見つけてほしい
「いまは球団が主催するチャリティイベントなどに参加したりしていますが、いつか“それなり”の選手になったら、自分自身でも社会貢献活動などをしたいと思っています。でもまずはプレーでメッセージを伝えたい。僕は小さいときから好きな野球を続け、それが自分の仕事になった。すごく幸運だったとは思いますが、好きだからこそここまで来られたとも思っています。だから、特に子どもたちには、まず自分の好きなことを見つけてほしい。スポーツでも勉強でも、他のことでも構わない。一つでも多く好きなことを見つけることができたら、つらいことにも耐えられるし、自分の可能性を信じることができると思いますから」
大谷翔平の挑戦はまだ始まったばかりだ。たくさんのファンが、紡がれていく二刀流の伝説を楽しみにしている。